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7話

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「師匠!こっちです」




「ごめんね...メイ。待った?」




「時間ぴったりじゃないですか。ちょっと早く起きただけですよ」




私の師匠、サラ・エルウィン。

癖のある白い髪と、何を考えているのかイマイチ分かりにくいポワポワとした雰囲気を纏う穏やかな笑みを浮かべた女性。

高い魔力保有量により若さを保ち、未だ少女のような外見であるが今年で24歳。私達弟子の親代わりをしてくれた立派な大人だ。



彼女は通称<空裂き>と呼ばれ、その見た目からは想像もできないほどの武功を何度も立てた国でも随一と言われる実力者だ。

今日は私が衛兵となってから1年の祝いの日として、私に会いにきてくれた。



時刻は昼。本当は師匠を待たせる事が無いよう早めに来ていたが、時間通りに来た彼女に少し安心する。



昔なら、師匠はもっと早い時間に着いて私を探していただろう。

この違いは彼女からの信頼を勝ち取った証でもあった。




「じゃあ入りましょうか。席は空けてもらってますんで」




「うん」




店の中は大繁盛。

美味い店なのだから当然だ。

師匠は静かな店を好むが、私が無理してそのような場所に連れて行ってもこの人は喜ばない。


そのため、ちゃんと私の好きな店に連れてきた。




「ここは鶏肉料理が美味くて、これですね。これオススメですよ。ソースの仕込みが出来てる日じゃないと食えないんで今日は本当にラッキーです」




「そう....メイのおすすめにしようかな」




「おっちゃんこれ2つお願い!...それで、ヒリアの方はどうですか」




「変わらないけど...うん、リクとユイも卒業したよ」




「ハッ、あの2人が。どっちも冒険者ですか?」




「ううん。リクは騎士になるんだって....結局王都に行ったんだ。メイと同じだね。ユイはそうだね。あの子は自由だから」




彼女は笑っている。

普段言葉少ない師匠であるが、今日はいつもより話してくれている。目の下に隈もない。




それがとても嬉しくて、色々なことを話した。

この街に配属されて一年。手紙のやり取りはしていたが、顔を見て話をしたのは久しぶりだ。



彼女は孤児院の子供達を鍛えるが、弟子として取ったのは才能ありとして目をかけた数人のみ。

孤児院の子供の数が少なくなっていることもあり、先ほどの2人が最後の弟子。最後の適性ある者たちであった。



だからこそ心配だったのだ。

最後の弟子が卒業して、その後この人がどうなっているのか。



師匠は...不安定な人だった。

過去に恩人を失った事が原因でかなり荒れたらしいと聞いている。

もう何も失わないように鍛え、それ以外の全てを拒絶していた時期があったと。




弟子を取り始めたのもここ5年間のことだ。

同じく恩人繋がりで交流のあった領主様から弟子をとってみたらどうか、そう言われて私達の面倒を見始めたらしい。



師匠は私達にとても過保護だった。

四六時中見ていなければ不安だったらしく、監視の目は自らが寝ることすら惜しむ程。

大切なものは自分で守らないと簡単に失ってしまう。その言葉と酷い隈。それを見れば、過去の思い出がどれほど師匠の心に深い傷を残しているかは一目瞭然だった。



元より孤児。

皆大切に思われるのが嬉しくない筈はない。



だが、この人を親代わりに思えば思うほど...早く一人前になって安心させたいと思うのが弟子全員の共通認識だった。




そんな彼女は「恩人」の事をあまり話さない。

弟子の中でも特に私は目をかけられている自覚があったが、それは粗暴だった私が起こす問題行動の他に「恩人と同じ髪色だから」だと知ったのはかなり後のことだった。



それに関して特に思う事はない。

私たちで忘れさせてやる、くらいには思っていたが結局は故人。師匠がどう思うか以外は興味もなかったからだ。




恩人の故郷らしいこの街へ配属になったのも私からの希望ではなく茶髪だったから、上がそう決めた。それだけ。

元より目指すは兵士ではなく王都勤めの騎士。問題行動を起こさない、という実績を積んで王都に帰る手筈でこの地にも、自分の髪色にも思い入れは無い。




(チッ、師匠といる時に思い出すなよ...)




それでも、昨日のことは不快だった。

茶髪の少年。

何故か私がヒリア出身だと言い当て、まるで師匠の恩人、その人であるかのような言動をとるあの男。



思い入れのない自分ですら腹が立った。

自分の親とも言える人物にとってこの話がどれほどのタブーか。

その人物の影を忘れさせるためにどれほど努力したか。



成果は目の前にある。

もはや彼女は必要以上に私達を心配しない。

信じているからだ。

自分が育てた弟子達は、そこまでやわじゃないって。




(でも、いやに強かったんだよな...クソッ、気になるな...)




ヒリア地方の人間だと知って、わざわざ死人のふりをする怪しい男。

だが、強かった。ただ自分の技が通じなかっただけではない。


私は生まれてこの方単純な腕力では負け知らずだった。

その私を、ただの木の杖で吹き飛ばしたのだ。



攻撃を受けきれなかった経験すら師匠以降数える程で、それらは全て規格外の実力者によってもたらされたもの。

全員が名声高らかに歌われる猛者ばかりであり、それが...あいつがただの墓暴きではない証拠でもあった。




そして...あの動き。

私が師匠への敬愛一つで覚えた技。



手癖なだけだからと偶に見せるあの動きを彼は完全に模倣していた。

真似する私に、師匠が「覚える必要はないよ」と前置いて笑ったのを覚えている。強請っても稽古はつけてくれず、見よう見まねで形にした。



つまり弟子の私にすら教えていない動きだ。それをあいつは...





