709 飛んで火に入る夏の虫 下
「あなた、お名前は?」
男の子に尋ねた。
「ロッカルと言います」
下手な商人の子より礼儀を知っている子じゃない。
「教会に案内してくれる。神父様とお話するから」
「は、はい。こちらです」
そう言えば、最近教会に行ってないわね。貴族としては神殿のほうを向いているけど、民は教会のほうを向いている。身近なのは教会故に領主としても無視できないのよね。
コノメノウ様を知るとなぜ教会があるのかもわかった。自分に向けられる思いを反らしたかったのだ。
民が教会が向いていれば自分に向けられるものは少なくて済むからね。守護聖獣たるコノメノウ様が歩いていても気にする者は少ない。いや、大多数の者がコノメノウ様の顔すら知らないでしょうよ。
領民もコノメノウ様が守護聖獣だとわかってもピンと来ていない。ただ、凄いお方なんだ~ってくらいの認識だからね。
教会は村の中心部にあり、孤児院、というものはなく、親や親類のいない子を住まわせている小屋があるくらいだった。
孤児をどうするか問題もあったわね。
教会としての役目とするか領主としての役目にするかだ。
どっちでもいいやん。って気持ちはあるけど、孤児の扱いは教会次第であり、教会の利権でもある。
教会としては寄付金を集めることができるし、子のいない者たちに養子を出せたりと、なかなか教会としては美味しいところがあるのだ。
カルディム家はそこんとこ上手くやっているから問題は起こらないけど、他の領地ではよく問題が起きたりしていると耳にするわ。
「これはお嬢様方。ようこそお出でくださいました」
「突然ごめんなさいね。この子をカルディム家で身請けしたいの。手続きをお願いできるかしら?」
突然のことに驚く神父だけど、ここはカルディム伯爵領。教会を上手く抑えている。否と言えるわけもなし。すぐに手続きを済ませてくれた。
「ロッカル。このときよりあなたはカルディム家の臣となりました」
拒否権はない時代。従うしかないのです。
「お、おれが!?」
思わず素を出してしまう。まだまだね。
「あなたを貴族の養子にさせて貴族籍を持たせます。ナジェスの従者として礼儀作法を学びなさい。王都に行くまでにあなたを男爵家として家を起こしておくから」
「…………」
「あなたはなにか野望なり望みがあってわたしに声をかけて来たのでしょう。その度胸、その行動力、嫌いじゃないわ」
男爵までなら伯爵の権力でどうとでもできる。この子をナジェスの重鎮に育て上げればかなりカルディム家の力となるでしょう。ウフフ。




