738 先祖返り? 下
「まあ、よろしく頼むよ」
完全に居着く気なタルル様。ここは老人ホームならぬ守護聖獣ホームじゃないんだよ。
「魔力はいただきますからね」
最終処分場じゃないんだから、いただくものはいただきますからね。
「使わぬ魔力ならいくらでもくれてやるさ。溜まると体調が悪くなるからな」
わたしはデトックスさせられてんのか? まあ、毒も使い方によっては薬にもなる理屈。しっかり使わせてもらいますよ。
「で、ハクカ梅やセキカ梅を使った菓子は?」
「はい?」
「お前なら作っているんだろう? 酒は作って菓子は作らんってことはあるまい。あるなら出せ」
守護聖獣は窃盗か恐喝しかいないのか?
「梅大福しかありませんよ」
「これだけか?」
「お菓子は凝ればいいというものではありません。素材のよさを引き出せた菓子が至高なんですよ」
わたしはそこまで至高な舌を持っているわけではない。毎日食べるなら濃い味より素朴な味のほうがいい。毎日食べるからこそ飽きない味がいいのよ。
「なるほど。それも一理あるな」
「まあ、人の好みは千差万別。人と妖精の好みも千差万別。好きなものを食べたらいいですよ」
わたしは大福が好き。包むものは酸味があるものがいい。それだけよ。
「嫌なら食堂に行ってください」
あちらでは日替わりお菓子がある。毎日違うものが食べられるんだからそっちで恐喝してください。
「いや、お前が作るものが一番美味い。てか、もっと作れ」
「そんな時間はありませんよ。料理メイドに言ってください」
わたしの引き出しはわたしの好みだけが詰まっている。他はいれない傲慢さで作られているのよ。
「ジャムをあげるから仕事に集中させてください。転移したいときは呼びますから」
「いいように使ってくれるな。恐れ知らずにもほどがあるわ」
「あ、そうそう。新しいものも作ったんだったわ」
あまり口にできないお菓子。ビスケットの棒にチョコレートを塗ったり塗らなかったりした名状しがたいものだ。
「あー美味しい」
ポキッと食べる。
「なんだそれは?」
と、奪い去る恐喝犯。
「名前はありません。チョコ棒とでも呼んでください」
異世界でも守らねばならないことがあったりするのよ。
「チョコ棒か。チョコと焼き菓子の比率が絶妙だな。素朴ではあるが、つい口にしたくなる味だ。人がタバコを吸うのもわかる。これをずっと咥えたくなる」
知らねーよ。勝手に論じてろや。
「売店にも卸しますから仕事をさせてください」
わたしはやることがいっぱいあるんです。そろそろ昼番組が仕事を終えてお風呂に入る。それまでには終わらせたいんです!




