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13話

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「.....ぁ...」




「....」





最後の一撃。

来ると分かっていた再度の掌底をパリィした事で俺は彼女に一撃差し込むチャンスを得た。



彼女は素早く体制を立て直し、防具を破壊された俺の胸部へ一直線に拳を突き出す。

対する俺も、彼女の額へ掌を突き出し...唱えたのはディスペル。


バフを強制解除する魔法だった。




それは攻撃を通すためでなく。

自身を守るためでもなく。





「...本当に、大きくなったよなぁ」





頑張った彼女の、頭を撫でるために。

纏う風を無効化した事で、やっと素手で触れられた。




視界のHPゲージが赤一色に染まる。

俺の胸。心臓があった場所には...風が吹き抜けた跡のみ。もう、何もありはしなかった。




(短い休暇になったが、これはこれで満足!サーちゃんが俺の終わりならそれもまた良し!!)





少しずつ力を失い、重力に引かれる手で名残惜しく頬に触れる。

涙を流す彼女の顔が今朝見た夢と重なった。

サーちゃんはあの時なんと言ったのだったか。




最期の一息に、何か言葉を乗せるなら...ああ、そうそう。




手に伝う涙を拭って、約束の言葉を告げた。





「ただいま。サーちゃん」





視界が黒いモヤに包まれていく。

倒れる自覚も無いまま、背中に感じた衝撃のすぐ後。俺の意識は途絶えた。







師匠がヒリアの街に居ないと気付くのには少し時間がかかった。

手分けする。その言葉の通りに端から街を一周してやっと、私はこの街にもう師匠は居ないと理解した。




途方に暮れた私が走ったのは鉱脈がある山。

この町で重要な存在を挙げるとすれば2つ。

領主様が住む館と、この地方唯一にして最大の特産品であるアダマンタイト鉱石の鉱脈だ。





館の警備は厳重。入るのに許可もいるし何より私が行ったところで何の役にも立たない。

見に行くとすれば鉱脈かと、走った私の近くを飛んだ空気の衝撃派。


これは師匠の風纏撃...それもかなり本気の一撃だとすぐに分かった。

方角はランクトルム。

昔隣領主との戦争があった場所であり、師匠の恩人が死んだ場所。



ちょうど鉱脈の近くにある。

無関係な訳はなく、急いで向かった。




私が走っている間も丘からは幾つもの衝撃がビリビリと空気を震わせており、間違いなく戦闘中だと理解した。

だが何故?あいつは友好的だった。


伝わる魔力の波でわかる。師匠は完全に殺すつもりでやっている。




(恩人関係で地雷を踏んだか?いや...本当にそれだけで殺したりするわけが...)





抱えるクッキーの袋が歪む。

師匠は穏やかな人だ。

あいつも...そこまで悪い奴じゃない筈だ。

何か掛け違いがあったんじゃないか。




嫌な予感を楽観的な思考でどうにか振り払いながら走った私が見たのは、やはり想像通りの光景で。


分かっていた。

本気の師匠に勝てる人間なんて、私は見たことがない。



その師匠が本気なら、当然あいつは....




