26話
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結局私たちはベルクミアには降りず、ヒリアへ蜻蛉返りとなった。
地上の方はあえて見なかったが、騒ぎになっている事は明白だ。
被害は出していない、とは言っても街のすぐ外であれほどの爆発や炎。毒は幸運にも扱いが難しいものらしく、地上まで散る頃には無毒化しているだろうとあの獣人は言っていた。
だが街の近くで、それも丸切り見えるところで使った事自体が問題だ。その一員だと知れただけでどんな処罰があるかわからない。
しかし師匠といればこれくらいの無茶は日常茶飯事だ。どうせ私がどうこうできる問題ではない。今回のこともそう思う事にした。
とりあえず街から離れたその後、これからどうするのかと聞くと困るケイ。
何かを悩んで次の行き先に中々答えが出ないあいつに、一度ヒリアに戻れば良いと伝えると「その手があったか」と何故か驚いていた。
「戻ればいいのか。なるほどな...」
辺なところで抜けているものだ。
これまで家がなかったわけでもあるまいに。
ヒリアに戻ったのは日が落ち切らない夕方。
あの獣人を家に入れるか入れないかで一悶着あるかと思ったが、師匠はすんなり迎え入れた。
その視線が先ほどより少し優しくなっている事に気付いて私も理由を聞かなかった。
あいつとは浅からぬ仲であったことが私でも分かるやり取りだった。30年ものの後悔と再会。師匠も感じるところがあったのだろう。
私だって感動的だとも思ったが、それよりも感じる疑問がある。
あいつは生き返った先々で毎回あんなことを?
理由が無くても人を助けそうな性格なのは感じる。実際悪いやつでは無いのだろう。
その証拠に師匠やあのシェナと言う獣人も、とても深くあの男に入れ込んでいる。
<蘇る度にほっとけん人多くてね>
だがあの言葉が頭をよぎる。
ヒリアでの出来事も、ベルクミアでの聖剣探索も、あいつはいまいち誇った様子はない。
話題を振れば自慢げだが、特別視する様子がないのだ。
もしかすると...あいつにとって、ヒリアのこともベルクミアでのことも、特別なことではないのではないか?
なら、一体いつから?
何度こんなことを繰り返してきたのか?
その理由は?
「大理石は綺麗だね〜。綺麗だ〜と嬉しいね〜♪」
視線の先には、家の地下に何かを作るケイ。
自分の拠点を作ると言い出したあいつに、同居すると言って師匠が譲らず結局は家の地下に自分の空間を増設する形で落ち着いた。
街の人にでも頼むのかと思ったが、あいつは自分で土を掘り床や壁を出現させ瞬く間に地下室を作り上げた。
手元に四角い魔法陣のようなモノを浮かべながら、独り言を呟いて続々と家具や何かの設備を設置していく。
王都でしか見たことの無い美しい石の床や壁。
様々なツールが置かれた作業台。
どこからか水を産む青い箱。
見た目と中身が全く釣り合っていない収納。
全ての設備に管が繋がっている謎の装置。
どれを取っても、仕組みに想像もつかない構造物ばかりだ。
ただ建築するだけでも、1人でやれば本来数年がかりとも言える作業だ。
しかし、鼻歌混じりのケイによってその日の夜には形になってしまった。
側から見れば十分過ぎるほどのスペースと物があるが、
「配線の配置が」
「畑の自動化が」
などと言いながら飯の誘いすら生返事なあいつの作業は現在、夜中まで続いている。
完成した姿が途中から楽しみになってしまってダラダラ見ていたが、まだ終わりそうに無いと確信し腰を上げた。
答えのない話だ。
あいつが何をしてきたか、その狙いはなんなのか、なんて。
見ていれば分かる。
どうせ深い考えなど無いのだろうと。
「これはあっちで〜、あっちはこっち〜♪」
上機嫌なあいつを置いて師匠の家に上がる。
2人も暫く地下で一緒にいたが、気がついたら居なくなっていた。
寝る前に一目師匠を見ておこうと寝室を見るが、いない。
(どこに....)
部屋を見渡す私の耳に、微かな声が聞こえる。
窓の外からだ。
声は2つ。
なんとなくゆっくりと窓の隣へ張り付き、耳を澄ます。
「眠れないの?」
「....夢が、醒める気がしてな」
聞こえるのは師匠の声と、もう一つ。
あの男と一緒に居た時とは全く違う声色。
昼間のどこかへりくだった印象のある高く、抑揚のある話し方ではない。
落ち着いた声だった。
ずっと静かで、平坦で。
揺れぬ水面をすら思わせる。
話しているのが誰なのか、一拍置いてやっと理解するほどの違いだった。
外にいるのは師匠とあの獣人。
それしか考えられないと分かっていてなお、一瞬迷うほどの差異だった。
「そうだね。分かるよ」
「.......」
「.......」
そこからは暫くの沈黙。
このままずっと黙っているのかと思った次の瞬間。
シェナの声がした。
「すまなかった。あれは私が冷静じゃなかったよ」
「...いいよ。でも一つだけ」
「なんだ?」
「ケイ君のこと」
「...だからなんだ?」
「聞かせて」
「失った。それだけだ」
「私も。だから聞きたいの」
苦々しい間がまた開く。
数秒のため息のあと、彼女はゆっくりと語り出した。
「守られて、支えられてばかりだった」
短い一言。
しかし思い出を振り返り、しみじみと感じ入る。そんな呟きだ。
「あの時も、ケイさんは一度帰ろうと言ったんだ。だけど私は聖剣の分前で全部恩返しするつもりで、それで...」
「....」
「私を庇ったケイさんは即死だった。何も出来なかった。それを受け入れるのに随分とかかったさ」
「...だから街にいたんだね」
「ふん...そっちは?」
「見送ったよ。身支度済ませて、遺言も残してた人を。帰ってくるわけなかったのにね」
「....辛いな」
「一緒だよ、多分。だから...許したの。ケイくんを傷付けた、あなたをね」
ピリリと響く魔力の気配を背に、部屋を静かに出る。
盗み聞きしていい話しでは無かった。
逐一重い。
話が重い。
今日、この手の話はもうお腹いっぱいだ。
伸びをしながら自分の寝室へ向かう。
師匠が許したなら、私が変に距離を作ることもないだろう。
それにあの声だけなら...小さい頃憧れた絵本の冒険家。その面影が確かにある。
明日はあいつに色々聞いてみようかな。
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