11話
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「シッ!」
「っと!」
エストック。刺剣での一撃をカウンターで受ける。
地面が爆ぜるほどの踏み込みで放たれる、正に神速と言えるこの一撃に反応できているのはゲームのシステムである攻撃色のお陰。視界に映る攻撃の予告マークあってこそだ。
そして、カウンター受付中に受けた攻撃には、自動的に即撃での反撃が行われる。
(...?)
殺してしまう可能性を考慮して素手でのカウンターを行ったが、手応えがおかしい。
まるで....
(風船を殴ったみたいな...おお!?)
鳩尾にめり込んだかのように見えた俺の拳は彼女の体に触れる前に勢いを失い、吹き出る風で途端跳ね返される。
体制を崩しかけた俺の顔面に、彼女の拳が迫った。
鼻先まで迫ったそれをなんとか顔を逸らして避ける。
直後、衝撃。
彼女の拳から一直線に伸びた何かは、そのまま遥か後方の山へ直撃してクレーターを作った。
肝が冷える。まともに食らったら首から上が残らなかったかもしれない。
(なんやそれ!?こんな馬鹿げた威力...あ)
「風纏い...空気か!」
「ッ!!」
続いてアッパー。
更に踏み込んで距離を潰した彼女は、肩が俺に触れるほどに近く姿勢での回避は困難だと悟った。
ならば、こちらはバックステップの<判定>で避ける。
目の前を通り過ぎる拳。
一瞬の間が空いて、今度は目の前で圧縮された空気が円状に弾ける。
素手で爆発を起こしているかの如き攻撃を無敵時間で掻い潜り、今度はこちらから仕掛けた。
(手加減とかしてる場合ちゃうね。いや、これは嬉しい誤算....)
今度は愛用の木製スタッフでの即撃。
同じく空気の層に阻まれ勢いを失うが、今度は生身まで届いた実感があった。
それにも止まらず、またエストックで刺しに来た彼女の顔を一閃。横切る俺の足。
雷を纏い、正確に顎を撃ち抜いたそれは脚撃。雷属性と物理属性の混合攻撃で当てた対象をスタンさせる足止めのスキル。
威力を殺されてもスタンは通る。
「っ...」
対戦ゲームで相手をスタンさせたら、次はどうするか。
当たり前のことだ。
(そりゃもうタメ技でしょ!)
杖から生み出した赤い球体を手に取り、対象へぶち当てて爆発させる。指向性を持った爆炎が弾けて彼女を覆い、黒い煙となって立ち登った。
これが爆撃。近接戦魔法使いのジョブで一番火力の高い技。
汎用装備であり対人の火力特化型で組んで居ないとはいえ、爆撃は対人コンボの締めのセオリーだ。用いられる理由はやはり威力とそのコンパクトなモーション。
ゲームのエフェクトの問題でショボく見えるが、爆撃の威力は肉体を魔力強化で覆った魔族を跡形もなく消し飛ばすほど。直撃した場合のHPアドバンテージは甚だ大きい。
まともに考えれば無事で済むはずが無いが、これで終わりとはならない確信があった。
(やーっぱり)
顎の傷と、口から出た血を拭い去り煙の中から悠々と歩いて出てくるサーちゃん。
当たらないわけでは無い。しかし、物理も、魔法も通りが悪いときた。
これが一番厄介だ。
「フフッ」
どうにも笑みが溢れる。
彼女は10年以上前の死人である俺が蘇った、そんな可能性の低い夢物語を捨て、可能性の高い現実的な脅威...死体を乗っ取った魔物として受け取った。
それは何もかもを捨てて縋る事が許されない。
今護るべきものがある者の振る舞いだ。
彼女のその成長が、嬉しくてたまらなかった。
「大切な物、見つかったみたいやね。サーちゃん」
「その人の口で...ッッ!!囀るなぁ!!!」
連撃と通常攻撃を混ぜて迎え撃つ俺の攻撃を、彼女は全て叩き落とす。
一撃一撃が空気の爆発で重く、打ち合う度に俺の杖は耐久値を大きく削られてひび割れていく。
ただ、防いでいる。複数箇所をあの風で防げるならこんな事せずとも突っ切ってくればいい。
好都合だ。まだ遊んでいたい。
「ヒヒッ」
笑みが止まらない。
俺がいれば他になにも要らないと、そう言った彼女がこの年月でどう成長したのか。
一撃打ち合う度に、言葉を交わす度に、じんわりと心に広がっていく。
ここまでの力、天才だったと言うのは容易い。
しかし、俺は昔の彼女を知っている。
ただの農村の子供だった彼女を知っている。
代々の血筋もなく、ここまでの力を手に入れるまでどれだけの努力と信念が必要だったか。
それを思うだけで胸がいっぱいになる気持ちだった。
(ああ...これは....)
頭の中で、コンボの対応チャートが扇状に伸びていく。
隙あらば攻勢に転じようとする彼女の攻撃を相殺し、まるでリズムゲームの様に炸裂する空気の爆発を捌く。
続く手数の応酬は彼女の成長を強烈に感じさせ、あの手この手で現状を維持した。
恐らくはこれが最後のコミュニケーションになる。幾多の攻撃に対する、この子の回答こそが今積み重ねた時間を知る唯一の手段だ。
間合いの管理。
呼吸のタイミング。
そして...もはや別物と言えるまで進化した風纏いの使い方。
(完璧ぃ!仕上がってるね!グッド!!)
暴風の中で、心の底から笑った。
しかし、楽しい時間は長く続かない。
ただでさえ大きかった武器への負担は加速度的に増加していき...
時間にして数分の後。
バキャリ。
ついにスタッフが砕けた。
(あーもたんか。次は百烈...)
「!!」
素手コンボへの繋ぎを抜けたエストックの突き。
後ろへの回避はダメだ。そのまま衝撃派で狩られる。
横へ....
(あ、やったわ)
刹那、予感がした。
これはゲーム中よくある、やっちゃいけないことをした時の....
「ごっ...」
直後脇腹に衝撃。
何で殴られたかもわからぬまま体が硬直し、続く一撃が腹に撃ち込まれる。
「ぐ...ゴハッ!!」
目に映るのはお手本と言えるまでに綺麗な...飽きるほど見た掌底のフォーム。
突き抜ける空気の波は後方の地面すら抉り、一泊遅れて俺の内臓が悲鳴を上げ、衣類と防具が弾け飛んだ。
(横...掌底....ハハッ)
何が来るかは分かっていた。
そして、どうするかも決まっていた。
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