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6話

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



一転しての静寂。

時が止まったような空白に、俺の声だけが響く。




「ぎゃー。や〜ら〜れ〜た〜」





月が綺麗だ。

赤色が混じるHPバーに笑む。




こんな応用ができるのか。少なくとも俺の風纏い以上の有用性なのは間違いない。




面白いものを見せてもらった。

感慨深く、少しの満足感と共に空を見上げた。





「効いていない...のか?」




「効いたよ?すごいね」





彼女も俺も動かず、先ほどまでの騒々しさが嘘のような静寂。

声の震えは警戒だろうか。怯えだろうか。

猪突猛進タイプだと思ったが、冷静なところもあるんだな。




「これさぁ、サーちゃん考案?」




「...そうだ。師匠の技だ」




「そっか。そっかぁ....」





なんとなく、あの子は将来ギルドの受付や食事屋さんの看板娘のようなことをするのではと思っていた。

容姿よし、器量よし、愛嬌よしの3拍子だ。間違いなくそちらの道でも愛される存在になったろう。


それがまさかの武闘派か。

更にはこんな技の再現、一朝一夕で出来るものではないことくらい俺にも分かる。




「な、なんだ?」




両手を上げた。

手錠をかけやすいよう手首を合わせて。





「捕まえていいよ」




「ば、バカにするな!そんな騙し討ち....」




チャリン。

金属の音が響く。




「その代わり、これでサーちゃんにクッキー買ってあげてくれん?お店わかるかな」




「....!?」





開いた掌には幾らかの小銭。

実はお金にはあまり余裕が無いのだが、あの店のクッキー代くらいなら出せる。




ヒリアの孤児院近くにはお菓子屋さんがある。

パン売るついでに経営しているらしいが、クッキーが特に安くて美味しい店だ。孤児院の子達全員へ行き渡るようとにかく数が欲しかった俺は度々利用させてもらっていた。




頑張った子には、ご褒美が必要なのだ。





「.......」





「....?.....あ」




またしても沈黙。

返事がないため少し考える。

そしてピンと来た。




「君の分もやね。えっと....あったあった」




チャリチャリとポッケを漁り幾らか追加する。

固まっていた彼女はそれを見て額に手を当て、ため息を吐いた。




「いらねぇよ....。しかもその金額じゃもう買えねぇ」




「え」




「値上げしたんだ。その値段で買えるのはもう孤児院の子供だけなんだよ。私は卒業したから...」




「あ、えー?せち辛ぁ.....」




言いながら俺に手縄をかける。

ギュギュと縛られながら、また時間の流れを再確認した。

俺にとっては地続きだが、この世界にとってはそうではない。相応の時間が経っているのだ。

そりゃこのようなこともあるか。





「...お、ちょっと待ってこれ世間話?嬉しいなぁ」





「勘違いすんな!気を許したとかじゃねぇ」





今しているのは職務上の対応ではなく、個人的な会話の領域だ。

これは関係値が深まった証。そう思って良いだろう。

笑む俺に、彼女はそっぽを向いて答えた。




「ただ...どう考えてもヒリアの関係者だろお前。技だけならまだしも型の事なんか他の奴が知ってるわけねぇし、私がヒリアの出身だと知ってからわざと攻撃貰いに行ったりよ...墓暴きもなんか理由があんだろ?じゃなきゃ私を殺して逃げてる筈だ」




「せんよぉそんなこと。サーちゃんの弟子にさぁ」




「師匠を呼び捨てにすんな!なんか事情がありそうなのは分かったってだけだ。お前、師匠の恩人のフリしてんだろ。茶髪の...私も聞いてるよ。でもな、もうその人死んでるって事も私は知ってんだ。師匠にとってどんな人かも知ってんだろ?だからそれやめろ」




「ああーそうそう。ランクトルムの丘でねぇ。悲しい事件だったよね」




「いやに詳しいのはなんなんだよ。あんまり茶化すと怒るぞ。師匠の大恩人なんだからよ...あと持ってった死体どこだよ」




「ここ」




親指サムズアップ。

自分を指差す俺を見て、彼女はまたため息を吐いた。




「あー、じゃあ名前は」




「ケイ」




「はぁ...何も言うつもりはないってか」




本当のことしか言っていないが、やはりお気に召さないみたいだ。




「本当なのに」




「100歩譲ってよ。お前が墓の中身と同じ名前だとして、もう1ヶ月も前に死んだやつが蘇るなんてあるかよ」




ごもっともな意見だ。

ぐうの音も出ないとはこのこと。

でも、事実そうなんだよなぁ。




もう詰所行くからこっち来い。そう言われて手縄を引かれる。

はいはいと従う俺の視界の端に、あるものを捉えた。




「ったく報告すんのめんどくせぇ。何も言う気無いならもう聞かねぇからな。師匠来る前に寝ときてぇし...そういや師匠はあの人の名前なんて言ってたっけ」




さらりと彼女の隣に落ちる砂。

嫌に気になり、見上げると先程の衝撃で傾いたのか不安定な屋根が見える。

ボロボロな外壁は人など住まなくなって久しい事が一目で分かるほどだ。

そんな家が音もなく、だが確実にその自重を支えきれなくなり、さらに角度をつけて....




「ヤバ!」




「な!?おい!」




繋がれた両手で投げ輪のように彼女を掴み、思い切り引っ張って後ろへ倒れ込む。

直後、外壁が裂け、柱がねじ曲がり、彼女の居た場所へ瓦礫が雨のように落ちた。




「っと...」




粉塵が巻き上がり視界を白く塗りつぶす。

血の気が引いた。酔いが覚めるとはこの事だ。




少しの間警戒していたが、続く崩落はなく視界も晴れた。

いざとなれば俺が上になるために、強く抱えていた彼女をゆっくりと離す。




「な、な.....」




「あーぶなかったねぇ。家脆なってたんやろね」




「離れろ!」




「そんな怒らんで?善意よ善意」




バッと彼女は離れて建物を見た。

家人がいるのか気になったのだろう。瓦礫を確認してホッと胸を撫で下ろしていた。




「人居ないっぽくてよかったね」




「本当だよマジ焦った....」




「怪我は?」




「...無ぇ。ありがとよ」




ここですんなり礼が出るあたり良い子なのかもしれない。




「それで、クッキーは今おいくら?」




「一袋6銀貨だよ」




「6!?昔2銀貨4銅で買えたのに....」




「商人組合のせいだ。材料の原価はあいつらが握ってるから好き勝手してやがる。孤児院には...恩人さんとの約束があるからって昔の値段で売ってくれるんだ」




「....?なんか俺約束したっけな」




「だからお前じゃねぇって...ん?なんだ?」




「はい、12銀貨。これで2人分やね」




「お前しつこ...」




「お礼言える良い子にはご褒美」




「はぁ?」




言葉とは裏腹にやや照れた様子だ。

少し強引気味に握らせると、ぶっきらぼうに手縄を引かれた。




兵士の詰所まで彼女はもうこちらを見ず、だが力任せではない手縄の引き方に都度気遣いを感じる。

心地の良い沈黙。

気分の良い散歩だった。




このままこの子をからかいながら楽しい楽しい尋問タイムが始まるかと思ったが、彼女は到着直後残業終わったから帰るわ。お疲れ〜と同僚に話してそそくさと帰ってしまった



せっかく捕まったのにそりゃあないよ。




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