「し、師匠...なにも殺すこと...っ!?」




ゾッとした。

無。

大きく開いた瞳孔と、地面に横たわるあいつを見つめるその表情。


仰向けで倒れた茶髪は胸元に大きな穴が空いていて、一目で死んでいることが分かった。

師匠はそれを、ずっと無表情で見つめている。




「...メイ。戦う相手の魔力はしっかり見ないとダメだよ」




「え、あ...」




「微量ではあるけど魔界の...闇の魔力が漏れてた。メイは搦手に弱いから注意しないと」




「魔界の...じゃあ、こいつは魔族...?」




「ううん。これ見て」




師匠がこちらに何かを投げる。

地面に転がったそれは何かの枝のような、角のような黒い物体。

魔術的な品だとすぐに分かるほどに、確かな魔力を帯びた物体だった。

目を凝らす。




「確かになんか黒い魔力が...」




「これが心臓に刺さってた。14年も前に死んだのに、生きてるように見えるくらい体が綺麗なのはこれの効果かな」




「だったら...こいつは操られた...」




「うん。ケイくん。私を助けてくれた人」





この会話の最中も、師匠は微動だにせず足元のそれを見つめている。




「師匠...」




「最近出てなかったのにね。また元凶を探さないと」




「師匠...っ!」




「置いていってごめんね。ケイくん強いから万が一があったらって思って...」





「師匠!!!」





耐えられず肩を掴んだ。

こんなの、痛々しくて見てられない。



師匠はこの人の死で何年も傷付き悲しんだ。

トラウマと言っていいその人を、今度は自分の手でなんて。




「泣いてくださいよ。辛いって言ってください。頼ってくれるって言ったじゃないですか」





「....でも私は」





「でもも何もないですよ!そんな顔今まで一度もしたことないでしょ!!」





「わ、私は....」




「もういいんです。もういいですから」




師匠の体からゆっくり力が抜け、膝を崩す。

寄りかかった体を、頭を抱いて受け止める。



師匠の唇が、微かに動いた。




「……つらく、て……」




「はい」




「ケイくん……ケイくんだったの……」




「....はい」




「優しいままで...なのに私っ....私ぃ....」




「.....」




「怒ってよ!責めてよ!なんで....起きてよぉ....死んじゃ...やだぁっ...!やだよぅ.....ぁぁ.....ぁぁぁぁ!!」





衣を掴む指。

縋る腕。

崩れる声。


戦士の慟哭ではない。

師匠としての涙でもない。



それはただ

大切なものを失った、少女の声だった。








「死んだか」




「死んだよ〜」





何か作業をしている人神さまが背中越しに言葉を投げかける。

見慣れた空間に、俺も軽い調子で返した。

俺達にとってもはや死とはこのようなもの。

仕事の一部であり、作業の一部であり、当然こなすべき義務。もはや重要な意味のあるものでは無くなっていた。



また白い空間だ。

時間にして数日ぶり。こんなに早く帰ってきたのは初めてか。





「お休みは短くなったけど...まぁ有意義やったわ」





自分が守るもの。

守ったもの。

それが持つ可能性と、自分の仕事の意味を再確認できた。



今後暫くはより一層やる気を持って使徒としての仕事に打ち込めるだろう。





「...何か勘違いしとるようじゃが」




よっこいしょと擬音が聞こえそうな動作で人神が立ちながら言う。




「それ、壊れておらぬぞ」




「え?」




指さされるまま胸元を見ると、白くモヤモヤした輪郭に変わらず突き刺さる黒い角。




「いや、ちゃーんと壊れたと思ったんやけどね...」




はて、先程心臓ごと消し飛ばされた筈では?

そう思い伝えると、人神はため息を吐いた。




「壊れてはおらん。あの娘が回収しておるわ。魔王本体と同じく、聖属性以外には高い耐性があるようじゃの」




「でも物理的に体とは離れてない?これじゃダメなん」




「言ったじゃろ。魂に突き刺さっておるからの。今のお主の肉体はそれが本体のようなもの。じきに角から肉体が再生されるじゃろうな」




(あらびっくり。とびきりの再生能力の代わりにこの角が弱点の魔物みたいになっちゃったな)






「ダメか〜。ってか厳密にはそれ死んでなくね?それでもここに来るんやね」




「阿呆。お主の魂は死後毎回ここに戻るよう細工をしておると何度も言ったじゃろ」




「あー、まそれは分かるねんけど」




「今のお主は死んだ後寄生虫に生き返らせてもらっているようなモノ。寄るべの肉体が活動を停止しておるのだから死んだも同じじゃ。ここに来るのは当たり前じゃわい」



寄生虫とはひどい言い草だ。

相当嫌いなんだなこの物体。


そっかそっかと告げた途端、足から体が消えていく。

お早いお戻りだ。




「再生したようじゃからの。魂を戻しておる。手間じゃからあまり簡単に死ぬでないぞ」




「はいはーい...あ!今更聞いときたいんやけど、昔会った人らに何か隠さなあかん情報とかある?使徒って事はいつも秘密やんね」




いつもは重々隠すようにと言われているが、今回神様から注意喚起が無い。

魔王の角での復活は既に警備隊長さんに伝えているが、そもそも神様のお陰で復活するってあたりどうだろう。

他にも知り合いにアンデッド扱いされるかもしれないし、もし言っていいなら信じてくれるかはともかく潔白を主張できる。




「使徒であることとワシの名以外は話して良い。もう隠す必要が無いからの」




「ほな自力で復活するって感じの事なら言っておオッケーか。了解!じゃあまた死ぬかメッセで」




軽く手を振って告げる。

まだ休暇が続くか。


だが魔王の角...あれでダメならちょっと考えないとな。

そんなことを考えながら、俺はまた目を閉じた。




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