第19話 姉の希求
6月17日月曜日、朝の教室に僕がポツンと佇んでいる。
『今日もここだけは静かに時間が流れていいよなぁ』
すると扉をガッと開ける音が鳴り響き、僕の豊かな時間は瞬く間に破壊された。
「おはよう、俊。昨日はよく眠れたでしょ」
耳で分かる。明らかに香織だった。
「おはよう。今日も元気ハツラツだな」
「それで、昨日のデートはどうだった?」
「びっくりするぐらい安定していたよ。あれは相当計画練られていたな」
「……俊。美紀に変なことはしていないでしょうね?」
香織はニヤッと微笑んで、覗くようにこちらを見る。
「まさか……。中学生に手を出すほど捻くれてはいないから」
「そう、それはよかった」
『……手を出したらお前に殺されるだろ』
香織は当たり前かのように僕の机上に座って、腕を組みながらこう告げる。
「……私の性格、よく知っているでしょ?」
「あぁ、嫉妬深くて熱しやすく冷めやすい。依存しやすく扱い面倒……こんなもんか?」
「そ、そこまで細かく言えなんて言っていないわよ!」
「まぁ、それだけお前のことはよく理解しているんだから」
香織はなぜだか少し顔を赤らめる。
「……だから、私ともデートするの」
「だ、誰が……?」
「俊に決まっているでしょ!」
香織は爆音でそう呟くので、通りかかった他のクラスの人間を立ち止まらせてしまった。一人の女子がぼーっとこちらに視線を向ける。
「お、お邪魔だったかな……?」
女子がそう言うので、僕は「いや、むしろありがとう」と言っておいた。
「ちょっと、それどういうこと! 待って、あなたも帰らないで!」
放課後、香織がまた一緒に帰宅しようと言うので、僕は「人が捌けるのをまってほしい」と頼み込む。そうして約十五分間、教室で待機したのち、僕らは帰路についた。
「お前、勉強が伸び悩んでいるよな」
「ギ、ギク……」
香織は僕の言葉に、武者震いのような震えを見せる。
「そ、そんなこと……そんなこと」
「あるよな?」
「……ないことはないわね」
「いや、あるんだよ……」
『……交換条件どうすっかなぁ』
僕は頭を駆け巡らせて、最後にはこんな案を導き出した。
「次の定期テストで赤点を取るな。それが、デートをする場合の条件だ」
「そ、それでいいの!?」
「それすらできないんじゃないのか……?」
「図星過ぎてもはや清々しいわね」
「開き直るな!」
そうして微笑した香織は、やがてこんな言葉を続ける。
「頑張る理由ができたわ。ありがとう」
「それならなによりだけど……」
ここで、僕は妹の方にも尋ねたある疑問を姉の方にも投げかける。
「……それにしても、なんで僕なんだ?」
「なんでって?」
「他の男でもいいだろうよ……。お前みたいな美人なら誰でも食いつくだろうし」
僕はただ互いをよく知っているだけで、デートにまで発展する意味がよく分からなかった。
「場数よ」
香織は比較的早くに答えを言った。
「ば、場数?」
「一緒に話をした回数よ。信頼ってそういうところで培われるものだから」
「……信頼できるからデートするのか?」
「そうよ。俊は私の誇りだから」
『……なんで。これじゃあ、僕が香織を奪い取ったみたいじゃないか』




