856 売国奴 下
「頭を上げなさい。それではわたしが愚昧と言っているようなもよ」
「それでお叱りを受けるなら本望。どんな罰でも喜んでお受け致します」
頭は上げない。切なる願いだから。
「……わかったわ。あなたの進言、ありがたく受け取るわ。だから頭を上げて立ちなさい」
それで頭を上げ、ゆっくりと立ち上がった。
「ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらのほうよ。あなたの進言、心に刻んでおくわ」
黙って恭しく一礼する。
「まったく、あなたの進言は脅しと変わらないわよ」
「どうするかはお妃様の判断であり決断。臣としては従います」
「ウソおっしゃい。あなたならわたしでも切り捨てるでしょう。あなたの上にはコルディーしかないのでしょうからね」
「王国あってこその我々でございます。派閥争い大いに結構。強権大いに結構。権謀術数も大いに結構。大国であるコルディーを纏めるのは至難でございます。血だけで上に立たれたら下の者は堪ったものではありません。忠誠はそれに見合った方に向けられるものです」
わたしは国王制を否定したりはしない。けど、腐敗されては困る。責任を放棄されては困る。その地位についたのなら上に立つ力を示してもらわねば困るのだ。それが嫌ならさっさと退いてください、だ。
「小娘が生意気なことをとお叱りを受けるでしょうとも、わたしはお妃様を認めております。今のコルディーには必要なお方だと見ております。そのお力の一つとなれればとも思っております」
わたしが王妃になれるわけがないのだから力を貸すしかない。どうせ貸すなら優れた方に貸したいと思うのが人情ってものよ。
「……あなたに呆れられないように心がけるわ」
「わたしもお妃様に恥じぬ臣となることを努力致します」
右手を胸に当てて深々と頭を下げた。
「では、失礼します」
と、振り返ろうとして立ち止まる。忘れたわ。
「あ、もう一つ。お酒の管理はしっかりとお願いします。夜な夜な忍び込む狐がいるかもしれませんので」
ないとは思いたいけど、そこをやるのが酒カスだ。お妃様の部屋に忍び込んだとか、わたしの監督不行き届きとかにされたら堪ったものじゃないわよ。
「狐? え、ええ、わかったわ。注意するように言っておきましょう」
これでわたしの責任ではなくなった。まあ、見張る者には申し訳ないけどね。責任回避はちゃんとやっておかないとね。
「では、失礼致します」
優雅に一礼して離れへと向かった。さあ、ルーセル様と一緒にお風呂に入りましょうっと。ゲヘヘ。




