第46話 従姉はこれから、もうずっと僕のものらしい
「涼一クン、娘を頼んだ」「いやその景香ちゃんのお父さん」
「景香を頼んだわ、由紀もきっとそう言っているわ」「いやそれはずるいっていうか」
「妹の事はよく知っているもの、双子だからきっと今も、心は繋がっているわ」「いや伯母さん」
亡くなった母さんの名前を持ち出されて困惑する僕、
レストランのランチはビーフシチュー、美味しそうに食べている景香お姉ちゃん、
確かに僕も一緒に入っていたマカロニの味に『んまぁ』ってなったけれども、今は大切な話だ。
(イケオジの、景香お姉ちゃんのお父さんも真剣な表情だ)
そして水を飲んで、僕の目を見る。
「十数年前、自然災害や農作物泥棒が相次いで我が農園は倒産の危機だった、
それを助けてくれたのが君のお父さんだ、色々と条件はあったが持ち直す事が出来た、
もちろん条件というのは銀行や遠藤さんの居た会社とも詰めたが、君のお父さんとの一番の約束、それは……」
視線は景香お姉ちゃんの方へ。
「涼一、私が婚約者になったのが条件らしいの、だからお嫁に貰ってね」「いやそんな」
「娘には、景香には中学入学の時期に話した、もちろん互いの意思が最優先だが、当時の話、
遠藤さんがあちこちと支援の話をする時『息子の婚約者の実家』という事で通った話が多いらしい」
なるほど、それで婚約する必要があったのか。
「じゃあそれは、農園が立ち直った今では無効にそても」
「亡くなった妹の忘れ形見だもの、私の娘と結婚して欲しいわ」「叔母さん……」
「涼一クン、もちろん父親として無理に結婚させるつもりは無い、だから中学卒業後に景香に改めて意思確認した」
にっこにこ笑顔の景香お姉ちゃん。
「3月30日に最終確認があったんだけど、その頃には荷物は送り終わってたわ」
「それじゃあ」「今月、朝イチの電車でここへ来た、それだけでもうわかるでしょ?」
「でも6年間も会ってなかったのに」「もう恥ずかしがる事は無いわ、だって婚約者なんですもの」
うん、僕があの農園を逃げ出した理由を色々聞かれて、
本当の理由は言えなくて、もういいや的な言葉で誤魔化してたけど、
父さんの中では『年頃になって伯母や従姉に甘えるのが恥ずかしくなった』みたいに受け取られたんだった。
(それがほぼそのまま伝わったか、同じように推測されたか)
本当の理由なんて、
まったく気が付いていないんだろうなぁ、
もちろん今でもそれを言う気は、まったく無い。
「今度は涼一クンが選ぶ番だ、これからの3年間、景香が涼一クンに相応しい嫁か精査してくれ」
「いやそんな農作物の品評みたいな」「涼一くん、娘は本当に働き者よ、これからは私の甥っ子を面倒見て貰う番なの」
「……昔、伯母さんにも景香お姉ちゃんにも、十分面倒を」「涼一、まだまだ見足りないわ、6年間の空白を埋めさせて」
空白って言われてもなあ。
(その原因は、僕の心の中にまだ引っかかっている)
そう、近くて遠い姉になった、元凶が。
「それにしてもこのビーフシチューのじゃがいも、まあまあだな」
「アナタ、ウチのジャガイモだったら」「だな、景香、これ以上のを涼一クンに」
「ええ、土曜日は私が料理を作る事になってるから、ね? 涼一」「そ、そうだね」
一応、大切なことを確認しておくか。
「それで涼一クン、今後なんだが」
「えっとその前に、僕が景香お姉ちゃんを選ばないからって農園が潰れるような事は無いですよね?」
「もちろんそれは無いはずだ、というか、もう無いようにする、まだ支援はして貰ってはいるが、そこに景香は関係ない、はずだ」
ここは父さんにも確認が必要か。
「あと、僕が農園にまた行かされるようなことは」
「無い無い、望めばウェルカムだが嫌ならもう来る必要は無い」
「景香お姉ちゃんは一時的に戻ったりは」「夫婦喧嘩でもしない限り無いわよ♪」
もうそんな話を。
「景香はもう涼一クンに嫁に出した、いらないと返されるまではずっと涼一クンのものだ」
「いやまだ婚約で」「それで今後なんだが、今日の入学式でもそうだったが、母親代理が欲しい場合」
「あっ伯母さんをお借りしたみたいになってすみません」「今後も必要に応じて、いつでも留美を貸そう」
伯母さんの名前ね、小泉留美。
「いやでも農園が」
「長男と次男に嫁が来た、次男は式は6月だがもう住んでいる」
「そうよ、だから私はいつでも由紀になれるわ」「いや双子でも、そんな」
でもここで変に否定や反発は出来ない、
小4まで、さんざんそういうことをして貰ってた、
授業参観とか、小3の時は三者面談にまで来てくれてたな東京まで。
「まあ無理に呼ばなくても良い、景香だって涼一クンの母親代わりにも、姉にもなろう」
「涼一、私の事をお姉ちゃんじゃなくお母さんって呼んで甘えてくれても良いんだからっ」
「いやそれはさすがに」「ふふっ、景香は由紀に似ている所があるもの」「いや、それは嘘でしょ」
どう見ても留美おばさんタイプだ、
栃木の農園で近所のおじさんに聞いたぞ、
母さんと叔母さんは体型も性格も正反対だったって!
(でもイトコで血が繋がっている分、面影は少しは感じる、母さんの写真と比べて)
何より僕と景香お姉ちゃんが顔を並べると、
あっやっぱり親戚なんだ、ってなるらしい。
「ではこのフルーツヨーグルトをいただいたら栃木に帰らせて貰う」
「涼一くん、景香をお願いね、きっと良いお嫁さんになるから」「もうお母さんったら」
「景香もしっかりね、何から何までお世話するのよ」「わかっているわ、婚約者ですもの」
といった感じでランチは終わり、
地下駐車場から伯母さん夫婦は栃木へ帰って行ったのだった、
軽トラで……てそれで栃木往復なのかよっていう、栃木ナンバーが眩しい。
(さて、部屋に戻ろう)
僕の腕を組む景香お姉ちゃん。
「ということで、よろしくね♪」
「ま、まあ、とりあえず、3年間は」
……でもまあ、
僕があの栃木での事件、
その真相を言えない限り、景香お姉ちゃんとは……無いかな。
(そして僕は、言うつもりは、無い、と)
今のところは。
といった感じで47階のタワマン最上階に戻ると、
キッチン横の倉庫には山のような農作物が詰め込まれていました!
「なるほど、あの軽トラで運んで来たのか」
当分、料理には困らないな。




