23話
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「だぁぁぁれぇぇだぁぁぁあああああ!!!」
「そっちこそ、だれ」
まだ遠いのにビリビリと空気が震える。
まさに文字通りの怒声。ここまで直球な怒りの感情を見るのもそう機会が無い。
声量で空気が震えているわけではない。
感情で体から迸る魔力が、ここまでその余波を伝えているのだ。
「じゃまぁ.....するなぁぁぁぁぁああああ!!!」
尚も急速に接近しながら、彼女が手首に装着した小型クロスボウから矢を発射したのが見えた。
子供のような体型の彼女が持つ更に小型なクロスボウ。
見た目通りなら数メートル飛ぶかどうかのシロモノ。
しかし放たれる矢は地上から1kmはあろうサラの位置まで瞬きの間に届き、そして...
ドォン!と聞こえる重い音。
飛竜は高度を伸ばし、離れたにも関わらず届く衝撃と閃光。
爆発したのだ。
あれほど小さな矢が、一軒家を丸々吹き飛ばせるほどの威力で。
「チッ...!」
しかし爆炎は直ぐに吹き飛ばされ、サラは無傷。
俺と戦った時のように空気の層を作って届かせなかったのだろう。
更に高度を上げる飛竜と、吠えるシェナの間にサラは残る。
「無駄」
続けて矢は幾重にも放たれるが、サラは意に介した様子はない。
何も通じないと分からせて戦いを収めるのか、相手がまだ街中だから反撃しないのか、あるいはその両方か。
やがてシェナが直下...外壁の外まで辿り着いたあとも、彼女からの反撃は無かった。
普通なら空を飛び、対空砲レベルの攻撃を浴びせても無傷の相手に有効打など難しいだろう。だが今回、この程度で手が尽きる様な相手ではない。
「むーむむ、むむむ....」
(ふぁー、顔まで結界保護されてるせいで声も出せんのやが)
メイに目線で訴える。
2人ともこれで怪我をするのは良くない。
「え、ああ、なんだよ」
事態の唐突さについていけなかったのか、惚けていたメイが俺の声で振り向く。
「むー.....」
「なんか喋りたいのか?あいつなんか危ねぇし師匠来るまでちょっと待って...」
「むー!むーー!!」
「分かった分かったよ。待て待て...」
その間にも戦況は変化する。
射出される矢はどんどんと増えていき、もはや弾幕と言って差し支えないレベルにまで達していた。
畳み掛ける様にシェナが仕掛ける。
タイミングを合わせ、一面壁のような密度で放たれた矢をサラはため息を吐きながら弾いた。
「数だけ増やしてもーーー」
呟く視界の端、空に小さな影。
矢とは違う、ゆっくりとした落下。
落下傘に括られた細い筒。
矢のように細い用器の中には、何かの液体....
次の瞬間には、空が裂けていた。
光が弾け、遅れて熱が押し寄せる。
晴天が、赤に染まる。
(焼夷弾の方か。俺と居た時より威力が上がって...やばいな、決めに来てる)
「火が...でも師匠には」
「違う。狙いは周囲の...いや、ちょっともうそのままお願い」
「はぁ?」
周囲一帯を焼き尽くしてもサラには届かない。だがそれで構わない。
シェナはサラの魔法の仕組みに当たりをつけたのだろう。
「だから無駄....」
矢を吹き飛ばしたのは風。操るのは空気の流れ。圧縮した空気で自身を包む鉄壁の防御。
ではその空気はどこから持ってきている?
1から生み出す?
「っ...ゴボッ!...!!」
違う。
「息がしたかったのか?かわいそうに。生憎今日の天気は炎のち毒だ」
「ッ!?」
熱によるダメージが狙いではない。
酸素の燃焼もブラフ。
本当の目的は奪った視界のその先。
炎の周りを覆った毒霧を隠すことにあった。
炎を吹き飛ばし、薄くなった酸素を補充するその先を汚染した2重の罠。
耳元で聞こえた声を振り向きざまに吹き飛ばそうとして、更に気付く。
「魔力が.....!?」
「特別性だよ。当然な」
マスクを装着したシェナが、クロスボウを変形させて撃鉄を起こす。装填されているのは矢ではなく杭。
魔力の収束する気配を感じ、その爆発が直撃すると確信して、俺は。
「死ね」
「そぉい!!」
体ごと、その間に割り込んだ。
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「そのまま投げて」
「はぁ!?なんでだよ!!?」
「ええからええから。俺動けんしサーちゃん危ないねん。ほら、一気にグイッと」
「えぇ...?いや....くっ....分かったよ!」
そんなやりとりの後、結界魔法で雁字搦めのままのあいつを師匠のところへぶん投げた。
結果はドンピシャ。
「よし!....いやこれ不味いか?」
爆炎と衝撃の奥で、何か固いものが金属を破壊する時と同じ音がした。
あの様子じゃ、砕けたのは....
「ひゅー危ねぇ!致命傷!!」
腹に空いた穴から煙を引きながら、それでも笑ってアイツが飛び出す。
その腕には、師匠。
「あぐっ!」
パキン...
いつの間にか口元に出現した2本の容器が噛み砕かれ、師匠とケイに飛び散って淡く光る。
「ん...!!」
声に呼応する様に2人の姿勢が安定する。
何が起きていたのかは全く分からないが、どうやらうまく行った様だ。
そして落ちていくもう一つの煙。
その表情は驚きと悲しみに満ちており、今にも泣きそうに見えた。
私達をいきなり襲った獣人だ。
なんでそんな顔をするのかと考える私の耳に、またアイツの声が響く。
「来い、ナーゲル!」
その声に呼応するかの様に、獣人が握っていた杭が一直線に師匠とアイツの方向へ飛ぶ。
当然、鎖で繋がった獣人もそれに引き寄せられ....
「ぅぁ....」
「む.....」
ケイは片手に師匠。片手に獣人を抱えた姿勢でまた笑った。
「メイちゃーん!飛竜回して〜!」
その様子に、自然と笑みが溢れる。
「なんなんだよあいつ....ハハッ。面白れ...」
出会ってからずっとむちゃくちゃばかり。
師匠がずっと思い続けた人。
その理由を、私は少しずつ理解し始めていた。
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