27話
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メイが去った後も、夜闇に紛れて二人の会話は続いた。
風が草を撫でる音だけが会話の間を埋める。
家の中から漏れる明かりは薄く、夜闇によって室内と切り離された2人の空間は、まるで別世界のようだった。
「想いも同じ。そうだよね」
「どうだかな」
想い。その言葉を聞いてシェナは腕を組んだ。
指先が、二の腕を一定の間隔で叩いている。
苛立ちの合図だ。
誰の目から見ても明確な、踏み込まれたくない場所に近づかれた時の拒絶であった。
「貴女にとってケイくんがどういう人だったのか、なんとなく分かるよ」
「ハッ。知った口をきくじゃないか」
「だって、私もそうだったから」
シェナの指が止まる。
「生きてて良かった。また会えて嬉しい。でも、自分だけのケイくんじゃなかったことが、悔しかった。違う?」
「キ……ッ!」
歯を剥いてシェナが睨んだ。
その目には殺意というより、もっと幼い怒りがあった。
見られたく無いものが入った箱を、勝手に開けられた子供のような。
それでいて、もう閉じることが出来なくなった箱を前に、怒るしかなくなったような。
「私達を見つけた時...怒ってた理由も、本当はーーーー」
「分かっているなら踏み込むな......!」
低く、震えた声だった。
「あの人は私を赦してくれた!今も相棒だと言ってくれた!!それで良い!求めやしない!ああ今日の事は酷く教訓になったさ!!」
シェナを見つめるサラの瞳には、2つの感情がある。
一つは怒り。愛する男に杭を打ち込んだ女への罰。<わざと>痛いところを突いてでも分からせたいその罪の重さ。
二つ目は...同情。愛する男を傷付けたもしも。それがどれほど辛いかは、既に痛いほど知っていた。
「私情を優先したりなど二度とせん!あの人が望む全てを叶えることが、今の私のーー」
だからこそ、サラはシェナを許した。
味方に引き入れることに決めた。
彼女はきっと、ケイの為ならなんでも出来る。
「それだと、ケイくん死んじゃうの」
「は……?」
シェナの顔から、怒りが抜け落ちた。
「何を……何を言っている。理由がない!理由もなく、あの人が死ぬわけがーー」
「理由があれば、死んじゃう人なのは....」
「っ!」
「私達がよく知ってる。でしょ?」
喉が、小さく鳴った。
「見たよね。貴方の攻撃に、迷わず割り込んだところ」
「ぅ...」
「私を助けるためだった。そこなの」
シェナは答えなかった。
「話を聞いてて分かったの。領主様の時も同じなの。ケイくんは誰かを庇って死んでる。貴方の時もそうだったんでしょ」
脳内にフラッシュバックするあの時の記憶。
その光景に、何も言えなくなった。
「それがケイくんなんだ。誰かの為に走って、助けて、命すらも投げ出す。きっと、何度もそうしてきた。生き返れるって知ってたから。死んだら終わりの誰かより、自分の命が軽いから」
サラの指が、シェナの服を握った。
語気が強まる。
「ケイくん言ったんだ。<死ねなくて困ってる>って。今のケイくんは....きっと、また誰かの為に死のうとしてる」
「...魔王になったからか?」
「それだけじゃないと思う」
「なぜ分かる」
「分かる。分かるよ。ケイくんのことだもん」
サラは小さく息を吸った。
「ケイくんは、ただ魔王になったくらいで死のうとしない。人に怖がられても、誰かに狙われても、笑って...きっと、なんとかしちゃう。そんな人だから」
シェナの表情が歪む。
それはケイの身の先を案じてのことだけでは無い。
誰よりも尽くすべき人物の隣に先んじれなかった悔やみ、そして彼の懐へ一番に入り込んだ人物への羨望だった。
認めたくない。
けれど否定できない。
今、彼を誰より理解しているのはこの娘なのだと。
「だったら何が...誰が理由だ。アテは?」
「分からない」
サラは正直に言った。
ならばとシェナが問う。
「聞き出すべきだ。違うか?」
続ける。
「隠しているなら暴いて受け止める。話したくないと言うなら、話すまで、ずっと隣にいる。あの人が...そうしてくれた様に」
「...」
「その上で、私達の手でもどうにもならなくて。どうしてもケイさんの死が必要だと言うのなら」
シェナの声が、わずかに掠れた。
「待っている。そう言うさ。事情がなんであれ...それがあの人の願いであれば、私は待つ。何年でも、何十年でも。その年月が如何に私を塗りつぶそうと必ず。相棒として、私のままで」
「...ダメ。それじゃダメなの」
「何故だ。お前の魔力量ならば人族の寿命など」
「1度触れたから分かるの。見ちゃったの」
そうしてサラはついに手をかける。
この会話の目的。
真に伝えたかった言葉へと。
「ケイくんの魂はもう...ほとんど、残ってないの」
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