第11話 デート・データー・デーテストの思案
6月1日土曜日の帰り道。今日の僕は、美紀と初めて待ち合わせをすることになっていた。いざ校門に向かうと、そのわきで空を見上げ静かに佇んでいる少女の姿があった。
「悪い、遅くなったな」
「大丈夫ですよ。新幹線に乗り遅れるわけでもないですし」
「いや、まぁそれはそうだけど……」
僕らは歩道に出てすぐに左折して、いつも通り帰路を辿る。
「デートの行き先は決まったか?」
「はい! ちょっとお金はかかりますが、とてもいい場所を見つけたんです!」
「二万を超えなきゃどこでもいいよ。それでどこに行くんだ?」
「ざっくり言うと小樽です」
「うん、まぁまぁざっくりだな」
「えへへ」
彼女は日常と化した笑顔を見せつける。
「……小樽か。たしかに、札幌の人間は仕事でもない限り、行く機会がないよな」
「あとはこの辺だと、羊ヶ丘の展望台もそうですよね」
「あぁ、幼稚園児の頃に連れていかれた記憶しかない。そういう近くて遠い場所に行くのもいいかもな」
「私、かなり褒められましたね!」
「そうだな」
美紀はその場で作り出せる最大限の笑顔で、俊にその喜びを見せつける。
「まぁ、言葉選びなら誰よりも自信があるもんでね」
「あ、その一言で全部雰囲気壊れたんですけど」
「いや、流石に難しすぎるだろ……」
僕らは美紀を事故から救った例の交差点を横目に左折して、駅のある方に向かう。
「なぁ、一つ聞いてもいいか?」
僕がそう言うと彼女は機敏に反応する。
「なんでも聞きますよ!」
「どうして僕と一緒に出かけてくれるんだ?」
「……本質的なところですか」
「僕なんて所詮、美紀さんを事故から救っただけの男で、一回謝られたらそれで終了なはずだろ?」
「そう……なんでしょうか」
「それなのにどうして僕と絡んでくれるんだ?」
美紀はなぜか笑顔にほんの少し悲しみを滲ませる。
「俊さんのそばにもう少しだけ長くいたいから……ですかね」
「なんだよ。まるで僕に恋しているみたいじゃないか」
『やっちまったか……? 結構踏み込んだことを聞いてしまったなぁ』
美紀は「え、えへへ」というような少し乾いたような笑いをする。
「私、恋をしたことがないんです」
「……そ、そうなのか!?」
「えぇ。なのでこの気持ちは、もしかしたら恋なのかもしれませんし、そうじゃないのかもしれないです……」
「そうだな……」
僕は回答を濁し、俯いてしばらく黙って思案する。
「僕は美紀さんに恋されることが凄く嬉しいけど、同時に申し訳なくも思う」
「……え、なんでなんですか?」
「美紀さんが僕を美化しているような気がするんだ」
「び、美化ですか……?」
「つまり、事故から救った救世主、白馬の王子様的な感じに受け取られているんじゃないかって」
「それももちろんあります。だって本当にそれで救われた命ですし……」
美紀は包み隠さずそう言った。僕の人間性に少なからず好意を持っている様子で、僕はそれを否定なぞしなかった。
「まぁ、そうだよな」
「ですが……私が惹かれそうになっているのは、俊さんの態度なんじゃないかって思うんです」
「なんだなんだ、僕の人を啓蒙する姿勢に惹かれているのか……?」
「……成長できたんですよ。自分を大人に一歩近づけられた。俊さんのお陰なんです」
「僕じゃなくて、それを理解して受け入れた美紀さんが凄いんだよ」
「そういうところですよ……自覚ないんですか」
「へっ?」
『まずい。全く以て自覚がない……』
僕は何度も瞬きして動揺する様子を隠さずにいる。
美紀は僕の様子をみて少し呆れたようで、そっけない態度をとるようになる。
「まぁ、いいです。とりあえず私はいま、《《片思いしている》》ってことにしておいてください」
「いいのか……?」
「いいんです。これが恋という概念だと理解するのも、きっと時間の問題だと思いますし」
「そうか……」
美紀は思い出したかのように笑顔を取り戻す。
「でもなにはどうあれ、楽しみにしています、デート」
「僕もだ」
美紀は僕の方を見て目を煌めかせると、また前を向いて歩みだす。僕はそんな美紀の知らないところで、うっすらと笑顔をつくった。




