15話
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「おっと、懐かしい顔だね。今更化けて出たのかい?」
「...命日らしいしみんな寂しーしてるかなと思ってさ。シスターローザ」
部屋を出た先にいたのは修道女の服を着た高齢の女性。その名をシスターローザ。
孤児院の責任者にしてやり手のクレリックでもある。
サーちゃんの住まいは孤児院のすぐ隣。目敏く見かけて駆けつけたのだろう。
「不要さね。死んだならとっとと神のお側に帰んな」
「手厳しいなぁ。じゃあ、どうぞ」
座って祈りのポーズを取る。
俺に信仰は無いが、孤児院の子供達と暮らしていると要所要所でやる機会があるので覚えた。
俺なりの抵抗しません、の意思表示だ。
「...」
「浄化使いに来たんやろ?アンデッドにはよーく効くからね」
「ふん。分かってるじゃないか」
死者を思いのままにする闇魔法は強力だ。
故に対策は大昔から研究され、その周知と対応できる人材の派遣が教会の元々の仕事。
この場にいる筈のない死人を見かけてシスターがほっとくわけは無い。
彼女の掌に光が灯る。
「大人しく土に帰んな」
「遺言とか聞かないので?」
「それはもう聞いた。あの子達をよろしく、だろ。心配しなくても独り立ちまで面倒見てやったさ」
「うん。立派に育ってた。なんや伝わってたんやんか」
言うと同時光が俺を包み、僅かに胸が痛む。
生身では効かないかと思ったが流石は神の御技と謳うだけはある。魔王の角にも少し効果はあるようだ。
「...?」
「ふふん?」
得意げに目線をくれてやればシスターは露骨に顔を歪めた。
「ちっ、本当に生き返ったとでも言うのかい?」
「そう!ここまで効かんのおかしいよね?これマジなのよ。疑われたら頼ってええかな」
怪訝な顔の彼女だが、これで証人になってくれるだろう。
大人しく浄化を受けたのはこのためだ。
彼女は聖職者として一級の腕前を持ち、彼女の使う浄化が全く効かないとなればこれは死者では無い強固な証明となる。
「色々訳あってね。時間も出来たしヒリアの様子見に来たんやけど、サーちゃんがね...」
「バカだね。ここはあの戦いからアンデッドモンスターにとことん悩まされてきたんだ。十中八九お前もそうだと思って戦いになったんだろ」
「あーなんか即断してるなーと思ったらそう言うことやったんか。まぁ戦争跡地にはつきものやしそのまま来た俺が悪かったか...」
「バカだと言ったのはそこじゃないよ。お前なら正体がアンデッドだろうが人間だろうがサラを説得できただろう。しようと思えばね」
「でもしなかったって?いやぁそんなこと...」
「おおかたどう育ったか見たかった、みたいな変な親心が出たんだろ?本当にバカなことだよ」
「ああ...はい、おっしゃる通りです」
酒もタバコもやる彼女ではあるが、シスターとしての告解の腕前は評判だった。
俺の浅慮などお見通しか。
「え、ちょ、どこ行くの。みんなに説明して欲しいんやけど」
「どうあれお前が今生きてるなら私の仕事は無い。勝手にやってな。私を巻き込むんじゃないよ」
「えぇ....」
踵を返したローザはそのまま家を出ていった。
頭を掻く。いいタイミングで出会えたと思ったのだが、頼りにはできないようだ。
「...誰か来てたのか?」
会話が聞こえていたのだろうか。
ドアの隙間からメイちゃんが顔を覗かせる。
「やさぐれシスターがちょっとね。ってかサーちゃん熱出てる訳じゃ無いからそれは要らんと思うよ」
その手には桶と手拭いが握られていた。
指摘されて気不味そうにそれらを隠す。
「じゃ、じゃあどうすれば良いんだよ...。倒れたやつの頭にはこれ乗せとけばいいんじゃねーのかよ...」
「手ぇ握ってあげてや。お弟子さんなんやろ?サーちゃん喜ぶと思うで」
言ってアイテムBOXを開く。
必要なアイテムを幾つか見繕い、彼女に手渡す。
「この緑色が傷治るお薬で、こっちのオレンジが毒とか病気に効くお薬。なんかあったら使ったげてね」
「....お前」
押し付けられた薬を桶で受けながら、彼女が上目遣いで伺うように俺を見る。
意識したもんじゃあ無いのだろうが、低い身長と相まって受ける印象は凄みではなく幼さだ。
「本当に師匠の師匠なのか?老人どもが言う、領主様を守って死んだ英雄なのか?」
「師匠って程教えてないよ。すごーい見せてって強請る子供に芸見せた親戚のおじちゃんみたいなもん。英雄ってのも...」
「違う。そう言うんじゃ無いんだよ。分かるだろ」
真っ直ぐな瞳だ。
受けた印象から癖で声色を子供に対して言うように若干明るくしたが、失礼だったかもな。
「せやね」
「味方なんだよな」
「うん」
「...分かった」
短く受け答えを行い、彼女は扉を閉める。
息を吐いて踵を返した背中に、くぐもった声が響いた。
「近くには居てくれ。師匠の目が覚めたら呼ぶからな」
なんと警戒心に満ちた声色だろう。
言葉の意味とは真逆の、虚勢にも似たそれは意識の無いサラを守るためのものと容易に想像できた。
だがそれだけでは無い。あの瞳の中から仄かに感じる一度語らった俺への信頼...
「....はーい」
良い弟子を持ったものだ。
サーちゃんもさぞ可愛がったことだろう。
明らかな直情タイプなのにあのいじらしさ。
弱みを見せた時ほどお節介を焼いてくれるタイプと見た。
「...お、雨か」
にこやかに押し開けたドアの向こうはあいにくの曇り空。
今まさに、雨が降り始めたところだった。
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