第13話 なんと、妹からの告白
地下鉄に乗ると、香織も用件が済んだようで、また沈黙の時間が流れる。
「……あ、あと美紀とのデートの件だけど」
「なにか問題があったか?」
「あの子、まだ十四だからね。下手に誑かしちゃダメよ」
「そんなこと、こちとら誰よりも分かっているから……心配すんなよ」
「心配するわよ。だってあの子、久しぶりに他人と出かけるんだから」
僕は香織の言葉に表情を失う。
「……あいつ、友達がいないのか?」
「いないことはないわ。だけどあの子、みんなと浅く広く仲良くするから、これと言った相手がいないのよ」
僕はなにか骨がつっかえたような感覚を覚える。
「あの見た目で男の一人や二人が近寄ってこないとも思わないけどなぁ……」
「寄ってきても突き返すわよ。だってあの子、一目惚れ至上主義だから」
「ひ、一目惚れ至上主義?」
「だけど、俊なら安心ね。一目惚れしていないみたいだし、恋人というよりは兄みたいだし」
「そうだといいんだけど……」
僕は不意に美紀に片思いを告げられた場面が脳裏に浮かび、少し眉間にシワを寄せて気難しい顔をする。
『告白まがいのこと言われたなんて、口が裂けても言えないな……』
午後4時過ぎ、僕らはいつもの如く北村家にやってきた。
「ただいまー」
「おじゃまします」
「次からは俊も“ただいま”でいいわよ」
美紀は寝巻ではないがラフな格好をして、満面の笑みをして出迎える。
「おかえりなさい」
「どうだ? 休日は勉強できたか?」
「まぁ……そうですね」
「微妙だったみたいだな」
「だ、だってデートのことが頭から離れなくって……」
「だからって一日全部使うこともないだろ」
「それは……」
「はいはい。立ち話もアレだから、ここからは座って話しましょ」
僕らはリビングで勉強を始める。それぞれ問題集を解いて、香織と美紀は解き終わると俊に採点をしてもらう。
「……本当に勉強さぼっていたんだな」
「し、仕方がないですよ! 考えることが山積みだったんですから!」
「香織も一言ぐらい言ってやれよ」
「あぁ、そこは私、内政不干渉だから」
「そこは干渉しろよ……。それで勉強の成果を見せつけてくるな」
それ以降、特別な出来事が起きることもなく、俊の帰宅する午後6時を回る。
「じゃあ、今日はこれで帰るな」
僕は一息ついて、今日もまた疲れた様子を露わにする。
「いつもありがとうね」
香織はにこやかな笑顔をしてそう言ってくれた。
「きょ、今日は私が送って行きましょうか⁉」
美紀の調子はやはりいつもと変わらないようだ。
「だから僕を何歳だと思っているんだよ」
「じ、実は今日の夕ご飯のお惣菜、まだ買っていないんですよ……」
僕は真顔になる。不意に彼女たちの両親のことが頭を過ってしまったのだ。
「……そういえば、ご両親はいつ帰ってこられるんだ?」
「終末だけよ。共働きで忙しいから」
「へぇ……大変なんだな」
「慣れればどうってことないですよ」
午後6時半過ぎの学園前駅までの道中。美紀はそのままの服を着こなして、僕と並走する。満足げな表情をして、僕とのひと時を噛みしめる。
「……俊さん」
美紀はなぜだか照れくさそうな顔をしている。
「なんだ?」
「私……やっぱり俊さんのことが好きみたいです」
『なんで北村家の人間って、みんなこう唐突なんだよ……』
僕はどんな顔をすべきか分からず、ほんのり笑ったり真顔に戻ったりを繰り返す。
「ど、どうしてそう急に確信に至ったんだ……?」
「一昨日、ネットで調べたんですよ。異性とはどこからが友情で、どこからが恋になるのか」
「ほ、ほう……?」
「そしたら、一緒にいて楽しいと思う時間が長ければ長いほど、恋している証だと書いてあったんです」
美紀は照れている顔の先に、笑顔を滲ませるようになる。
「あぁ、それはたぶん変なサイトの見過ぎだ……」
「ち、違いますよ! ちゃんと有名な恋愛アドバイザーの方の記事です!」
「まぁ、それだけを鵜吞みにはするな。別にその人の言っていることが正義でもないんだしさ」
美紀は急に真顔になる。そして僕の方を向き、切実な様子でこう問いかける。
「……俊さんは私のこと、そこまで好きじゃないですか?」
『この子は本当に何を言っているんだ……?』
「もし嫌いだったら、今日も勉強教えに行っていないだろうよ……」
「それはそうなのかもしれないですけど……」
「安心しろ。僕もお前のことはわりと好きだから」
僕は薄っすら笑みを浮かべて、美紀にそう言い掛ける。
『お姉さん由来の言葉だし、嫌な気持ちにはならないだろ』
「わりと……ですか」
美紀は笑顔と真顔の入り混じった複雑な顔をしている。
「……全く興味を持たれていないよりかはいいですね」
「まぁ、美紀が良ければ、これからも仲良くやっていこう」
「も、もちろんです!」
そうして美紀は完全な笑顔を取り戻し、学園前駅へと辿り着いた。
「また明後日行くからな。勉強しておけよ」
「も、もちろんです! 期待して待っていてくださいね!」
美紀は今日一番の笑顔で手を振って、俊を見送る。
『あれ……総菜買うって言うっているのに、あいつ手ぶらじゃないか?』
察した僕は空を見上げて、大きなため息をついた。
『姉が姉なら、妹も妹っていうところだな……』




