第14話 一つのことに拘るって美徳
6月5日水曜日の放課後、今日の僕は家庭教師の《《義務》》もパスして、札幌市の西の方に向かっていた。内容は単純明快で、和菓子の試食だった。
文明の親は伝統的な和菓子の店を営んでいて、文明はその四代目として日々鍛錬を重ねていた。
『僕は文明の実験台かよ……。まぁ、嫌ではないな』
西18丁目の駅で下車すると、指定された改札の横に、和服を身に纏った文明の姿があった。
「よく来てくれたね」
「呼ばれたから来たんだろ……。にしても、相変わらずその和服が似合っているなぁ」
「作務衣って言うんだ」
「サムエか、いいな」
「ありがとう」
そうして文明の店へと向かう。店に入ると「いつも息子がお世話になっています」と店主のお父様が出迎えて下さり、僕らはそのまま店の奥へと進む。
「今日は試食だから、遠慮せずに文句言ってくれて構わないからさ」
「そ、そんな……ミシュランのシェフでもないんだからさ」
文明のお母様が和菓子を持って来てくださると、僕はそれをありがたく頂戴する。新作の和菓子は、伝統と革新の混ざった特別な仕上がりをしていて、「美味しすぎるだろ」と言葉を漏らしてしまうほどだった。
「それで、色恋の件は一段落ついた?」
僕が口いっぱいにすあまを食んで堪能していると、文明が唐突にそう尋ねてきた。
「まぁ、円満な形でな」
「それはなによりだよ」
「こっちもようやく肩の荷が下りたよ」
「お疲れ様」
円満と聞いて、僕は一つ、文明への疑問が浮かんだ。
「よく○○屋の娘は○○屋になるみたいに言うけど、文明はそれでいいんだよな?」
「あぁ、もちろんだよ。この職業に誇りを持っているから」
「それなら僕が出る幕はないな」
「やっぱり、何事も一途なのが一番だよ」
「一途ねぇ……」
僕も万が一、北村姉妹に好意の類を抱かれたなら、そのときはどちらか一人を真剣に見つめなくてはならない。
『……眉唾の話が本当になるかもな』
だが、僕はその場合、どちらを選べばいいのだろうか……。僕のことを熟知して互いを理解し合っている姉の香織か、僕が救ったという恩に感激している妹の美紀か。
現状は美紀の方が僕への好意を強く示しているが、香織の匂わせ発言も聞き捨てならない。僕はあまりにも至高の二択に、途轍もなく頭を悩ませるのだった……。
『どうしたもんかなぁ……』
「だ、大丈夫、駿。顔色悪いけど……」
「元からこんな顔だよ」
「それもそうか」
「素直に納得するなよ……」
そう言って素直に笑い合える。僕らは真に友達をしていた。
その日の晩、僕は北村姉妹の片方と携帯でやり取りをしていた。主に今日の文明との話題で、話に花を咲かせていた。
「やっぱり文明くん凄いわよね」 「家業を継ぐって」
「生半可な気持ちじゃできないわよね」
「私達も強い心を持って挑まないとね」
「そうだな」
「やっぱりなんでも一途ね、一途」
「それ、文明も同じこと言っていたな」
少しの間、やり取りが途絶えると、また香織の方から連絡がやってくる。
「ねぇ、俊」
「ん?」
「これはもしもの話だけど」
「うん?」
そうして待ち構えていると、唐突にこんな文面が送られてきた。
「いま、ここで告白したらどうなるかしら」
『……ん、ん!?』
「例え話よ」
「例え話にしてはディープすぎるだろ……」
「それでどうなの?」
「普通に保留にするけど」
「一番ダメな回答じゃないの」
「いますぐに答えを出せる人の方が少ないだろうよ……」
どうしてこうも、北村姉妹は話を飛躍させるのが得意なのか、僕にはよく分からなかった。
「まぁ、よく分かったわ」
「何が分かったのか分からないんだけど」
「別に分からなくていいわよ」
「えぇ……」
これで本当に告白だったら、二日おきに姉妹それぞれから告白を受けたことになっていた。
『……なんか、僕って愛されているのかな』




