868 フルーツタルト 下
「すぐに用意を。ルーセル様にも伝えて」
ルーセル様には誰か来るかもとは伝えてある。すぐに準備できるでしょうよ。
「お嬢様。お着替えなさいますか?」
「このままでいいわ。ルーセル様が主役だしね」
お妃様との話は以前したし、お妃様もルーセル様を蔑ろにしてわたしと会話はしないでしょうからね。ルーセル様に出迎えていただきましょう。
「ラム酒のパウンドケーキを作りますか」
お妃様、お酒が好きみたいだしね。そう甘くないラム酒の効いたパウンドケーキでもお土産に持ち帰っていただきましょう。
「お嬢様。お妃様がいらっしゃいました」
ラグラナが伝えに来た。
「わかったわ。ルーセル様を補佐してあげて」
わたしはまだパウンドケーキを作るので手が離せないのよね。
黙々とパウンドケーキを作っていると、小さなネズミが現れた。
「酒はあまり得意ではないんだがな」
小さなネズミのために作ってないですからね。
「甘すぎないか? 酒精が弱いぞ」
なんでこいつらはこんなに自由なんだろう? 傍若無人ってこのことをいうのね。ついでだから魔力をいただいておきますか。
「……日に日に魔力を奪うのが上手くなっておるよな……」
「今、殺す気で魔力を奪っただろう? 残り僅かな魔力を容赦なく奪っただろう!」
否定はしない。遠慮もしない。けど、それでも死なないとか、絶対、仕掛けがあるでしょう?
「お妃様に渡すものなんですから摘まみ食いしないでください」
「その代償が大きくないか?」
「正当な仕事には正当な報酬が与えられるべきだぞ」
ブーブーとうるさいカスどもだ。
仕方がないのでコノメノウ様にはドライフルーツを漬けこんだラム酒を。タルル様には紅茶を混ぜたバームクーヘンを差し出した。
「お前はまだこんなものを隠しておったか!」
「乾燥させた果物を漬けているのか。梅酒みたいなものだな」
「正当な報酬を払ったのですから出てってください。まだ作るものがあるんですから」
ネズミに齧られたものは侍女にあげるとしましょう。こういう利点がないと仕事も楽しくないでしょうからね。
「お嬢様。ルーセル様がお菓子をお願いしたいそうです」
やはり一人ではお妃様を相手にするのは辛そうね。助けを求めて来たか。わたしが必要ならお菓子を頼むように伝えておいたからね。
「わかったわ。フルーツタルトとパウンドケーキを運んでちょうだい。お茶はわたしが淹れるわ」
付与魔法を施した台車に入れてもらう。
お茶はわたしの収納の指輪から出して台車に移した。これを欲しがらないといいのだけれど、念のため作っておくとしましょうか。
手を洗い、身だしなみをしたらルーセル様の部屋に向かった。




