第68話 ワンランクアップなメイドらしい
「涼一くん、痛くない?」
「はい凪さん、人に耳掃除して貰うの小学生以来です」
「その時もメイドに?」「いえ、伯母さんに、メイドはそこまでは」
お風呂が上がってれいさんからの連絡待ち、
一旦寝て良いですよ~とか言われたのち自室へ入ると、
メイド姿で眼鏡の凪さんが待ち構えていて、まずは膝枕で耳掃除をしてくれている。
「えっと、メイドの時は眼鏡なんですね」
「あと涼一くんの家庭教師をする時もかしらね」
「その、凄く雰囲気が、良いです」「嬉しいわぁ」
良い匂い……
なんていうか中学までのメイドに対し、
匂いを嗅ぐっていう発想すら浮かばなかったなぁ。
(凪さんは、全てにおいて包み込んでくれる感じ……)
それにしても準備が万端すぎる、
普通の耳かき(梵天付き)にピンセット、
あと綿棒、どこまでしっかり掃除してくれるつもりなんだろうか。
「あの、メイドって、ここまでしてくれるものなんですか?」
「涼一くんのためのメイドですもの、涼一くんのためだけの」
「そういうものですか」「普通よりワンランクアップしたメイドかしらね」
何が上がったんだろう、
丁寧さ? 情念? ちょっと重いな、
前のメイドも一応は僕のためのメイドだったはずなんだけれども。
(耳たぶもマッサージしてくれている)
いやこういうお店ってありそうだな、
耳毛まで剃ってくれそう、生えてないけど。
「それで坊ちゃま」「あ、メイドモード」
「メイドとして接する頻度は、いかがなさいましょうか」
「頻度かぁ、雨の日の送り迎えとか、あとは家では必要に応じて」
メイドと買い物っていいな、
小学生の頃は何度かやったけど、
5年生くらいからメイド長に止められたんだっけ。
(やっぱり過度に仲良くさせたくなかったのかな)
まあ今更いいか、
今の僕のメイド長は凪さんだ。
「涼一くん、メイドとしてやりたい事があるの」「何でしょう」
「坊ちゃまの身体を洗」「それはいいです」「もう」「さすがにね、小1の頃ならまだ」
「あくまでもメイドとしてですよ」「僕が恥ずかしいから駄目です!」「かしこまりました、はい、反対側」
寝返りを打つ、
膝枕っていうのも久々だなあ、
幼い頃は景香お姉ちゃんにもして貰ったっけ。
(他のみんなにも、して貰ったら……)
ケイさんは太ももムッチムチだから、
枕としてはゴツいくらいかも知れない、
陽菜ちゃんはすぐに痺れちゃいそうだ。
(れいさんは危険だ、えみとさんは……安定感はありそう)
そうだ、僕が1人を決めたとして、
他の元婚約者をメイドとして雇い直す手もあるな、
でも僕と結婚出来ないってなったら、あっさり他の男を探して欲しい気もする。
(仕事としてのメイドと、婚約者はまた別ってことで)
いやほんと、
僕はいったい誰を選ぶのだろうか、
今のところ、6人から誰を選んでも不思議じゃない。
「その。メイド長の凪さん」「はい坊ちゃま」
「凪さんなら本当に、どこかのメイドとしてやって行けるのでは」
「私はすでに遠藤さんの、個人会社の社長ですよ」「あっ、そうでした」
既に就職済みだった。
「ですから涼一くんが他の誰かを選んでも、きっと顔はずっと合せるわね」
「その場合、気まずくないですか」「むしろ寝取っちゃうかも知れませんよ?」
「いやそんな、それは」「私、諦めは悪いですし、涼一さんが思う程、良い人、良い女ではありませんから」
……やはり過去に何があったのか気になる、
もうちょっと踏み込んだ仲になったりしたら、
そのあたりは嫌でも詳しく聞くことになりそうだ。
「凪さんは凪さんですよ」
「そうですね、私は私である事に変わりませんから、何があっても」
また耳たぶマッサージに移行されて気持ちが良い、
こんなお姉さんにどんな過酷な過去があったのだろう、
それを聞かずに選ぶっていう方法もある、むしろ『一生聞かない』という選択肢も……
「はい仰向けで、こめかみのマッサージを」
「あっ気持ちいい」「そのまま眠っても構いませんよ」
「でも、れいさんが」「時間が来れば起こしてさしあげますから」
心地良過ぎて一気に眠気が……
そういえばテレビで「絶対眠る後頭部マッサージの店」とかやってたけど、
こんな感じなのかなぁ……ふわぁ……少しの間だけなら、いい、よねっ……
「おや……すみ……」
「はいおやすみなさい、私の涼一坊ちゃま……」




