21話 2章 シェナ・レリックハート
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「では捜索は継続?」
「ああ、念の為進めておいてほしい。次の手がかりになるかもしれない」
「了解。シェナさんはそれまでベルクミアで休暇かー。良いなー」
「...いや、ちょっとした野暮用さ。もう切るよ」
遠隔通話の術式を切る。
色褪せた桜のようなローズベージュの髪と、少し黒がかった大きな獣耳をフードで隠し、1人の獣人が通りを行く。
いつもと同じ雑踏の匂い。
石畳を踏む音。人の気配。積み上がる荷箱。
この街に来るのも久しぶりだ。
だが見てくれだけ大きくなっても、その実ここは全く変わらない。
久しぶりなのは私がこの街を避けていたから。
避けていたのは思い出したくない理由があるから。
私の栄光と絶望の全てが、ここにあるから。
やがて路地を抜け、一歩一歩踏みしめるように思い出を辿る。
懐かしく思うと同時に、面倒な位置にアジトを作ったものだと少しイラつく。
スラムの中に拠点を作ったのは何故だったか。
自問する自分に苦笑する。
追っ手を撒きやすいから、そうだった。
馬鹿らしいものだ。
駆け出しの私を追う人物など...いやしなかったのに。
錆だらけの錠前を開け、埃まみれの部屋へ入る。
装備が散乱した当時そのままの部屋の中央。
色褪せた私と相棒の似顔絵を、指でなぞって...呟く。
「君もそう思うよな?」
言って、やはり首を振る。
相棒ならそうは言わない。
「え、なんで?かっこいいじゃん」
そんな幻聴が聞こえた気がして、目尻に涙が浮かんだ。
私と彼がこの街に居たのは30年前。
当時、故郷を飛び出した私は様々な土地を旅していた。
興味があれば何処へでも行った。
成果が出る事もあれば、空振りな事もしばしばで。だが充実していた。満足していた。
いつか名の知れた冒険家になって、大金を稼ぐんだと...漠然とした目標に向かって持てる時間の全てを準備に費やすその日々こそが、私が故郷を出てまで求めた全てだった。
そんな時だ。
最近入口が見つかったある古代遺跡の噂。遥か神話の時代、運命を操るとされた悪しき女神を遂に打ち倒した英雄の剣が、そこに眠っていると。
偶然近くに居た私は一も二もなく飛びついた。
この仕事は情報の早いものが全てを手にする。
商売敵に負けるものかと危険度外視で飛び込んだ私を、遺跡内で助けたのが彼だった。
年齢に見合わぬ多才さと、積んだ場数を思わせる対応力の高さ。
そしてどんな状況でも楽しもうとするその姿勢に惹かれた。
閉鎖的な故郷では誰にも理解されなかった冒険心を、子供のような考えは捨てろと否定され続けたロマンを...彼だけは馬鹿にしなかった。
今でも鮮明に思い出せる。
今日の冒険を語り合う夜の酒場。
危機にこそ笑う横顔。
握った手の暖かさ。
そして...血の海に沈む彼の笑顔。
私達には後がなかった。いや...後がないと私は思い込んでいた。一旦引き返そうと言った彼に無理を通したのは私だ。
飽きるほど聞いた話の筈だった。
功を焦り、周囲を見る目が疎かになった結果...大切なものを失う。
馬鹿な事だ。
何故この教訓話が巷に溢れているか。
その理由を、失うまで考えもしなかったなんて。
茫然自失になっている私を助けたのは、敵視していた筈のライバル達。
ショックで我を失っている間に聖剣はこれまで目にしたことも無い金額でギルドに引き取られ、私は望んでいた富と名声を手にした。
私は...一定範囲内の探し物を必ず見つけられる。
生まれつきそうで、目を閉じて念じるとその方角と距離が解るのだ。
探せる範囲は街一つ分ほどでこれに例外は無く、私が遺跡の探索を危険でも続けたのはこの能力があったから。
望む宝が実在すると確信できていたからだ。
例外はない。
そう....探す対象が存在しない場合を除いて。
彼と相棒と言える関係になって以降、就寝前彼の存在をこの能力で感じるのが習慣になっていた。
自分を理解してくれる人物がそこにいる。
世界がどうなっても、必ず味方で居てくれる人がそこにいる。
そう思うだけでどれほど明日が困難であろうと安心できた。
そして、もはやそれを感じることは叶わない。
ギルドから戻ったその日の夜。
私はその時初めて、最愛の人を失ったんだと実感した。
「.....」
絵の中の私達は笑っている。
あの輝かしい思い出と共に。
手にした栄光が、財産が空虚なものだと気付くのに時間はかからなかった。
私を見下していた者達からの賛辞も。
呆れるほど豪華な料理も。
1人では持て余す豪邸も。
どんな贅沢をしてもこの心が満たされることはない。
彼と共にいたあの時間に届くことはない。
時間が癒すと誰かが言った。
忙しければ気にする暇も無いと誰かが言った。
言われるがままこの30年、ずっと旅をし続けた。
何かを探して。色々な場所に行って。様々な人に会って。
確かに踏ん切りが付いたつもりで、ここへ来た。
なのに....
「辛い、なぁ....思ったより....辛い....っ」
思いは溢れ出る
「なんでだ...っ!なんで.....」
今の自分という殻すら壊して
「なんで自分なんて守ったっすか...ケイさん」
久しく忘れていた口癖が、自然と口をつく。
「自分は馬鹿っす....自分が死ねば良かったっす!ケイざんに...じんでほじくながったっす....」
似顔絵を抱きしめて、目を閉じた。
彼の顔を強く思う。
きっと能力に反応は無い。
あるはずがない。
だからこそ、自分を納得させるために力を使った。
かつてあの遺跡の中に何度も反応を探した様に。
遺体も持ち帰れなかった不甲斐なさを、彼が生きている一条の可能性と言い訳したあの日のように。
帰ってくるはずが無い彼を
反応があるはずがない彼を
なのに
今
なぜか
光が
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2章のストックが少し出来たのでゆっくり投稿していきます。
ゆっくり、ゆっくりね。




