第16話 真っ当な告白
6月13日木曜日、僕はいつも通りに北村家で家庭教師をしていた。
「こ、これでどうでしょうか!」
「どれどれ……」
美紀が僕にそう問いかけて、問題の解答を指さす。
「……合っているな、凄い、合っているぞ」
「おぉ!!」
「美紀、すごいじゃないの!」
美紀は顔をくしゃっとさせて、盛大に歓喜する。二年生の範囲ではあるが、美紀に基礎が定着していることは容易に察せた。
「勉強……しているんだな」
「もちろんですよ! 明々後日にはデートもするんですから、もっと勉強しないと!」
「あぁ、その意気だな、偉いぞ」
……他方、香織はというと、成績に陰りが見えていて……いや、見え続けていた。
「香織……ここは解けてくれよ。基礎中の基礎だぞ?」
「基礎中の基礎中の基礎なら分かるわよ」
「それはもはや入試に出ないだろ……」
僕は香織の肩に触れて一言、「勉強、手伝うから頑張ろうな」と言う。
このとき、僕が香織を狂気に満ちた満面の笑みで照らしていると、香織は怯えた様子で「は、はい」と呟いた。
「あっ、ちょっとトイレに行ってきます」
途中、美紀がトイレで離席すると、そろそろと香織が僕の元にやってきて、耳元で囁き始めた。
「ちょっといい?」
「うん? なんだ?」
「俊、来週あの子とデートだから、一言言っておきたいことがあって」
「ほう……?」
すると香織は笑顔を打ち消して、真面目な雰囲気を醸し出す。
「……あの子を本気にさせないでほしいの」
「と言うと……?」
「たかだか十四の女の子に、要らぬ恋心を抱かせないであげてほしいってこと」
香織は僕がその辺の扱いが上手い男だと知っているはず。そう考えると、これは一種の焼き餅のようなものだった。
「要らぬって、別に美紀が僕に恋することはダメじゃない気が……」
「ダメよ。あまりにも早すぎるわ。男性との交友もないんだし、なにが何でもダメよ」
「……まぁ、適切にあしらっておくからさ」
「本当かしら……?」
香織は目を細めて、獲物を見るような緊迫した視線を向けてくる。そこで僕は、香織の立場を逆手に取ることにした。
「……はぁ、僕って本当は、香織に信用されていないんだな。勘違いしていた自分が恥ずかしいよ」
「そ、そんなことないわよ!」
「あるだろ……」
そう言ってため息をつく名演をすると、香織はおどおどしながらこう告げてきた。しかも、美紀に聞こえるような大声で。
「分かった、分かったから! 適度に羽根を伸ばしてきなさい!」
「それはそれで態度が豹変しすぎだろ……」
そうこうしているうちに、美紀がトイレから戻ってきた。香織の大きな声に「な、なに、どうしたの!?」と慌てふためく。
「どうにかなったから大丈夫だ」
「どうにかなったから大丈夫よ」
「そ、そうですか……」
紆余曲折あったが、最終的には無事にデート当日の、6月16日日曜日を迎えることになった。美紀がどんな策略を練っているのか、前日の僕は気がかりで寝つくこともままならなかった。
「どうなることやら……」
【最後に】
どうか★をください(切実)




