第17話 妹とのデートフェーズ
6月16日日曜日、遂に美紀とのご褒美デート当日を迎えた。天候は晴れ。北海道としては普通のことだが、今日だけは美紀の方から、ただならぬ豪運を感じていた。
「お、おはようございます!」
美紀はいつも通りに可憐な姿をして、ミニなスカートを纏っている。完全に狙い研ぎ澄ました格好だった。
「きょ、今日はお日柄もよく……」
「……なんでお前がそんなにたじろいでいるんだよ」
「だ、だって、失敗は許されませんし……」
「僕は許すけどな」
「私が許しません!」
相変わらず元気な美紀の姿を拝んだ僕はにっこり微笑む。すると、美紀もその後を追随するように笑顔を轟かせる。
「じゃあ、行こうか」
「……今日一日、よろしくお願いします」
「あぁ、よろしくな」
僕らは電車を二本乗り継いで小樽を過ぎて、然別という駅にやって来た。
『……こ、これ、どこに行こうとしているんだ?』
仁木の駅を過ぎてしまうので、僕は「お、降りないのか!?」と美紀に尋ねてしまった。
だが、頑なに「まだ降りません」と言う美紀の言葉を信じ、はるばる仁木の奥地を訪れたのだった。
「し、市街地じゃなかったのか?」
「えぇ、そうですけど?」
「なんでこんな終点に……」
「ふっふっふ。じきに分かりますよ」
数分歩むと、やがて中規模な商業施設が目に入った。外には大きなお椀があって、僕はここがなんの施設か、検討もつかなかった。
「ここは……なんの施設だ?」
「はい! きのこの楽園です!」
辿り着いたここは、きのこ専門の飲食店だった。入口から「きのこ汁」という文字が嫌でも目に焼きつく。
「どこでこんなところ知ったんだよ……」
「……昔、一度だけ家族で来たことがあるんですよ」
「あぁ、それで……」
「ですが、今回のデートでそれを上書きしようと思います!」
僕は至って真面目な顔をして、美紀の言葉に一言だけ物申す。
「上書きはしなくていいと思うけどな」
「……どうしてですか?」
「記憶から消す労力が無駄だからな。嫌な思い出じゃないなら尚更な」
美紀はその言葉にしみじみした様子で、「別枠に記憶しておきます」と言った。
「そうだ、それでいい」と言うと、美紀は口を綻ばせてにっこりと笑った。
「それにしても美味しいな、このきのこ汁」
「そうですね。懐かしい味がします」
僕に美紀から、記憶の一部を共有してくれているような気がした。少なくともそうでなければ、ここは初めてのデートの最初に来る場所ではなかった。
『……絶対にインパクトに残るよな』
「お前のセンスには感服するよ」
「私の感性を……好きになってください」
「あぁ、そうするよ」
食事を済ませた僕らが次に降り立った先は、りんごにウイスキー、宇宙飛行士などで有名な街、余市だった。
「僕らにウイスキーはまだ早いしな」
駅から少し歩いた先にある、ウイスキーの蒸留所を横目にそう呟いた。
「……ウイスキーはいらないです。それよりも、りんごです!」
「りんごってまだ旬じゃないだろ?」
「加工品ならどうにかなりますから!」
そう言って向かった先は、地元のりんご製品を専門に売る、りんご工房だった。
「りんご、好きなのか?」
「え、普通ですけど……?」
「じゃあ、なんでここに来たんだよ……」
「知らないものを知ってみたかったから……ですかね」
「余市のりんごは有名だけどな」
入店すると、メニューにはりんごをふんだんに使ったスイーツだったり、安牌にジュースだったり、とにかく美味しそうな商品が載っていた。
「なんというか……私、いま幸せの中の幸せにいます」
注文を終えて、店内を舐め回すように見た美紀は、僕にボソッとそう言った。
「隣に同じく。上手い食い物に可愛い妹ちゃんって、僕は一体前世でいくら徳を積んだんだろうな」
「……それは告白ですか?」
「た、ただの本心だよ」
美紀はほんのり頬を赤らめて、にこっと笑顔を見せる。
『……僕はこの子を、美紀を裏切っちゃいけないんだ』
「今日はありがとうな。僕と一緒に出かけてくれて」
「まだデートは終わりませんよ」
「知っている」
美紀の笑顔は、完全に友達のそれを超えているような気がした。




