872 ジーヌ家の教え 下
ミシエリル様と厨房に移った。
「エプロンを」
わたし用の他に侍女用のもあるのでミシエリル様に出してもらい、かけてもらった。
「常に用意してあるのね」
「気分で作ることがありますので。侍女が応援に入ることがありますね」
王宮が用意してくれた料理人に任せてはいるけど、お母様が用意してくれた男爵家の娘も下働き侍女として連れて来ている。ゴズメ王国の料理を学んでいるという理由でね。
「ハルバー。ジーヌ公爵夫人、ミシエリル様よ。お妃様に出す料理を一緒に作るから補佐をお願い」
「か、畏まりました。ジーヌ家の奥様とご一緒できることを誇りに思います」
ん? ジーヌ家って王城ではかなり立場があったりする?
「王城で働く料理人の大半はジーヌ家にお世話になっております」
料理長のハルバーが教えてくれた。つまり、影響力を持っているってことか。
「ハルバーだったわね。王宮から派遣されてきたの?」
「はい。野菜料理が得意なことを評価していただきました」
「ハルック家に繋がりがあるの?」
「特に繋がりはありません。わたしは、男爵家の末端なので」
実力で今の地位を築いたってことか。侍女長様の采配かしら?
「ミシエリル様。わたしは、ゴズメ王国から送られて来た魚を調理します」
アイテムボックスワールドからマルージを出した。
「ゴズメ王国から?」
「はい。ゴズメ王国に行ったときに魚を送ってもらえるようにしました。新鮮ですよ」
赤身の魚を送ってくれたのでカルパッチョとステーキにしましょう。漬けも作っておきますか。夜は漬け丼にしましょうかね。
マルージはマグロような魚だけど、サイズはカツオくらい。脂が乗っていてお寿司にして食べたいくらい。生食文化がないので出したりはしないけどね。
「魚も捌けるのですか?」
「本職には負けますけどね」
切れ味強化の付与を施しているのでバターを切るより簡単だ。
「いいものだわ」
これで捌くのは三回目だけど、いいものを選んで送ってくれているわよね。お礼の手紙を出しておかないと。
「そんな切り方があるのね」
「漁師に教えてもらいました。毎日魚を扱っている方は魚の捌き方も見事でしたね。魚とともに生きている方々は素晴らしかったです」
あの域に入るには十年くらいかかるでしょうね。今のわたしは素人に毛が生えたていどだわ。
「まずは一品目です」
マルージはシメてあるので血抜きもできている。カルパッチョにしても生臭くはならないわ。
「見事なものね」
「見よう見真似でしかありません。味はそこそこですね」
料理に時間を費やす余裕がない。美味しいものを作って美味しく食べる。まあ、どこかの酒カスのツマミになる未来しか見えないけど!




