14話
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師匠は暫く泣いていた。
いつまでだって寄り添うつもりだったが、日が暮れ始めたころには一旦の落ち着きを見た。
目尻を拭い、大丈夫だからと離れる師匠は痛々しくも、どこかスッキリした様子だった。
「...ごめんね。ありがとう」
「全然。頼ってくれて嬉しかったっす。次は置いていかれないように頑張りますから」
「ふふ、そうだね」
暫く地面に置きっぱなしだったクッキーの袋を手に取る。
気にしている暇などなかったが、虫には喰われていないだろうか。
「クッキーだよね。孤児院のお土産?」
「あ、いや....」
言われてまずかったかと思う。
今変にこいつの話題は....
(...いや、最期の頼みか。安らかな顔で逝きやがって)
倒れた彼は満足げな微笑みを浮かべている。
師匠があそこまで言う人だ。最期の頼みくらい叶えてやろう。
倒壊する家から守ってもらった恩もある。魔族の支配下に置かれていたなら、私は殺しておいた方が都合が良かったはずだ。なのに助けた。それはただ操られるだけじゃなかったことの証。
きっと、師匠も喜ぶ。
「...頑張った、ご褒美だそうです」
「え?」
「最初会った時に、師匠に買ってあげてくれって。値上げにびっくりしてましたよ」
「....っ」
クッキーの袋を差し出す。
震える手で受け取った師匠は、また涙を流し始めた。
一口食べ、もう一口と進む度、比例するように涙が溢れる。
「...美味しいね。....自分で食べたのは...久しぶりだなぁ...」
「あかんよー?ご褒美はちゃんと自分にもあげんと」
「え?」
「は?」
響く能天気な声。
その瞬間。
時が止まった。
◇
「...美味しいね....自分で食べたのは...久しぶりだなぁ....」
目が覚めたら、サーちゃんが泣きながらクッキーを食べていた。
隣にはメイちゃん。俺が言った通りクッキーを渡してくれたのかな?
泣くほど喜んでくれたのは有難いが、今の言葉は見逃せないな。
「あかんよー?ご褒美はちゃんと自分にもあげんと」
「え?」
「は?」
声をかけた瞬間2人が固まる。
ついさっき死んだはずの人物がまた蘇ったのだから当然か。
「....くっ」
サーちゃんの手が刺剣にかかるが、先ほどより動きが遅い。
流石に消耗しているのか?瞬きしている間には突きが来る想定だったが。
まぁ好都合だ。
もう戦う意味はない。
誤解を解いて話し合おう。
「ストーップ!!!サーちゃん俺シラフ!操られて無いけどちょい訳あり!相談したい!!」
「え...」
「は?」
また時が止まったように2人が固まる。
これ幸いと捲し立てた。
また心臓を抜かれても困る。
「これから3つ情報を話します!これ聞いてちょっと色々決めてくれん?」
「いや、お前だって....」
「まずそこ!生き返ってるならアンデッドモンスター確定じゃんってところから!」
メイちゃんに何か言われる前に被せる。
サーちゃんは俺をグールか魔族に眷属化された魔物だと思って倒した。
その根拠はまず<死んだのに生き返っている>ってところと<俺から魔族特有の魔界の魔力>が感じられるところ。
先程神様から許可も頂いたし、ここから説明していこう。
「ひとつ!今俺が再生したのは胸のこれ!魔王の角の効果で誰かに死体を使って闇魔術されたわけじゃありません!魔王の角は魔族達との戦いの時やむおえず自分に使ったよ」
「魔王の角....?あーいや、それのお陰だって事は見りゃ分かるけど操られてないって証明には...」
「ふたーつ!俺は今回胸に刺さってる魔王の角の効果ですぐ蘇生しましたが、その前に自力の復活してます!だから勇者パーティの茶色ことケイとサラちゃんの恩人ケイくんはどっちも俺!同一人物ってわけ」
メイちゃんの顔が更に怪訝になる様を見て当然だな、と思う。
俺が蘇るカラクリは神様曰く、肉体を毎回生成してそれに魂を出し入れすることで成立させていると聞いている。
つまり神様ですら一旦死んだ人間をそのまま蘇らせる事は出来ないということだ。今の俺みたく核を壊さないと死ななかったり、そもそもの回復力が異常で全く死なない奴らはいるが完全に死んでから蘇る人間など俺も見たことが無い。信じられないのも無理はない。
だが真実だ。
俺は元来神様の助けを借りて何度でも蘇る。
操られてない事も本当。
同一人物なのも本当。
信じられないならそれまでだ。
逃げる算段はついている。
「みっつめ!!実は俺....」
「……ちが……」
「ん?」
「…でも…あ....え……?」
ここまで動きがなかったサーちゃんから、漏れるように声が聞こえた。
言葉を止めて一拍、息を呑む。
「サ、サーちゃん?」
表情が怖い。
先程は驚きからそうなっているのかと思ってスルーしたが、彼女の顔は能面のように表情を失っている。
開いた瞳孔は目に光が無いように見え、何を考えているか分からない。
「...だって...私...」
「し、師匠ちょっと...」
メイちゃんから見てもサーちゃんの様子はおかしかったのか、声をかけるがそちらに返答はない。
「それじゃ、私...本物のケイくんを....?」
否。今彼女は誰にも話していない。
焦点の定まらない視線。顔を覆う手。歪む口。
明らかな放心状態。
思考がそのまま口に出ているだけだ。
「...........あは」
場違いに明るい声が響く。
空気の重さとまるで噛み合わないほど...タガが外れたような明るい声。
不味い。何がどう不味いのか、それが分からないままに、漠然とそう思った。
「……あはははは……!わたし……アハハハハハハハハハハ!!」
「師匠!」
「サーちゃん!」
明らかな危ない反応に2人で駆け寄る。
一際大きく笑ったあと、体を震わせた彼女は息を乱して痙攣し始めた。
「ひっ、ひっ、ひっ、ひっ……!」
「な、なんだ!?どうなってんだっ!!?」
「過呼吸過呼吸!落ち着いてサーちゃん!息ゆっくり吐いて!俺全然気にしてないから!!」
「ごめっ...なさ....ひっ、ひっ....ごめ...」
そこからはてんやわんや。
ひたすら回復薬をかけ続ける俺と、声をかけ続けるメイちゃん。
そして精神が原因だからか回復薬は意味がなく、声かけも届いていない様子で、ただごめんなさいごめんなさいと繰り返すサーちゃん。
もはや話し合いの空気ではなく、とりあえず2人で彼女を担いでヒリアの街へ戻った。
道中も色々声をかけたが、一向に落ち着かず街へ着く前にサーちゃんは意識を失った。しかし不幸中の幸い。そのおかげで呼吸も落ち着き一旦事態は沈静化。2人して顔を見合わせ、ホッと一息をついた。
ゆっくりと自室へ運び込み、寝かせ、目覚めた時俺が居たらまた同じ事になるかもしれないから出ていけとメイちゃんに言われ部屋を退室。
ふぅと一息吐く俺に、一つ声がかかる。
酒でしゃがれたその声は、懐かしく聞き慣れたものだった。
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