「悩み事?」




「!....いや.....はい」





図星を突かれて否定しようとし、辞める。

考え事をするとすぐ黙るのは私の悪い癖だ。

もうバレてる。隠してしまうと師匠はその点遠慮しない。心配から来る行為にはブレーキが壊れているのだ。




気付けば目の前に料理が来ていた。

手を付けずに待つ師匠の目は「話して」と言外に、しかし明確に示している。

一口摘んで、言葉を続ける。




「昨日捕まえた墓暴きが妙な奴でして」




「...墓暴き?」




一瞬で空気がピリつく。

師匠の予感を否定するため、即座に言葉を続けた。




「師匠の恩人さんの墓じゃあないっすよ!ほら、この前の魔王討伐で死んだ...」




「...そう。でも趣味悪いね。手伝おうか?」




すぐ雰囲気は元に戻ったが、些か気分を害した様子だ。鶏肉を突き刺すフォークを持つ手に力がこもっている。一発ぶん殴ってやろうか。そんな気持ちなのが私でもわかる。

師匠の恩人も故郷はここだったらしい。いつか帰ってみたいと言った彼の願いを叶えるため死後墓はここに建てたと、その土地を私に守って貰えるのは嬉しいと卒業前に聞いた。

世の中には人の命を救って死ぬ殊勝な茶髪が多いらしく、何故か彼らの故郷は決まってここ、エゼ村だ。

恩人の故郷へ墓を建てたいと何年か毎にやってくる人々用に、ここエゼには茶髪専用の英霊碑を兼ねる墓地がある。

そこを荒らす墓暴きとなればこの反応で当然だろう。




「もう捕まってますから大丈夫ですって。師匠が出てきたらみんなびっくりしますよ」




「でも気になる...そうだよね」




「まぁ...はい」




「どんな人?」




「それが...」





特徴を話そうとして詰まる。

墓暴き、の時点で普段温厚な師匠があの様子だ。あれほど思い入れのある恩人を騙る人物になんて出会ったら...どうなってしまうだろう。

一体どんな目的があるかは分からないが、少なくとも師匠を怒らせることだけは分かる。





(顔面残るかな...いや、師匠が本気だったら残らねぇよなぁ...)




想像して背筋が凍った。教会の聖女が隣に居てもこれは無理だと匙を投げるだろう。

元より怪しい男だ。どうなっても構わない...筈だったが、昨日崩れる家から助けてもらったことが頭をよぎる。

流石に後は野となれ山となれ、という対応は憚られた。



そうなると出来るだけ師匠の恩人と話題を遠ざける必要がある。そうは思うものの、あいつがそもそもそのフリをしているせいでどこを切り取っても....

恩人についてやけに詳しくそのように振る舞う。もちろんダメだ。

師匠を知っていて同じ技を...ダメに決まってる。

故郷の事にも詳しくて、地元民しか知らないクッキーを...ダメだ。

ダメだダメだ。茶髪だって情報ですら良くない。



これらを切り取って残る情報は....




「長い...杖って言うんですかね。木で出来た杖をこう...魔法使うんじゃなくって、それで殴ってくるんですよ。それも凄い力で...」




「杖....?」




「それに、その...逃げられる筈なのに大人しく捕まったり。なんか私も助けてくれたりで...よく分からん奴でして」




「人を...助ける....」




「だから気になっただけですよ。でも協力的でしたし、師匠に何かしてもらう事は無いです。また何かあったら手紙にでも...」




師匠のフォークを持つ手が止まった。

不味い。そう思い捲し立てるが、既に遅かった。





「会ってみたいな。その人に」




「...」




やってしまった。何がいけなかった?

師匠はやや視線を細め、口元には笑みが浮かんでいる。

今出した情報の内何かが...師匠の琴線に強く触れてしまったのだ。




「いやいや、もう捕まってるんですって。昨日夜取り調べして、多分今は牢屋...」




「会わせてよ、メイ」




有無を言わせない迫力だった。

無駄なんだと悟った。この状態の師匠は、恐らく私が断固断っても1人で行ってしまう。




「ね、行こう?」




「め、飯食いましょうよ。せっかく来たんですし...」




「私はもう食べたよ。行こう?」




「...うっす」




いつの間にか無くなっていた師匠の皿を見て、もはや万策尽きたと項垂れる。

ヤケクソ気味に残りを頬張り、立てかけていた愛用の両手剣を担いだ。


実際ヒリアの事に詳しいのは気になっていた。死人って事は無くても、元々師匠の知り合いなのかもしれない。

その場合見てもらえれば確実だし、会ってもらうのは良いかもしれない。



問題はその後。

彼が生きているかどうかだ。




(最初の一撃は防いでやるから残りはどうにかしろよな...)



多分碌なことにならない。

その予感を全身で感じながら、2人分の銀貨をテーブルに置いて私達は店を後にした。





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