871 ジーヌ家の教え 上
「わたしもご一緒させていただけないかしら?」
部屋を出ようとしたらミシエリル様が声を上げた。
「わたしも料理を趣味としていますの」
公爵夫人が? それこそらしくないことではないの? 伯爵令嬢ですらあり得ないことなのに。
「ジーヌ家では料理、裁縫、掃除を是としています。ジーヌ家では幼少の頃から教えられ、妻となる者は徹底して教えられます。わたしも鍛えていただきました」
なんじゃ、その教えは? なんのために教えられるのよ? 公爵家だよ? 意味がわからんわ。
「ジーヌ家は故シレーヌ妃の流れを組む家で、食は根源。裁縫は安定。掃除は精神と教えられるのです」
「わたしも妃候補時代にジーヌ家から教えを受けたわ。生憎、食と掃除は及第点だったけど、裁縫だけはお褒めをいただいたわね」
妃候補? 妃候補はそんなこと教えられるんだ。なんの意味があるのよ?
「随分と変わったことをするのですね?」
必要ねーだろう、って言葉は飲み込んでおく。それが教えで決まりなんでしょうからね。
「もう三百年は続いているわ。ジーヌ家は妃判定者としての役目も担っているのよ」
妃判定者? なんてものがあるんだ。長く続くと変わった役職があるものなのね~。
「チェレミー嬢は編み物もするとか?」
「はい。趣味ていどですけど」
「趣味でも自らの意思で始める者は少ないものです。わたしも嫁ぐまではやったことありませんでした」
「それが普通であり、令嬢のすることではありませんわ」
「普通ではない立場になる者こそ普通を知らねばなりません。特別になりすぎて普通の考えをできなくなることは危険ですから」
公爵家にしてはまともな教えを受け継いでいるのね。ミシエリル様の凄さがよくわかるというものだわ。
「コルディーのお妃様が優秀で傲慢になってない理由がよくわかりました。ジーヌ家の教えがあったからなのですね」
お妃になるよりジーヌ家に嫁ぐほうが大変そうね。料理、裁縫、掃除ができないと選ばれないんだから。逆によくいたなと感心するわ。
「チェレミー嬢にそう言ってもらえると嬉しいわ。ルーセル様を見ているとあなたの教えが大きいことがわかります。そして、ジーヌ家に通じるところがありました。是非ともチェレミー嬢の腕を見せてください」
わたしをジーヌ家に、なんてことにならないといいのだけれど……。
「自慢するような腕はありませんけど、わたしもジーヌ家の教えがどのようなものか気になります」
三百年も続いた教えが如何なるものか、是非見てみたいものだわ。




