712 幸せとは 上
とりあえず、貴族に必要な礼儀作法を頭に叩き込んだ。魔法的に、ね♥️
「……あ、頭がくらくらします……」
「覚える時間を短縮させたんだから我慢しなさい。貴族はその知識と技術を十年以上かけて身につけなければならないのよ。それを一瞬で覚えられるんだからあなたは幸運よ」
「……お嬢様がどんな方なのかわかったような気がします……」
「あら、嬉しいわ。わたしを理解してくれる人が少ないからね」
「あ、いえ。生意気言って申し訳ありません。まったくわかっていなかったようです。申し訳ございませんでした」
「いいのよ。そんな謙遜しなくても。あなたが賢いことはわたしが理解しているから」
「そなたはどこぞの悪い魔女だ? 幼子をいじめるでない」
「口と行動を一緒にしてください。あと、部屋をいくら探そうともお酒はありませんからね」
しれっと入って来て、しれっとお酒を探すんじゃねーよ。罪悪感をどこに落として来た?
「チッ。巧妙になりおって。梅が足りないぞ。早く収穫してこんか」
「使いすぎなんです。無尽蔵にあるわけじゃないんですから創意工夫してください。無闇に消費するだけなら無能でもできることです」
「はいはい。口煩いヤツだ。幼子、逃げ出したいときはわたしに言え。安全な場所に逃がしてやるから」
「逃がさないでください。優秀な人材なんですから」
「哀れよな。こんな魔女に見つからなければ安らかに暮らせたものを……」
「魔女魔女うるさいですよ。わたしは誰一人不幸にしたことはありません」
なに言っちゃってくれてんのかしらね、この方は?
「そうだな。不幸にはしてない。それは事実だ。だが、そなたの元にいると、幸せとはなんだろうと考えてしまうよ……」
なぜ遠い目をする? お酒を飲みすぎて頭がとろけたか? ちょっと禁酒しなさいよ。
「お酒でも飲んで頭を冷やしてください」
「そうするとしよう。最近、酒作りに集中していつもの半分も飲んでおらんよ」
皮肉で言ってんだよ! てか、半分でも消費がハンパないんだよ! 酒畜生がよ!
「タルル様、どこですか?」
酒畜生にかまってらんない。さっさとナジェスのところに戻るとしましょう。
「あやつなら食堂に行ったぞ。なんかプリンの匂いがすると言って」
いねーなと思ったら食堂に行ったんかい! 畜生には理性ってもんがねーのかよ! いや、わたしもおっぱいの前では理性が……いや、んなことどうでもいいんだよ!
「ハァー。まあ、いいわ。ロッカル。いらっしゃい。ちょっと早いけど、食事にしましょう。あなたをもっと肥やさないとね」
孤児だから凄く痩せている。礼儀作法も大事だけど、なにより健康な体が一番だわ。




