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17話

ーーーーーーーーーーーーーーー




「おい。目が覚めた。会ってやってくれ」




「ええの?パニックにならん?」




「お前が許すなら何も問題は無い話しだろ。それともぶん殴ったりするのか?」




「しないしない。言い方悪いけどサーちゃんが気にしてるだけやからね」




「ならそう言ってやってくれ。初めて見るくらい狼狽えてるからな」






そのようなやり取りがあって、俺はサラと2人きりにされた。

献身的だと思ったが、スパルタなところもあるなメイちゃんは。





「サーちゃん起きたー?調子どう?」




「....」




彼女はベッドに寝転んだままで、壁の方を向いており返事がない。

近付こうと思ったが、辞めた。

肩が震えているのが見えたからだ。




「んー....」




耳を掻いた。

どう言おうか。


こうなれば気にしてないから〜とただ言っても彼女は納得しないだろう。自分自身を許せない行動だったからああなったのだ。

軽い調子でも、おちゃらけてみても上手くいく未来が見えない。




昔ならどうしただろうか。

サーちゃんは元々上手く立ち回る子だった。ここまで落ち込む様子は初めてで、記憶を辿ってもヒントになりそうな出来事は全く出てこない。



そういえばさっきの孤児院、あの頃より子供の数減ってたな。

そろそろ子供達は寝る時間だ。シスターローザは今でもあの時間を取っているのだろうか。



声は優しいんだよなあの人。

泣いていた子も、拗ねていた子も、ページが進むにつれて静かになったのを思い出す。

小さな一日の終わりを整える、あのひととき。




....俺もそれに倣うか。




思考がブレる。

ただ、それによって一つの結論に辿り着いた。

答えが出ないのなら、無理に答えを決める必要はない。



何故ならこれはコミュニケーション。理解は双方向のやり取りでなされる。

俺だけが答えを出す必要は無いのだ。

待てば良い。彼女が何か言いたくなるまで。





「サーちゃん」




「.....」




やはり返事がない彼女に、今度は立ち止まらず近付く。

先程までメイが座っていたであろう椅子に腰掛け、アイテムBOXからあるものを取り出した。




「続きどこからやったっけ」




「....え?」





パラパラと分厚い本を捲る。

幾つかの物語が模写された詰め合わせの本だ。

運命力の確保では子供を助ける機会が多く、彼ら彼女らのため、また自身の娯楽のためにこのような絵本は幾つも確保している。


孤児院では読み書きの習得も兼ねてこれらを子供達が交代で読んだり、シスターローザが読んでくれることもあった。もちろん俺もだ。





「言葉ってのはねぇ。出てこない日は出てこないもんやと思うのよ。無理に引っ張り出すと、ろくな形にならんよなって」




「....」





「言えないままでも、なんも終わることないよ。俺はだって」




「....私の、味方だから」




「....ヒヒ」





懐かしい言葉をよく覚えているものだ。

運命力のため、助けた人命を俺が裏切ることは無い。口癖のように言っていたので覚えられても無理はないか。





「難しい話は明日にしとこや。今日はお休み。な?」





丘で死ぬ前読んだ続きから読み始める。

読み進める度、彼女は肩を振るわせて押し殺すように泣いた。

だがそれは不思議と悲しみを感じさせる声色では無かった。



俺はゆっくり、勤めてゆっくり物語を読む。

良いのだ。涙に何か言う必要は無い。

見守るとは、手を出さない勇気のこと。

受け入れる。ただそれだけでいいのだ。





「....そうして旅の商人は、空に浮かぶ星々を見上げて....」




「ケイくん」




「ん?」




「........お話ししても、いい?」




「いいの?今日じゃなくても」




「ううん.....今、話したいの」




「そっか。じゃあ、ゆっくりね」




それから、しばらく言葉は続かなかった。

手慰みにページをめくる音だけが、やけに静かに響く。

やがてーー




「……私ね」




かすれた声に、俺は静かに本を閉じた。




「....あれから、ずっと……」




言葉が、探すように途切れていた。




「……頑張ってたの」




ようやく出た一言。

俺は、ただ続きを待った。




「……もう、失くさないようにって」




「自分で、守れるようにって」


 


