第34話 デートというよりご挨拶という感じらしい
「ここが、えみとさんの実家の工場かぁ」
「ふふ、もうかなり古い見た目だけど、中の機械は一新したわ」
と、やってきたのは下町の大工場、
橋本製作所であーる、うん、デートというよりご挨拶に逃げた。
(出来るだけ事務的、非デートなチョイスをした結果です!)
地下鉄で二十数分だからね、
いつもは朝のジョギングついでで、
早朝に見るだけだったらしいので、昼前のこの時間なら誰かに会えるでしょうと。
「園美渡お嬢様!」
「あっ副工場長、土曜日なのにお疲れ様」
「おかげ様で仕事はあるのです、ただ、いえ何でも」
まあ工場も大変らしいからね。
「良い事じゃない、ふふっ、見学しても良いかしら?」
「お嬢様が見学だなんて! あっ、そちらの方でしたか」
「私の婚約者、遠藤涼一君よ」「はじめまして、すみません押しかけちゃって」
あ~~……という表情の副工場長さん。
「遠藤さんのおかげで工場が持ち直しました、ありがとうございます」
「ええっと、父に伝えておきます」「埼玉の銀行に頼ると言う発想もコネもありませんでした!」
「副工場長、それくらいにして、ね? 涼一君、行きましょ」「は、はい」「ご案内させて頂きます」
ちょっとカチコチした動きの副工場長さんに案内されて、
工場を見ると真っ先に目についた多数の従業員、みんな外国人だ。
「みんな、おはよう」
「オハヨウゴザイマス」「オヒサシブリデスネ」「オゲンキソウデ」
日本の人手不足は、
こういった方々に助けられているんだなあと。
「Cô ấy là con gái của giám đốc nhà máy.」
「Có tin đồn rằng cô ta sẽ làm bất cứ điều gì」
「Dường như nó được mua bởi một người giàu có để giúp đỡ nhà máy.」
えっ何語?!
「現在、4つのラインがありますが土日は2つのラインだけ稼働させておりまして……」
とまあ副工場長さんの専門的な話は聞き流して、
古い下地に新しい機械が乗っかっている感じは見て取れた、
いわゆる金にモノを言わせた感じか、でもまあこれが日本を、いや世界を動かしている感じ。
(そして何だかんだ見てまわって、もうお昼ですよ!)
工場見学が終わってご挨拶。
「涼一さん、お嬢様をくれぐれもよろしくお願い致します」
「は、はい、どっちかというと僕が面倒見て貰う側ですけど」
「ふふ、お互い助け合っていきましょう、ね? 涼一君」「う、うん、まあ」
ということで帰るのかな、
と思ったら隣の大きなお屋敷へ!
「パパ、ママ、ただいま~」
「あら園美渡、もう工場はいいの?」
「うん、お昼ご飯の時間だし」「は、初めまして、遠藤涼一です」
奥からゴルフクラブを持ってやってきたのは……!
「遠藤さんの息子さんかあ、始めまして、園美渡の父です」
「お、おおお、お父さん、ですか」「もうパパ、そんなの持ってきたら怖がられるでしょう?」
「いやこれは武器じゃないぞ」「さあ涼一くん、ウチでお昼を食べて行きなさい」「えっ」「ふふ、マンションには連絡済よ」
えみとさん、
さくっとLINEかなんかで伝えたみたいだな、
お昼は2人して外で食べてきますって、当番の景香お姉ちゃんに何か悪いな。
(まあ、僕の行動優先だろうから、まあいっか)
ていうか逆に僕がこっちで食べることになってるのも、
すでに伝わっているってことか、食卓に僕の分もあるし!
豪華な内装の家、さっき見えた居間のシャンデリアとか凄かったよ。
「さあ座って頂戴」「はいお母様、えみとさんの」
「あらもうお母さんって呼んでくれるのね」「いや、その」
「園美渡、涼一クンとはどうだ」「パパ、まだ会って4日目だけど、上手くやれそうだわ、ふふふ」
まあ結果的に、
今日のデート相手に選んだ訳だけれども、
デートというよりご両親への挨拶になっちゃった。
「涼一クンは何歳だったかね?」「じゅ、15歳です」
「園美渡の6つ下かぁ、うん、悪くないんじゃないか」
「むしろ、それくらいの方が色々と都合が良いわね」「ママ、そんな言い方、うふふ」
なんだかすでに、
尻に敷こうとしている予感!
「正直に言う、涼一クン、そして遠藤さんには工場を、そして私達夫婦の命を救われた」「は、はあ」
「それに対してのお礼は何でもする、だから、良かったらウチの園美渡を嫁に貰ってやってくれ」
「ま、まだ高校生になったばかりで」「でも涼一くん、娘の園美渡は何でも出来るわよ?」「ママ、何でもは言い過ぎだわ」
やばぁい、
このままどんどん外堀を埋められそうだ。
「すみません、まだえみとさんとは知り合ったばかりで、今後は時間をかけて」
「うむ、3年あるからな」「3年後が楽しみだわあ」「パパ、ママ、涼一君にプレッシャーかけないでよ、もう」
「とにかくええっと、えみとさんに、これから色々とお世話になると思いますが、が、頑張りますっ」「よろしく涼一クン」「よろしくね涼一くん」
……なんだか婚約のご挨拶になっちゃったな、
他に候補が5人居るって知っているのだろうか?
わかってて言ってたらプレッシャー半端ないのですが!
(えみとさんは、ただただ笑顔だ)
でも家族での食事だからだろうか、
心の底から喜んでくれているっぽい、
そういう意味では、このデートを選んで正解だったのかも、ね。




