第44話 最後に母親代わりをしに来たらしい
「……高校入学おめでとう」「えっ」
僕をぎゅっと抱きしめる元メイド長、
なんだろう、戸惑いしかない、顔をみると、
今まで見せた事のない、やさしい笑顔……凄い違和感。
「涼一、どうだ、今日の母親として」
「ええっと、かなり無理しているような感じが」
「そんなことは無いわ、今日はあなたの」「最後に1回だけして母親代わりとか、気分悪いです」
ずっとあの『メイド長』で貫き通していれば、
そういう人なんだ、で終わった話なんだけれども、
おそらく父さんに怒られて? 慌てて態度を変えられてもねえ。
(散々悪い事をしておいて『ごめんなさい』の一言で済まそうとする悪質さを感じる)
僕が嫌がって離れると、
困惑している元メイド長、
こういう態度を彼女に取るのは初めてだからね。
「涼一、駄目か」
「父さんも無理矢理やらせないで下さい、可哀想ですよ」
「あの、私、涼一さまを誤解してて、いつかその」「もういいです、さよなら」
お別れは旧屋敷で済ませてあるし。
「よしわかった、涼一、人選を間違えた、済まない」
「他にあるんですか人選」「ああ、昨年の『お母さんにしたいタレントランキング19位』くらいなら借りられたが」
「なんですかその微妙にお金で呼べそうな線は」「「あと知合いの女優で母親役が上手いのが」「誰ですか」「根本しゅ」「いや、いいですから」
名前は知らないけど顔を見たら『あっテレビで』とかになりそう。
「涼一、じゃあ私のお母さんで」
「うーーーん、まあ今回は唯一、無難な線ということで」
「前も母親役やらせて貰ったわね」「双子ですから、そこはまあ」
亡くなった母さんと写真で比べると、
2.5倍くらいになっているけれどもね!
赤ちゃんの頃くらいだったらしいし、双子で体型も一緒だったのは。
「リョーちゃんの、(婚約者)最年長の私でも良いのよ?」
「陽菜ちゃん、妹を連れて来たと思われるから」「ふふ、では私が」
「えみとさんの見た目は確かにそうだけれども、でもなんか気分的に」「デハMEが」「無理あるでしょケイさん」
僕の腕を取る景香お姉ちゃん。
「じゃ、入学式に入っちゃいましょう」
「あっうん、じゃあ先に」「クラス分けが出てるみたい」
「ほんとだ、僕の名前はっと」「きっと同じクラスよ、多分」
ちらっと後ろを見ると、
見送ってくれる婚約者たち、
あと保護者も『後で』っていう感じだ。
(元メイド長は、逃げるように車の中へ……)
いやほんとに辻褄合わせか何か出来ると思って来たのだろうか、
父さんに言われて嫌々って感じ? だったらそもそもここへ来てないかも、
まあいい、もう2度と会う事は無いだろうから……で、新入生のクラス一覧はっと。
「……涼一、ほら、遠藤涼一ってあそこに」
「ほんとだ、景香お姉ちゃんは」「……あー、隣のクラス」
「まあ、こんなもんだよ」「涼一のお父さんの力でも、さすがに無理だったのね」「……」
実は数日前にメールで来てたんだ。
『涼一、景香ちゃんと同じクラスになりたいか?』
『うーん、むしろ別の方が良いかな』
『わかった、そう手配しておく、もう取り消せないぞ』
むしろ距離があった方が良い。
ということでそれぞれのクラスの下駄箱へ。
「じゃあ涼一、名残惜しいけど」
「そっちのクラスで友達作ってね」
「でも私、涼一のために」「それはそれだから」
下駄箱チェック、
おお、ちゃんと自分サイズのシューズが!
そして履いて廊下へ、周囲はクラスメイトか。
「涼一!」
「いや名残惜しいとか言って待ってるとか」
「どうせ隣のクラスだもの」「じゃあ、そこまでは」
ていうかやっぱり目立つな景香お姉ちゃん、
スタイル良いし、もうすでに16歳になっているからね、
下手すると、日数単位で言えば学年最年長かも知れない。
(見惚れてる同学年も居るや)
制服姿がアイドルみたい、
さすがにここでは腕は組めないな、
ということで微妙に距離を取りつつ進む、そう、イトコ同士的な距離で。
「あっ、じゃあ姉ちゃん、また」
「今から同じクラスに申請って出来ないのー?!」
「いやそんなシステム無いでしょ! 入学式の後でね」
ということでクラスに入って自分の席へ、
すでに座っている男子生徒の中から僕は見つけてしまった、
そう、僕が応援しているJリーグチームのマスコットを、カバンに付けている男を、しかも複数!
「ええっと、はじめまして僕は遠藤涼一っていうんだけれども……」




