第61話 夜はヨガでぐっすりらしい
「はい、人魚のポーズで」
「んんん、エビぞりっ!!」
「そう、そのまま、がんばるのよ、ふふっ」
今日の僕担当だった橋本園美渡さん、
寝る前の体操を教えてくれるというので自室に招いてみたら、
体操どころかヨガを教え込まれている、終わると疲れてぐっすりらしい。
(一歩間違えると、足がつるらしいけど!)
ただ、体力めっちゃ使うのは、わかる。
「はい、続いて女豹のポーズよ」
「こ、こっ、こうですかあっ?!」
「そうそう、もっと背中を反って、良い感じよ」
かなりキツいエクササイズだな、
暇な主婦はこのタワマンのジムで、
こんなことやっているのか、際どい姿で。
(そりゃあ男子高校生が見ちゃいけないはずだ)
ただし実母は除く、いや居ないけど!
まあ伯母さんがやってたらと思えばわかる。
「ふふふ、良い感じよ、ではヴィーナスのポーズを」
「どうすれば」「息を吐きながら背筋を伸ばし、腕を拡げて、上へ……」
「こ、こうですか」「今度は横向きに寝て、片足の先を天井に向けて伸ばして……」
こういうのの進化形が、
えみとさんが部屋でやっているポールダンスなのだろう、
いや僕は部屋にポールまで立てるつもりは無い、絶対筋肉痛になる。
「はい、では最後は座禅を組んで胸の前で手を合わせて深呼吸……ふふっ、お疲れ様でした」
「んふぅーーーっ……ありがとうございました、気持ちも落ち着けたような気がするかも、です」
「これだけすれば、あとはベッドに入って目を瞑れば、ぐっすりよ」「はい、ではえみとさんも」「一緒に寝て良いの?」「えっ、そういう意味では」
寝る前のお水を飲む。
「ちなみに本格的にやりたいなら、ここのジムで水上ヨガも出来るわよ」
「なんですかそれは」「プールの上に浮くマットを乗せて、その上でやるの」
「バランス取るの大変そうですね」「体幹が鍛えられそうですね」「今度一緒にやる?」「か、考えておきます」
部屋の明かりを暗くしてくれる。
「うふふ、まだ少しお話でもしようかしら」
「ええっと、どんな話を」「そうね、私の話か、観に行くプロレスの話か、私の姉さんの話」
「3つもあるんですか」「それかひとつ、どれが良い?」「ええっと」「お任せで、は無しね、ふふっ」
じゃあ、ここは……
「お姉さんの話を」
「いいわ、桂衣渡姉さん、私より5つ上なの、昔は、高校はチア部に居て」
「そこからアメリカへ」「個人でもチームのチアダンスでも、一流のダンサーになりたいんですって」
5つってことは26歳かあ。
「日本に戻ったりは」「たまーにね、いつかスーパーボールとか、日本で見られるスポーツのショーに出るのが夢だって」
「あー、居ますね派手な、ガタイの良いアメリカ人で」「日本人でもそこへ、それが最初の目標だそうよ」「食べて行けているんですか?」
「最初は私のパパとママが支援してたけど、工場が厳しくなって……今は立て直し中だから私が支援しているわ」「あっ、お給料から」「涼一君のおかげよ」
いや、僕の父さんのおかげだと思う。
「えみとさん自身は、ポールダンスでプロにとかは」
「考えてないわ、夢は姉さんにあげちゃった、ううん、姉さんの夢が私の夢ね」
「そうなんですか」「ええ、だから今の、私の夢は涼一君のお嫁さん、ふふっ、本当よ」
僕の頭を撫でてくれる。
「まだ、えみとさんのことをそこまで詳しくは知りません」
「私だって涼一君のこと、もっともーっと、良く知りたいわ」
「ええっと、プロレスに」「お礼を言いたいそうよ?」「僕に?!」
工場勤務のプロレスラーさんにか。
「ええ、おかげでプロレスの練習に時間が取れるからって」
「それであんな話を」「融資と援助で外国人が大量に来て、彼も時間に余裕が出来たの」
「なるほど、そういう話の繋がりで」「詳しい話は本人に聞いてね」「ええ、試合はいつ」「再来週の日曜よ、メールで大丈夫だって」
確か応援しているJリーグチームの試合は無かったはず。
「わかりました、初めてのプロレス観戦、楽しみにしています」
「ふふ、私もJリーグ観戦、涼一君と行ける日をとっても楽しみにするわ」
「とりあえずは、お互いの事をもうちょっと、詳しく知らないと」「工場に来てくれただけで、私は大きくリードしたと思ってるわ、嬉しいわあ」
そこまで深く考えての行動じゃないんだけどな、
ただ実家が近いって言うのはまあ、またご挨拶にも気軽に行けるし。
「……他の皆さんの実家へも」「訳アリも多いわよ」
「あっ」「結構ヤバい経緯で来た人も居るみたいだし、複数」
「れいさんがストーカー被害でっていうのは聞きましたが」「彼女はまだ、ね、ご両親に会いたいなら会えるとは思うけど」
じゃあ他はもっとヤベエのが……
いや、大なり小なり、みんなヤベエお姉ちゃんかも知れない、
景香お姉ちゃんだって、僕にとっては『ある意味で』ヤベエお姉ちゃんだ。
「ってプロレスの話も、けいとさんの話もしちゃいましたね」
「そういえばそうね、今度は涼一くんに質問攻めでもしようかしら」
「例えば」「女性の趣味とか」「いや、まだわかりません」「メイド趣味は」「無かったかな」「ふ~ん」
何だろこの反応、
中学時代のウチのメイドが気になるのかな、
本当に事務的で変な事は一切ないっていうか一番若くても30代だったし。
「ええっと、正直、メイドをどうこうは」
「明日になればわかるわ」「えっ、明日に?!」
「じゃあ今夜はこれで、おやすみなさい」「おやすみなさ……っ?!」
って、顔を近づけてきた?!
「うふふ、キスして良いかしら?」
「い、いや、まだ早いんじゃ」「頬は?」
「も、もうちょっと、軽い場所で」「じゃあ、おでこ」
ちゅっ、とされた。
「あ、ありがとうございます」
「まるで母親のキスね、今はここまでかしら」
「はい、い、今は……じゃあ、寝ます、けいとさん、おやすみっ!」
布団を被ると、
えみとさんは静かに出て行った……。
(いやほんと、ヨガでぐっすり眠れるようになったはずなのに、胸のドキドキがあ!!)
あの大人の色気で21歳……
かつて恋人とか居たんだろうか、
聞けば良かったかな、まあいいや、それはまた今度に!




