第66話 スカイツリーから実家は見えないらしい
「わあ、すごーい、たかーい」
「いや景香お姉ちゃん、初めて登ったの?」
「ううん、前に来た時は兄弟の世話で手一杯だったから」
というここはスカイツリーの特別展望台、
はしゃぐ景香お姉ちゃんを温かい目で見る僕、
いやそんな僕らをさらに優しい目で見ているえみとさんも居るが。
「宇都宮タワー、見えるかなー」
「逆は見えたよね、うっすらと、かろうじて」
「涼一、行った事あったっけ」「一緒に行ったじゃん」「あっれー」
確か小2の頃だっけな、
あの頃はもう、一緒の時だけは、
完全に小泉家の息子状態だったなあ僕。
「ほんっと、世話する相手が涼一だけって素敵だわ」
「えっ、僕って今、景香お姉ちゃんにお世話されているの?!」
「デートよデート」「えみとさんも一緒ですが」「細かい事は気にしないの!」
なんとなく僕と同じJリーグチームを応援するピン芸人が思い浮かんだ、
いやあれは『ちっちゃい事は気にするな』か。
「旅行の旅に兄弟の世話があるなら、そりゃあ記憶に残らないよね」
「だから東京生活、涼一と上書きしたいの、あっちへ行ったりこっちへ行ったり」
「本当の意味での観光を、やっとできる感じ?」「それよりデートが出来る方が嬉しいわ」
今まで抑圧されていたんだろうな、
あれだけの兄弟の世話を母親と一緒にやってたんだ、
本当の意味で自由になれたのって、こっちへ来てようやく、なんだろうね。
(そういう意味では、婚約して良かったかな)
とはいえ選ぶかどうかは別の話で。
「ねえねえ涼一、良い事思いついた」
「えっなになに景香お姉ちゃん、どんな事?」
「夏に近くで花火大会があったら、ここから見たら良いんじゃない?」
すると、えみとさんが。
「ふふ、抽選ね、しかも高いわよ、1万円超え」
「なーんだ」「景香お姉ちゃん、ウチのタワマンから見えるんじゃ」
「窓から見えるかなあ」「屋上に出る手もあるかと」「ふふっ、じゃあBBQしながらね」
確かこのあたりでやる夏の花火大会、
めっちゃカオスになるんじゃなかったっけ、
ゴミは散乱、トイレは汚され放題みたいな、人が多すぎて。
(ニュースでやってたな、有料席はすぐ売切れだった記憶が)
いっそ屋上でみんな集めて、
父さんに頼んで歌手か芸人でも呼んで、
プライベートなイベントにしちゃうのも良いかもね、許可下りるかな。
「ねえ小泉さん」「はい橋本さん」
「ここから実家の農園は見えないの?」
「あそこあたりかなあ」「いやいや見えないでしょ」
僕が突っ込み役に!
「農作業、本当に大変だったのね、ふふっ」
「私の場合は収穫の手伝いに加えて男性陣の世話ですもの」
「手がかかった?」「そりゃあもう、特に桂実兄さん、私の近い兄なんだけど、大きい弟みたいで」
しかも荒くれ者という、
農家だとあれくらいが丁度良いって誰か近所のおっさんが言っていたが、
景香お姉ちゃんからしたら……いや、直接血の繋がった関係に僕が口を挟む事ではない。
(そこは僕が入り込んじゃ、いけない気がする)
まだ景香お姉ちゃんと、
婚約はしていても結婚するとは限らないのだから。
「ふふふ、なら小泉さんの兄弟からしたら、涼一くんに妹やお姉ちゃんを寝取られた気分ね」
「えっ、もう涼一と寝ていいの?!」「いやいやいや2人して勝手にそんな話を進めないでってば」
「一緒に寝たわよ、もうみんな、ふふっ」「いや、あれはあくまで添い寝で」「涼一、また添い寝してあげる」
距離があるとはいえ、
そこそこ他人が居るこんな所で何を言っているんだか、
こっそりクラスメイトが聞いてたりしないよね? うん、知ってる顔は居ない。
「そういえば、えみとさんはここへは」
「前に来た時は、下に落語を聞きながら鍋を食べられるお店に入ったわ、もう無いけど」
「落語ねえ、涼一、興味ある?」「いや別に、景香お姉ちゃんは」「涼一とのデートに行先候補になるかなあって」
貪欲だなあ、
兄弟のおもりという鎖が解けて、
活き活きしている感じかな、この勢いなら本当、どこだって一緒に行きそう。
(東京は遊ぶところに困らないからね)
三年間、景香お姉ちゃんと遊び尽くすのも、
楽しいだろうけれども、でも僕は、景香姉ちゃんには、
それこそ見えない壁があるんだよなあ、今日はその壁に触れた。
「涼一君、そういえば田中さんが、デートのチケットが取れたそうよ」
「ええっと、映像ミュージアムでしたっけ」「ううん、もっと別の、詳しくは本人から」
「うそっ、こっちからデート先決めて、しかもチケットも取って良いの?!」「景香お姉ちゃんはお給料まだでしょ」
正しくはバイト代か、
もちろん親からお小遣いは貰ってるだろうけど、多分。
「涼一、ふたりっきりで、東京中の遊園地へ行きましょう!」
「そんなに好きなんだ遊園地」「だって、ふたりっきりよ、ふたりっきり!」
「うーん、まあふたりっきりじゃなくても、世話する兄弟が居ないなら良いでしょ」
あ、ちょっとムクれた!
「会えなかった6年分、デートしたいの!」
「そ、そうですか」「とりあえずは土曜日、Jリーグ楽しみにしているわ」
「うん、以前貰ったTシャツや無料ユニ用意しておく」「涼一が袖を通したの?」「通してません!」
……景香お姉ちゃんと近くなる距離、
でも、僕はそれにどうしても抵抗を感じるのだった、
そう、しつこいようで悪いけど、小4夏の、あの事件のせいで……。
「涼一君、その次の週はプロレス観戦よ」
「はい、えみとさんの試合を応援します!」
「私は出ないわよ、デビューして欲しいの?」「いえ別に……」
プロレス技に、
ヒップアタックってあったっけ。




