713 幸せとは 下
「……美味い……」
感動の言葉を口にした。
「貴族が毎日これを食べているとは思わないように。ここだから毎日食べられるんだからね」
美味しいもの食べられてたらわたしはまだ王都で暮らしていたわ。婚約破棄くらいいくらでも潰せる方法はあったからね。
「美味しいものを食べるにもいろいろ苦労しなくてはいけないわ。あなたも毎日食べる苦労は知っているでしょう? 美味しいものを作るには新鮮な食材、それを使いこなせる優秀な料理人、料理道具、設備を整えなくてはならないわ。一伯爵令嬢にできることではないのよ」
別に自慢を言っているわけではない。何事も願いを叶えようとしたら苦労しないといけないってことを教えているのよ。
「お嬢様は、なぜできたのですか?」
「十歳くらいから可能にするように動いていたからよ。ここまでくるのに七年もかかってしまったわ」
いや、七年でここまでこれたのはコノメノウ様やタルル様がいたことも大きいでしょう。わたしの力だけではここまで到達できなかったでしょうよ。
「自分の一人の力で、なんて言わないわ。一人にできることはそう多くない。誰かの力も借りないといけない。人を蔑ろにしてはダメ。人を嫌いになってはダメ。人を道具としてはダメ。あなたの力となる大切な存在。人を味方にしなさい。あなたの力となり、望みを叶えてくれる大切な味方なのだからね」
「……肝に銘じます……」
「フフ。難しい言葉を知っているのね。貴族の子でもそこまでの言葉を知って、口にできる子はいないわ」
それ故に目立つのよね。
「あなたは賢くあれば誰かに拾ってもらえると考えたのでしょう。ある意味正解。わたしに拾われたのだからね。でも、時としては生意気と見られるときもある。あなたならわかるわね?」
きっと生意気と見られることが多かったのでしょう。賭けとしてわたしに近づいたのだわ。
「……はい。お嬢様なら賢く見せたほうがいいと判断しました……」
「それが失敗だったと後悔するのもそう遠くない未来だろうよ」
クックックと笑う菓子カス。
「一年以内に後悔するに自慢の梅酒一本を賭ける」
「半年以内に後悔するに隠してあるチーズケーキを賭ける」
黙ってろ! クソカスどもが! どっちも賭けが成立しねーだろうが!
「こ、後悔なんてしません! ぼくは出世してバカにした連中を見返してやる!」
なんて頼もしいことを宣言しちゃって。見所しかないじゃない。
「あーダメだ。言ってはならぬことを言ったよ。見ろ、こいつの邪悪な笑みを」
「きっと頭の中で伯爵までの道筋を立てたのではないか? 終わったな、小僧」
ふふ。黙れ、クソカスども♥️