ぽつり、ぽつりと。




「……なのに」




そこで、止まる。

荒くなる息。崩れる顔を正面から見据えた。




「なのに....」




繰り返す言葉は、その後悔をことさらに思わせるようで。




「私...ケイくんを......」





また言葉に涙が混じる。

嗚咽を挟みながら、彼女は精一杯続けた。





「私、こんなことするために頑張ったんじゃない...っ!」





「ごめんなさい.....ごめんなさい.....っ」





目を閉じる。

これより続ける言葉に、嘘などあってはならない。


彼女は思いの丈を伝えてくれた。

ならば、俺も思うまま応えよう。





「...俺はね、サーちゃん。嬉しかったよ」





「...?」





「嬉しかった。昔俺が確かに関わった命が、ここまで立派に育ったってことが」




サーちゃんの手に俺の手を重ねた。




「俺は確かに死んだけど、俺が居たからこの世界に残せたものがきっとあるって...それは凄く素晴らしいものなんだって、サーちゃんのお陰で思えたんやで?」




彼女はそれを両の手で握り直す。




「だからいいよ。許す。サーちゃん」




引かれた手に抵抗せず、体ごと彼女に寄りかかる。

成長した彼女に気恥ずかしさはあるものの、そのまま体を抱えるように片手で抱いた。





「俺こそ、あの日帰れなくてごめん」




「っ....!」




彼女の涙が腕に触れる。

今度は両の手で腕ごとぎゅっと掴まれた。

もう片方の手は、頭に添えた。





「いいの...だって、帰ってきてくれた....」





「帰ってきたよ。ただいま、サーちゃん」





「うん....うん...っ!おかえり、ケイくん...!」





今度こそ、ちゃんと伝えられた「ただいま」の言葉。

蟠りは消えた。

長く離れた時間が、これで埋まったとそう確信できるほど、心の距離が縮まったのを感じた。



嬉しいことだ。

死んでも蘇る俺をただ一回殺しただけで、ここまで気に病んでくれるとは。

優しい子に育った。

シスターローザ。育ての親が良いのだろうと、手放しで誉めねばなるまい。




その後は時間にして30分...いや、1時間ほどだろうか?

離れるのには時間がかかった。

俺も無理に離れようとしなかったし、彼女の握る力は弱まるどころか俺が動こうとする度に強くなって自然に離れる機会を失っていた。




あの頃のサーちゃんはむしろ俺が甘やかそうとすると逃げていくタイプだったが、今日の彼女はどうだ。これくらい甘やかしてあげたいと常日頃思っていたものだ。

今日この時を逃せばまた逃げるのだろうし、可愛いがって損もない、そう思ってそのまま抱擁を続けた。




離れるきっかけを作ったのも、彼女からだった。

一層俺の腕を抱きしめたかと思うと、それまでが嘘のようにサーちゃんはその手を離した。





「...もうええの?」





「うん。だって、ケイくんのお話し聞かないと。それ...どうしたの?」





「あー、これね」





気不味くて苦笑する。

自分のミスで魔王になったせいで死ねなくて困っている、なんてどう伝えたらいいものか。




誤魔化す?

一部嘘を?




「ん、そうやね...」




一瞬考えたそれらを、彼女の真っ直ぐな目が否定する。

先程まで泣いていたとは思えないほど強く、意志の籠った瞳だ。

たとえどんな事情があろうと受け入れてみせる。言葉より明確にそう伝えていた。




「大丈夫だよ」




「ん」




「私、ケイくんの味方だから」





「...ふっ」





いい顔だ。

色々考えていたが、一気に溶けてしまった。

なら正直に話そう。

この子なら大丈夫だろう。





「いやーこの角のせいで魔王になって死ねなくなっちゃったんだよね!誰か壊してくれる人見つけて死に直さないと俺人類の脅威だよ。ハハッ!」





「は?」





「え?」





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