5話
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「あーどしようどしよう。どうしようもないねぇ〜」
随分飲んだ。
誰に言うわけでもない言葉を呟きながら、宿へふらふらと歩く。
「死ななきゃならねー悲しいねぇー。あどうしようもないないどうしようも...」
バキィン!!
暗い夜道に火花が散る。
俺の愛用の杖...木製スタッフと、突き出された何かの金属が接触した音だった。
「フハッ!」
笑みが溢れる。
誰だ?背後からの攻撃だった。
まぁ誰でもいい。
酔いながらやるゲームは特に気分が良いものだからな。
「この街で墓暴きとは良い度胸だなぁオイ!お前が親玉か?」
「俺って墓暴きやったん?初耳やね」
「とぼけんなよ!これ見ろ、魔力探知機だ。お前は途中で合流したのも分かってる。現場に居なかったからって無罪にはならないぞ」
「あーそっかぁ。そかそか」
月の光を隠していた雲が晴れ、襲撃者の姿が露わになった。
チラリと周囲を見渡す。
月明かりはあれど既に日が落ちて相当経っている。俺がとった宿は街の外周近く。つまりは居住者の少ない静かな場所だ。街外れのこの時間に人影があろう筈もない。
いるとすれば彼女のお仲間...そう思ったが、眼前の女性兵士以外に誰も居ないようだった。
身長は低い。子供並みだ。
単騎で動く豪胆さと、あの言動はどことなくあの魔人さんに似てるな。
獲物は少し長めの両手剣か。低い身長ともう殆ど同じ長さだ。
凹凸のない体と兜で分かりにくいが声から女...兵士の服装から少なくとも成人。15歳以上だと分かる。
第一印象の総評はズバリ。
ちっちぇ。可愛い。
性格もこのような人物は好みだ。
あの魔人さんもそうだったが、話していて気分が良い。
「他はもう捕まえたぞ。まさか街に戻ってるとは思わなかったがお前で最後だ」
「全部話してくれるやん。優しいねぇ〜良い子だねぇ」
直後の金属音。
目前に迫った剣をスタッフで受け鍔迫る。
考えるより先に手が出るタイプか?
「抵抗すんな。暴いたのが誰の墓かは知ってるだろ。大事になったら死刑だぞ」
彼女の髪が揺れる。
俺と同じ茶髪だ。
俺は暇な右手を握ったり開いたりしながらつぶやいた。
「俺は寝てただけなんやけどな」
2、3間を置いて、彼女から次の手が無いか確認してから拳を振った。
大ぶりのそれを思った通り後ろへ飛び退いて彼女は大袈裟に避ける。
水筒の酒を煽る。
帰って寝るつもりだったが、少し暇を潰すのも良いだろう。
お酌...は無理だろうから暇つぶしの肴になってもらおうか。
「....」
今度は言葉もなく、彼女は肩に剣を担いで構えをとる。
(お...?)
