第18話 保留にさせて
小樽の駅に移動した僕らは、運河のある南の方に歩みを進める。
「食べては歩いて。今日の私たち、凄く健康的ですね!」
「そうかもな」
すると道中、美紀はしんみりした様子になって、唐突にこう告げてきた。
「……ごめんなさい」
「な、なに謝っているんだよ?」
「私……男性との交友がないので、なにがデートの正解か分からないんです」
「上出来だよ。よく計画を練っている方だ」
「……本当ですか」
「ここで嘘をつく必要もないだろ」
彼女は口元をギュッとして、笑顔に近いなにかを見せていた。そこには決意の類が含まれているような、そんな気がした。
『まさか……そんなことはないよな』
運河にやってくると、訪日外国人で賑わいを見せていた。そんな無数の人の中であっても、美紀の笑い顔は外せなかった。
運河の周囲を一通り、散策し終えてまた有名な橋の上に戻ってくると、美紀はまたなにか言いたげな素振りを見せる。
「ちょっとだけ……いいですか?」
「……なんだ?」
このとき、僕が身構えたことはとても正しかった。
―――私……俊さんのことが好きです。私と付き合ってくれませんか。―――
『遂に来たな。それにしても……ちょっと早すぎるだろ!』
いつか来る予感はしていた。だが、僕も全く対策をしていないわけではなかった。
「保留にさせてくれ」
僕は即答した。香織との約束以前の問題があったからだ。
「……それって、望み薄なパターンじゃないですか」
「そんなことはない。ただ、あまりにも時期が早すぎる」
僕は言い訳をいくつも考えていた。常識的に考えれば、たかが二歳差で年齢云々だなんて謳っていられなかった。
「……たしかに、まだ十五は若いと思いますけど」
「違う。出会ってから日が浅いってことだ」
美紀とは出会ってからまだ一ヶ月。気が熟さないまま付き合っても、理想との乖離に苦しめられるだけだと知っていた。偶然にも、それを教えたのは姉の香織だった。
「それに第一、お前は受験生だ。あんまり恋愛なんかに現を抜かしていられないからな」
「本当に……それだけですか?」
「当たり前だ。お前ほどの美人を彼女にするなんて、おこがましいにもほどがある」
美紀は首を少し傾けて、少し呆れを含んだ笑顔を作る。
「……やっぱり俊さんは謙虚ですね」
「寄り添えているなら、それでもいいよ」
「やっぱり、そういうところも大好きです」
美紀はまた屈託のない笑みをした。
「め、面と向かってはっきり言うなよ……」
「まぁ、私が高校生になったら、楽しみにしていてくださいよ」
「な、なにがだよ……」
「ヒ・ミ・ツ!」
美紀は一瞬だけ小悪魔と化して、僕を最高にからかっていった。この関係が続いてくれることを、僕は切に願っていた。
峠を超えてからの時間はあっという間に過ぎ去っていき、オルゴール制作から蒲鉾の購入、市場の散策なんかもして、無事に夕刻を迎えることになった。
「オルゴールに蒲鉾、海産。今日は収穫がいっぱいです!」
「そうだな」
喜ぶ美紀の横顔は、姉との約束も忘れてしまいそうなくらい魅力的だった。
「……私、勉強頑張ります」
帰り際、そう健気に言う美紀に、僕もこんな言葉でエールを送った。
「またデート、楽しみにしているからな」
「は、はい!」
『……これでいいんだ』




