第28話 誕生日デートが夢だったらしい
「おーいしぃー♪」
「景香お姉ちゃん、昼食もあるから」
「だからパイしか食べてないよ~、涼一もほらほら」
とまあやってきたのは、
タワマンの最寄駅から地下鉄で30分、
店員服が胸を強調するコスチュームなのとパイで有名なアメリカンレストランだ。
(アン●ラっていうやつですよ)
ここが景香お姉ちゃんが東京で行きたかった所のひとつらしい。
「まったく、僕の奢りだからって」
「んもう、身体で返すから!」「それどういう意味で」
「どんな意味でも良いわよ」「16歳になっての発言ですか」
ちょっと大人になったからって、そんな。
「誕生日にデートって夢だったんだ~」
「今までは」「兄さんや弟の世話でそれどころじゃ」
「あーうん、小4までしか記憶ないけど、伯母さんと一緒に大変だったよね」
大家族って女性陣に負担かかりまくるのは、あるあるらしい。
「だから手間のかからない涼一を気に入ってたわ」
「伯母さんも?」「そうね、だから『もう来ない』って聞いて残念がってたわ、でも」
「でも?」「やっぱりねって気持ちもあったみたい、農作業大変そうだったから」「うん、そうだね」
そういうことに、
してしまおうっと。
「あとは……ううん、なんでもない」
「言い難いこと?」「ほら、小4ってアレですもの」
「うん、アレがアレだからね」「アレがアレだから来なくなったんでしょ」
成長的な意味で言ってるよねこれ、
とてもファミレスで具体的に言って良い会話じゃない、
まあ確かに何事もなく通ってたら、その壁にぶち当たっていたかも?
(そっちの理由もあるってことに、してしまおう)
本当の理由は、
どうせ言えないんだし。
「景香お姉ちゃん、本当に自由を手に入れた感じだね」
「もう戻りたくない、お給料の無い仕事だもの」「とはいえ家の手伝いだもんね」
「あとは兄さんたちの奥さんたちに任せて、私は涼一と幸せになるわ……ん~、美味しい~♪」
……僕が景香お姉ちゃんを選ぶって、
まだ決まっては無いんだけどなあ、信じて疑わないってやつ?
確かに急に出現した20代の婚約者よりもは近いといえば近いけれども、その間には……
(見えない透明の、分厚い壁があるとでも言おうか)
このあたり、
もし景香お姉ちゃんを選ぶなら、
ぶち破らないといけないんだよなあ。
「そういえば兄弟からの誕生日プレゼントは何だったの?」
「まだ開けてないけど」「えっ」「ていうか、開けなくていいかも」
「食べ物だったらどうするの」「だから一応は確認するけど、まあ想像はつくから」
ドライというか、
さっぱりしているというか、
兄弟の居ない、一人っ子の僕にはわからない感覚だ。
(唯一、景香お姉ちゃんがお姉ちゃんっぽかったんだけどな)
そう、小4夏の、あの事件までは。
「夏休みに戻ったりは」
「すぐ上の桂実兄さんや、弟たちは戻ってきて欲しいでしょうね、でも涼一と過ごしたいから」
「両親に顔見せくらいは」「スマホでいつでも見せるわよ、ていうか嫁に行ってこいって言われているから」
逆に戻り難いのか。
「今日は景香お姉ちゃんの誕生日だからつきあったけど、僕がJリーグ観に行くのも、つきあってくれる?」
「もちろん! ほら栃木のチームってどっちも」「それ以上はいけない!」「えー」「近くの席にサポーター居たらどうするの」
「……東京って怖い所ね」「ごめん、大袈裟に言い過ぎた、試合のあるスタジアム近くでなければ平気だから」「何かあったら涼一、護ってね」
怖いサポーターはごく一部ですから。
「そういえば誕生日じゃないけど凪さんが映像ミュージアムかなんか行きたいって」
「良いわね、私も一緒に」「凪さんさえ良ければね」「それで涼一、どうするの、あの婚約者の皆さん」
「どうするって」「今後どうするの? 早めに振るの? それとも卒業の時に振るの?」「振るの前提なんだ」「えっ」「えっ」
……まあいいや、
ブルーベリーパイ食べようっと。
「ねえ涼一、会えなかった6年間の分、これからの3年間で取り戻せるよね?」
「取り戻すって言っても、会わなかった時間は戻っては来ないんだし」「その分会えば、一緒に暮らすんだし」
「そういう意味では、会う時間は確かに多くはなるけど」「そこで提案なんだけど」「はいはい」「ちょっと紅茶飲んでからね」
ぐいっと呑み干す、
ほんっとよく食ってたなあ、
将来は伯母さんみたいに太りそう、まあ仕方ないけど。
「それで提案って」
「うん、私ね、もう、いっそ……引かないでね」
「聞いてからでないと、なんとも」「あのね、もう……涼一と私、いっそのこと、一緒の部屋に、住まない?」
……ふぁっ?!?!?!




