第76話 余韻に浸りたいらしい
「いやあ勝った勝った、普通に勝った」
「面白かったー、『一体になる』ってこういうことなのね」
「あっサポーターのこと? 確かに雰囲気は良かったけれども」
これがJリーグなのですよ、
と胸を張って言いたいくらい熱いチームだ、
デートに来た女の子も虜に出来るくらい、と言いたいが人によるか。
(他の婚約者は、どうだろう)
あくまでこれは僕の問題・趣味であって、
いつだったかのメイドみたいに終始『スンッ』て座っててもおかしくない、
別にJリーグに興味がないからって婚約者レースから外す理由にはならないけど、ただ接戦になったら……
「得失点差、それが同じなら総得点の多さかな」
「えっ涼一、何の話?」「Jリーグの順位決定方法、勝ち点が同じだった場合」
「色々あるんだ」「最後の最後は抽選だけどね」「じゃんけんとか?」「くじ引きらしいよ、まだ実行されたこと無いけど」
グッズショップから出て街道沿いを歩く。
「あれ、来た駅の方じゃないよね涼一」
「あっごめん、混んでる時の癖で、調布駅まで歩く所だった」
「遠いの?」「まあ、あとみんなのお土産いっぱい買っちゃったからね、人にぶつからないように」
4万人近くまで入ると、
ヒーローインタビューを見終わった後にグッズショップ寄っても、
スタジアムから最寄駅までは人でぎゅうぎゅうになっている、その抜け道が2駅先までの徒歩だ。
「いいよ、歩こう♪」
「えっ良いの? 距離あるけど」
「涼一より体力あるから、余韻にも浸りたいし」「なんかごめんね」
まあ、こっちもこっちでそこそこ混んでるけど。
「このタオルマフラーっていうの、良いね」
「うん、似合ってるよ」「へへ、涼一に買って貰っちゃった」
「そんなに喜んでくれるなんて」「農作業で汚さなくて済むしぃ」
ていうか、一緒に歩いて帰っているのが嬉しいっぽい、
これがデートというやつか、お家に帰るまでがデートです、とか……
試合に勝ってご機嫌の僕、僕とデート出来てご機嫌の景香お姉ちゃん、Win-Winっていうやつ?
(負け試合だったら、どうなっていたんだろうか)
多分、気を使わせちゃっていただろうな、
おっとここで横断歩道を渡る所だ、狭いからちょっと止まる、
この隙にと腕を組んでくる景香お姉ちゃん、だから荷物両手に持ってるのに……
「ねえ涼一、お給料入ったらファンクラブに入ろうかなぁ」「えええ」
「そしたらいつでも涼一と観戦に来られるでしょう?」「それには年間チケットが」
「次はいつ連れて行ってくれるの? ねえ」「うーん、次のホームゲームは、ちょっと考えさせて」
他の婚約者とも観戦したい、
前の婚約者とプロ野球観戦しまくっていた凪さんとか、
アメリカンなケイさんとか、お子様な陽菜ちゃん、爆乳のれいさん、巨尻のえみとさん、って最後の方は酷いな我ながら。
(おっぱいやお尻で観戦する訳じゃないぞ!)
まあVIP席で、
まとめてみんなの様子を見る機会は来るだろうけど。
「横断歩道を渡り切ると、後はスムーズに歩けるよ」「うん、人がバラけたね」
「昔、1人で帰るとき迷った事があって、目の前のユニ着た人について行ったら、その人の自宅に着いちゃった」
「それでどうしたの?」「周囲を探したら対戦相手のユニ着たサポが居て、ついて行ったら西調布駅まで帰れたよ」
まさかの他サポに助けて貰った状況だ。
「じゃあ迷わないように毎回ついて行ってあげる!」
「おやそれ、何年前の話だと思っているの、さすがにもう」
ブッブーッ
まさかの社用車である。
「凪さん、なんでここに」
「遠藤さんに聞いたのよ、今日の相手だと混むから調布駅まで歩くだろうって」
「それでわざわざ迎えに」「お土産も私たちに買ってくれたんでしょう? さあ乗って」
あ、景香お姉ちゃんがちょっとムクれてる!
「んもう、邪魔しに来て」
「いや姉ちゃん、せっかく迎えに来てくれたのに」
「調布駅前で一緒に遊ぼうと思ってたのにー!」「いや、そんな時間は」
という事で帰りが一気に楽になっちゃった。
乗り込んで走り出す、結構遠いんだけどな、
後部座席に2人、景香お姉ちゃんは手を繋いでくる、そして運転しながら話しかけてくる凪さん。
「涼一くん、勝ったみたいね」
「あっはい、景香お姉ちゃんがハイタッチまでして楽しんでくれてて」
「私もしたいわ」「次のホームゲームは、じゃあ凪さんで」「涼一、反対側は私で!」「空いてるかなあ」
多分、埋まってる。
「前でも後ろでも良いから、斜め横でも!」
「あー、アウェイで父さんが急に来る事になって、間に知らない人が2人挟んだ事があったなあ」
「涼一の膝の上でも良いから!」「そんな陽菜ちゃんみたいなこと、ってやらないけど、まあまた、いずれ」
景香お姉ちゃんは、
あくまで主目的は僕だからなあ、
いやそれが悪い事とは言わない、ちゃんと応援もしてくれてたし。
「涼一くん、景香ちゃんをデートに誘ったっていうことは、
今度は逆に、景香ちゃんの行きたいデートに付き合わなきゃ駄目よ?」
「じゃあ涼一、今夜にでも私の部屋でふたりっきりで」「それってデート?!」「違うわね」
凪さんの冷静なツッコミが頼もしい。
「あっそういえば凪さんとの映像ミュージアムは」
「それより先に行きたい所があるの、チケットが取れたから」
「あっはい、いつ」「ゴールデンウィークの初日ね」「初日かあ」
スマホにスケジュール入れておこう。
「田中さん、どこへ行くんですか?」
「景香ちゃん、そうね、私流の大人のデート、かしらね、いやらしい場所では無いわ」
「いやそんなはっきり、まあ凪さんを信じていますけれども」「2人っきりで、楽しみましょう」
いったい僕は、
どこへ連れて行かれるのだろうか……?
お堅い凪さんの大人デート、才女のチョイスは、いかに?!?!?!




