裏 第一章 1人目 田中凪の感想 寝取られ前のやり直し
「とりあえず顔会わせは終わったわね……」
破滅から人生やり直しの婚約者、
遠藤涼一くんとの初対面から数日が過ぎ、
明日から高校入学という夜、彼は戸別の部屋へ籠ってしまった。
(案外、繊細なのね)
元婚約者・疾風くんと初めて会ったのも高校の入学式、
あれから3年間は本当に楽しかった、青春を満喫した、最高の宝物……
それを結婚後も語り合って、永遠に続くと信じて疑わなかったわ、それを、私は……
「もう、取り返しがつかない、それは紛れもない事実」
ベッドから机の上を見ても、
もう、疾風くんとの思い出の写真立ては無い、
あの頃の物は全て処分した、おそらく実家にあったものも全て……
(寝取られの自業自得だわ)
ようは裏切り、
一刻の快楽に溺れ、
全てを失う破滅の選択。
「ここからやり直し、最後のチャンス……」
天井を見ながら考える、
全てを失った私に垂らされた、
唯一にして最後の糸、それが遠藤涼一くん……。
(こんな私が幸せになれる、残された、たったひとつの方法ね)
そんな資格は無いと言われても仕方がない、
でも、母性と言うものに見捨てられたと聞く涼一くんを、
私が救えばそれは許されるかも知れない、そのために私は、全てを尽くす。
「あくまでもライバルとは共闘する、それがルール……」
15歳の涼一くん、
その前で女同士の醜い争いは決して見せる訳にはいかない、
もしそんなことをすれば問答無用でこのラストチャンスから外されるらしい。
(最初のチャンスは均等なはず、そこでいかに抜け出せるか)
幸いなことに私はこちらの会社の社長、
と同時に涼一くんのハーレム(仮)のリーダー、
いわば正妻のような立場、それを利用して先手が打てる。
「何より、こんな私に見惚れてくれている……」
何もかも汚れきった私、
刺青を消した痕は酷い火傷という事で誤魔化している、
しかし、その真実を知った時、彼は……ううん、知ってもそれでも愛して貰えるように、頑張らないと。
(早くデートをしたいわ)
私が考えているデート、
それは『上書き』と『新しい思い出』というコンセプト、
かつての恋人、疾風くんと一緒に行った場所は出来るだけ避けたい。
(どうしても思い出してしまう、比べてしまうから……それはしたくない)
私が近所の映像ミュージアムに行きたいのも、
疾風くんとの頃には無かった施設だったから、
涼一くんとは新しい思い出で、過去を上書きして行きたい。
「例の遊園地は、新しいアトラクションやレストランのみ行けば……」
色々と行きたい所、
楽しめる所が沢山ある、
疾風くんは野球を観るのが好きでよく一緒にボールパークへ行った。
(今度はサッカー、これも私にやり直しをさせてくれるチャンスとしか思えないわ)
私にはもう涼一くんだけ、
ライバルの足を引っ張る事は決してしない、
ならばとにかく私が、涼一くんを全身全霊で愛し続けるしか、もう道は無い。
「たった1度のやり直し、新しい、そして最後の恋……」
そのためには、
もっともっと涼一くんの事を知る必要がある、
今の所は私の正体がバレてはいない、そう、裏切りの過去を詳しくは……
(今、昔の婚約者について詳しく聞かれたら……)
どこまで打ち明けるべきか、
やはり、もっともっと深い仲になってから、
そう、涼一くんが、もう『引き返せない』と思う程に、仲が進み切ってから。
「かなり年上になっちゃうけど、心は高校生時代に戻したいわ」
高校生活の涼一くんと、
本当の恋仲になれば私は、
ある意味で本当にやり直しが許されるのかも知れない。
(一緒に高校に通う訳では無いけれども)
それでもお弁当を作ってあげたり、
家庭教師みたいに家で勉強を教えてあげる事も出来る、
何よりデート、まあ私はもう学生割は使えないけれども。
(あぁ、早く涼一くんと、恋人同士になりたい)
もちろん遠藤さんの望む所の、
母であり姉であるような部分も、
しっかりとこなしながら、涼一くんと……。
「涼一くん……私に、涼一くんを、愛させて……下さい」
そう呟き、念じた私は、
やり直しの幸せを夢見ながら、
大きく息を吐き、眠りにつこうとするだった。
(そうすれば、心の奥から、本当に……疾風くんに、別れを告げられるのだから)
ここで私は、
急にひとつの案がひらめいた。
「私の眼鏡姿とか、涼一くん、どうかしら???」