それを見て笑みが溢れた。
少しからかいたくなり、俺も杖で同じ構えをとる。
「チッ、バカに....ッ!!」
突進、横凪。
魔力か何かで強化しているのかやや範囲が広いがそれだけ。
バクステ...バックステップで避ける。
想像通りならここで踏み込んで腹に掌底...おお、やっぱり掌底だ。
「はい!」
「なっ...」
パァン!と金属製の音が響き、彼女の体が大きくのけ反る。
俺の手には小盾。いわゆるパリィだ。
横凪、掌底1、掌底2連への流れは近距離の横避けを狩る基本的なコンボだ。
しかしこれ単体で用いるものでも無いし、初撃が当たっていなければこのように割り込まれる。
しかしハッキリした。
構えでもしやと思ったが、やはり俺の動きのトレースだ。
心当たりはただ一つ。
「君ヒリアの孤児院出身やったりする?」
ポンと彼女の頭に手を置いて言う。
一本だ。
「ッ!」
飛び退く彼女を追いかけて横凪。
着地を狙ったので避けられず両手剣でのガード。
「ガッ....!?」
掌底に移行するつもりだったが建物まで吹き飛んでいってしまった。
ぶつかった壁には亀裂が走り、大きな音を立てる。
(いかんね。あの魔族さんと同じ気でいたら殺してまうか)
「あーごめんね。大丈夫?」
「ゲホッ、ゲホ.....」
咳き込みながらなんとか立とうとしているがフラフラだ。復帰には時間がかかるだろう。
ため息を吐いてその場でまた横凪をする。
続けて掌底1、腹。
掌底2、腹と顎。
脚撃...雷属性のハイキックを挟んで、最後はバツ切り。
脚撃にスタンがあるからコンボの最後は融通がきく。
久々に見た対人型コンボだ。
だがこれは俺のスキルあってのもの。
相手も自分も決まった動きしか出来ないゲームでこその動き。
見栄えが良い魔術や、スキル単体。キッチンなどのホームアイテム等に興味を持った子は何人かいたが、コンボなんてニッチなものにまで目を輝かせたのは1人しか知らない。
2つ前の仕事で運命力のため助けた子供だ。
ヒリアという地方の孤児院に預け、俺は死んだ。命を救っても懐いてくれる子供ばかりでは無いが、彼女は特に人懐っこかったことを覚えている。
「な、んでお前がその技を...。お前もヒリアの...?」
彼女の縁者だろうか。
確か名前は...そうそう思い出した。
「いや、俺の故郷はここやねん。そんな知り合いが昔居て〜ってサーちゃんに聞いてない?」
そう、サラだ。
サーちゃんと呼んでいた。
俺はこのやり方だけど真似しても強く無いよと前置きしたが、面白いから見せてとよくせがんでいたな。
俺の前ではやや静かで天然な面が見えたが、皆の前では明るくてよく笑い、愛される良い子だった。
つまり自分を使い分けられるのだ。あそこまで世渡り上手が見えるとその後も安心して孤児院に託せたな。
「これ人に教えるような技ちゃうんやけどな。まぁいいや。サーちゃん元気?」
「師匠の名を...ッ!気安く!!」
酔っていることもあってか、しみじみとした気分になった。
思えば、過去出会った人物に会いに行ったことは一度もない。
会わないようにしていたわけではないが、暇がなかった。今回はその良い機会なわけか。
「呼ぶなぁ!!」
思い出を振り返っている内に彼女は雄叫びを上げ、剣を振り回して風が周囲を覆う。
先程の壁の欠片や砂埃が巻き上げられて吹き上がり、彼女の周りには明確に風の層が出来上がった。
「え!?これ風纏い?」
「ぬぅああああああああ!!!」
その風を推進力にして彼女は飛ぶ。
方向は正面。つまりは俺のところへ。
両手剣はその切先で地面を削り、迫るは逆袈裟だ。
「おもしろ!」
思わず叫ぶ。
モーションは初見だが、これはゲームのスキル<風纏い>だ。
物理攻撃力の上昇と攻撃範囲の拡大が出来るバフの一種。あの子にも見せたから間違いない。
(ゲームのスキルを自力で再現したんか!)
反射的に杖を叩きつけて相殺しようとするが、感じる手応えは無いに等しくから振った。それはこれが次の一手への布石であることの証だ。
舞い上がった粉塵。
見失った彼女と背後へ急激に収束する空気。
冷や汗と共に長年の習慣で動き出そうとする体を、今度はあえて押さえつける。
(ダメージ見たい!)
独自の技術で再現されたゲームのスキル。
実際の威力はどれほどなのか?
知りたくなった。知らなきゃ嘘だ。
「ああああああああ!!!!」
「ぅぉ...!!」
それは凄まじい衝撃だった。
圧縮されていた空気が、獣の咆哮のように炸裂する。
衝撃波が半球状に広がり、地面を削り、俺の体をぶっ叩く。
巨大な鉄球のようなものに肉体を弾き飛ばされた、そんな威力だった。
ただ吹き飛ばされる以上のダメージだったのは間違いない。
俺は爆心地から10メートルはあろうかという位置でやっと地面に着地し、そのまま更に数メートル転がった。
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