第56話 景香お姉ちゃんはクラスが違うのに涼一委員らしい
「涼一、夜中に私の部屋に入ってこなかった?」
「あ、あれはトイレの帰りに部屋を間違えただけで」
「ベッドに潜り込んでくれても良かったのに」「わざとじゃないから!」
いいえ、わざとです、はい。
(まさか鍵が本当にかかっていないとは)
あれから33階の帰りに、
41階の無人コンビニに寄ってから最上階へ戻り、
一番『あっ間違えたてへてへ』で済みそうな隣の、景香お姉ちゃんの部屋を開けてみた。
「普通、間違えるかなー」
「まだ来て間もないから、って不用心だよ?」
「涼一になら平気よ、何でも許しちゃう」「いや許さないで」
という朝食、
今日は陽菜ちゃんが脚立に乗って作ってくれた、
内容は相変わらず野菜多めの和洋折衷な感じ、美味しい。
「みなさんも眠っている時、部屋に鍵は」
「かけないわね」「カケマセーン」「トイレで面倒なのよ」
「いつも忘れちゃいますね~」「ふふ、かけない派よ」「だって涼一」
同棲を何だと思っているんだろ、
まあ婚約者に泥棒は居ないと、そのあたり、
父さんがしっかり選んでくれてはいるんだろうけど。
(あっ、メールの返事はまだ来てません)
話を変えよう。
「テストの後ってなんだっけ」
「昼食の後は委員決めね、涼一は何か入る?」
「んーどうだろ、まあ誰もやりたがらないなら」
でも水曜は日によっては早く帰りたい、
あと何気に金曜もあるんですよ、たまに試合が。
(さすがに午後5時には帰れるよね?)
生徒会とかは絶対無理だ。
「私は断固拒否!」「バイトがあるからね」
「学校では涼一委員をやりたいな」「何それ」
「涼一のための涼一を助けるための委員よ」「クラス違うのに? ってそれ、いちゃつきたいだけでは」
僕の隣に居るえみとさんはずいっと近寄る。
「いちゃついてるの?」
「まだですね、予定も無いですが」
「涼一、じゃあいつにする?」「何が」「いちゃつくのよ」
そんなのスケジュールで決めないでー!
「あら、じゃあ最初の順番は私で」「凪さんまで」
「リョーイチ、いちゃつきレベル999でお願いしマース」「どこまでやるのそれ」
「なんだか一緒に棺桶に入りそうね」「あ、陽菜ちゃん冷静なツッコミありがとう」「一緒に着ぐるみに入る?」
それはもう密封では。
「涼一さ~ん」「れいさんはそれ以上言わなくても、うん、充分」
「ふふふっ、みんないちゃつきたがっているわね、もちろん私もよ」
「もうそれは父さんの会社の仕事に組み込まれているのでは」「じゃあバイトの私も、ね、涼一」
その理論ならもう1人のバイトも、いや、やめておこう。
「景香お姉ちゃん、雨が降るらしいよ」
「涼一、私と相合傘したいの?」「いやそうじゃなくて」
「風が強いなら雨合羽のがいいわ」「あっ農園とかだとそうなるのか」
お茶を補充してくれる陽菜ちゃん。
「昔、遊園地でとんでもないどしゃぶりになった時、
着ぐるみのまま広場の真ん中で突っ立ってた事があるわ」
「それはなぜに?!」「んー……映え?」「身体張ってますねー」
確かにスマホで撮りたくなるシーンだ。
「涼一くん、サッカーって雨で中止は無いの?」
「凪さん、基本的には、さすがに台風や落雷は中止になるけど、あと交通マヒ」
「ならデートの予定が潰れる事はあんまり無いのね」「野球派でしたっけ」「前のカレがね」
元婚約者かあ、
どこのファンだったんだろ、
いや触れる気はまったく無いけど。
「ふう、朝ごはん美味しかった、ありがとう、ごちそうさま」
部屋に戻るとスマホにメールが来ていた。
「父さんからだ、ええっと『どうした』これだけか」
LINEみたいだな、
もうちょっと踏み込んだ返信をしておこう。
『たまたま見つけちゃった、困った事があったら頼るよ、今はまだ大丈夫』
ちょっと貞操の危機は感じるけどね。
(いやでも本当、僕の好きなタイプの女性ってなんだろう)
自分でもまだよくわからないや、
そういうのを探る意味でも6人の婚約者って、
良いサンプルなのかもね、父さんに下手に相談したら婚約者が増えそう。
(余計に迷わせてどうするんだっていう)
まあ、3年かけてじっくり考えれば良いか、
いやもちろん3年待たせて駄目でしたってなるよりは、
決断出来るなら早い方が良いんだろうけれども……う~~ん。
「贅沢過ぎる悩みだなあ、ほんとに」




