858 細マッチョ 下
「お嬢様はそのままでいてください。騎士のような筋肉をつけたら服が合わなくなります」
「さすがにあそこまでの筋肉はいらないわよ。この体が崩れない筋肉が欲しいだけよ」
ゴリラ令嬢になるつもりはない。わたしはバランスを大切にするおっぱい星人なのよ。
「そもそも筋肉を欲しがるご令嬢はおりませんよ。なにに使うのですか?」
まあ、確かに筋肉を使う場面はないわな。カップより重いもの持った……ことはさすがにあるか。一キロ以上のものを持ったことはない、ね。
「ないものねだりね、理想の肉体ってのは」
「お嬢様はそのままでいてください」
なぜか頭を撫でられた。あなた、わたしを赤ちゃんだと思っている?
お風呂から上がり、ワンピースに着替えてのんびりする。また忙しくなるから体を休ませておかないとね。
「朝からアイスとはいい身分だな」
「伯爵令嬢はいい身分ですよ」
伯爵令嬢がいい身分でなければなにがいい身分なんですか? てか、アイスくらいでいい身分と思いませんよ。
「よく食べているアイスですよ」
なんてことはないアイスだ。タルル様が強奪するほどのものではない。
「なんですか?」
一口寄越せとかですか? 冷蔵庫に入っているんだから奪わないでくださいよ。
なぜかわたしの周囲を羽虫のように飛び回るタルル様。
「……なにか隠しているだろう? 食の進みが遅いぞ」
ハァー。わたしもまだまだね。タルル様に違和感を嗅ぎ取られるなんて。
仕方がないと、梅ソースを取り出した。
「せっかく楽しみにしてたのに」
スプーンで梅ソースを掬い、アイスにかけて口にした。
甘さと酸っぱさがマリアージュしてなんかよくわからないハーモニーが口の中で奏でたり騒いだりしているわ。
無言で梅ソースの瓶を奪い取ると、冷蔵庫のほうに飛んで行った。
「強奪しかできないのかしら?」
いや、強奪しかやってなかったわね。
梅ソースのところを食べたらリンゴソースを出してたっぷりとかけた。あー美味しい。
「……なんですか?」
菓子カスが消えたら今度は酒カスが現れた。睨むような顔をして。
「梅酒を隠しておったな?」
「強奪者がいるのですから隠すのは当然でしょう」
「なにを隠しておる?」
「なにとは?」
「梅酒を目眩ましにしているだろう? 妃に渡した梅酒、あれは二級品だった」
やっぱり忍び込んだんかい! いや、やるとは思ってたけどさ! なんの躊躇いも見せない酒カスだよ!
「お前の行動は把握している。わたしの目を誤魔化すときはなにかを隠し持っているときだ。タルルは引っかかったようだがな。わたしの目は節穴ではない」
なんかわたしが犯罪をしているような立場になっているんですけど。
ハァーとため息をつき、諦めてラム酒を取り出した。




