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19話

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「.....んん......」




顔に日が当たる眩しさに、意識が浮上する。

柔らかな羽毛の手触り。かけられた布。

ベッドにいる。




「メイ、起きた...?」




師匠の言葉で意識が急速に覚醒する。

そうだ。私は師匠に飛びついて....




「あ...!師匠!!昨日はどうなって....えぇ...?」




飛び起きた私の目に映ったのは心配そうな師匠と、国の重犯罪者でもここまでされないだろうレベルの結界魔法で雁字搦めにされたあの男、ケイだった。






「大丈夫ー?お薬使ったから体はなんともないと思うけど...」




「普通に喋れるんだな...」





恐らく椅子に座っている姿勢で拘束されているのだろうと思うが、あまりに縛る魔法陣が多すぎて体が顔以外見えない。



そして思い出す。

これは私と師匠が出会って本当に最初の頃。

弟子たちに危険が及ぶと師匠が決まってやっていた「師匠が思う絶対に安全な状態」だ。



あまりに不評ですぐ見なくなった筈だが、こんなところでまた見る事になるとは。





「痛いところ無い...?」





「ええ、体はなんとも...師匠、は大丈夫ですか...?」




恐る恐るそう聞く。

そんな私に、師匠は苦笑しながら返した。




「うん。メイのお陰で落ち着いた。ごめんね...」




「それは良いんですが、その.....」




ケイの顔をチラリと見る。

分からないこと、そして抱える問題が多すぎる男だ。




「...?あー、家は直したから大丈夫よ」




「そこじゃねーんだよ」




応えつつ周囲を見る。

確かに昨日割れた窓、床は全て元に戻っている。




(マジで直ってるし)




「ケイくんは多才なんだぁ。なんでも出来るんだよね」




「何でもは言い過ぎよ〜サーちゃん。じゃなきゃ死んだりせんってぇハッハッハッ!」




「.....」




「じょ、ジョーク!ジョーク!へへへ...」





この期に及んで何故そこまで地雷を踏みにいけるのか不思議でならないが、師匠は確かに落ち着いてくれたようだ。


この男を見る目は変わらず不気味なものだが、今は話が通じる。周囲に魔力や空気を撒き散らしたり守ろうとする筈の男を圧殺しようともしていない。



ふぅと息を吐き、今度はしっかりとケイを見た。





「とりあえず、お前これからどうすんだよ」




「む、敬語...だよ、メイ。昨日メイを助けてくれたのもケイくんなんだから」




「危機に陥ったのもこの男のせいな気はしますが...まぁ、師匠が言うなら...」




「いやいや気安く頼むでメイちゃん。あんなに熱い夜を過ごしたのにさー」




「熱い...夜?」




「過ごしてねぇ!!誤魔化すなお前真面目な話ししてんだよ!」





殴り飛ばしたくなる気持ちを何とか抑える。

一瞬感じた師匠の殺気は洒落にならない濃度だった。

この爆弾をこちらに投げようとするな。ぶち殺すぞ。




「えーとね」




少し目線を師匠に向けるケイであるが、瞳孔かっぴらいて顔をガン見している師匠にびくりと震えてため息を吐く。





「つっても魔王になるのは不味いでしょー」




「そこだよ。何がダメなんだ?」




「んん....」




ケイが言葉に詰まる。

私は事情を深く知らない。

こいつが魔王の角とやらを自分に使用し、次の魔王となった。


信じられない話ではあるがそれが事実だとしてだ、何が問題なのか?

まずそこから知りたかった。




「体乗っ取られたりすんのか?」




「俺の魂が離れたら近いことになるらしいね」




「魂が離れるって...つまり死んだらってことだろ?アレで死なねぇのに魂が離れるとか無いだろ。他には?魔界の魔力とやらがなんか悪さすんのか?」




「それも今んとこ無いかな」




「.......だったら何が問題なんだよ」





居心地悪そうなケイはおずおずと、歯にものが詰まったように続けた。




「今...何も、問題はございません....」





「だ、だったらなんで死にたいんだよ。おかしいだろてめぇ」





「でもね、メイちゃん」





声がいきなり透き通る。

目線を合わせ、真顔になったコイツに少し驚く。

どの場面でもヘラヘラとしていた男に、このような顔が出来るとは。




「俺に問題は無い。でも、魔王なんよ。利用価値がある。脅威と感じる人もいる。俺の意思を無視して何かが出来るかもしれないし、そもそも存在を認められない人すらいる。魔族にも教会にもいずれバレる。そうなったら、迷惑がかかる人がいる。だから俺は...」





「全部黙らせるから心配いらないよケイくん」





「はー男前ぇ」





横から力強く断言され先ほどの覚悟を決めた顔は何処へやら。天を仰ぐケイ。

そんな彼の意思の確認のため、メイは続けて尋ねる。




「そんで、どうなんだよ...」




「だから今言った通りで」




「ちげぇよ。師匠はこう言ってるがどうなんだって事だよ。ここまで言ってる師匠ほっぽって死ぬつもりなのかよお前」




「あー、それは.......」




口籠る。

薄々思っていた事を指摘された、そんな顔だった。

そもそも昨日の時点で師匠はかなり直球の告白を言葉にしていた。



私にとって、重要なのはそこだ。

もっと言えば師匠の情緒だ。



元々は穏やかな人だ。

花を愛で、魔具を弄り、口数少なく静かに微笑むのが師匠だった筈だ。

だからこそ...あの苛烈な戦い方に憧れた。




それがコイツと出会ってからはどうだ。

泣き叫び、気絶し、取り乱し....瞳の光すら失っている。

この上告白まで否定されたらどうなってしまうのか...それが恐ろしい。





「んむ....それは.....」




沈黙の時間。

師匠は少し俯いていて、私はその顔を見れずにいる。

頼む。頼むから下手なことは言わないでくれ。




「.......」




長い、長い沈黙の後。

ゆっくりと息を吐き、奴は顔を上げた。




「......分かった。死ぬのは一旦止める。でも、サーちゃんは俺の思い出綺麗にし過ぎてると思うねん。好き言うてくれた返事は暫く一緒に過ごしてからね....」





ホッと胸を撫で下ろす。

落とし所としては及第点だろう。





「変わらないよ」




「....うん...」




「ケイくんが居ない14年間、私は変わらず好きだった。後何年経っても私はケイくんが好きなままだよ」




「...ありがとうね....。でも、今のサーちゃんのこともっと知りたいし、俺のことも知ってほしいから....ゆっくり、ゆっくりね」





変わらず真顔で答える師匠に少し不安になるが、なんにせよ事態は落ち着きを見せた。





「よし、じゃあこれ外してくれる?」





「なんで?」





「え?」




「え?」





そうして、この日から私の人生で最大にして最も奇妙な日々が...始まるのだった。








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