708 飛んで火に入る夏の虫 上
領都に近いだけに叔父様はしっかりと統治していた。
「やはり叔父様は優秀よね」
誰に学んだわけではないのに、問題を起こさないよう統治している。可もなく不可もない領地なら恙無く纏め上げて、穏やかな一生を終えたでしょうよ。
ただ、優秀なだけにナジェスが継いだときの負担は相当なものでしょうね。
今はさらに負担が大きくなってるやろ、とか言わないように。わたしがいる限り、ナジェスに負担なんてかけさせないわ。今のうちから負担がかからない仕組みを作りあげますんで。
「ナジェス様、がんばってますね」
「ええ。頼もしい限りです」
その成長は著しい。でも、ナジェスは叔父様ほど才能に溢れているわけではない。必ず限界がくるでしょうね。
あるていど努力や教育でカバーできるとは言え、生まれ持ったセンスはどうしようもない。なにかで補わなければならないわ。
「あ、あの。これをどうぞ」
村を見て回っていると、十歳くらいの男の子が平籠に冷やしたギーを詰んで現れた。
まだ子供に見えるからナジェスより一歳くらい下って感じかしら? 緊張はしているけど、賢そうな目をしているわ。
「ギーか。とても美味しそうね」
見た目は完全にきゅうりだけど、そこはかとなく甘味のある野菜でもある。コルディー中どこにでも植えられているものじゃないかしら? 品種改良を続けたらこの世界のメロンになるんじゃない?
一本つかんで口に入れる。
固さはきゅうりより柔らかい。収穫したらすぐ萎びるとかは聞いたことがある。だから冷やして食べるのかしらね?
「とっても美味しいわ。あなたが作ったの?」
「おれ、いや、わたしは買ったものを売っています。畑を持ってないので」
へー。口の聞き方を知っているじゃない。もし独学なら凄いわ。
「あなた、教会暮らし?」
つまり孤児かってことだ。
「え、あ、はい。すみません」
「謝ることはなに一つないわ。教会を支えているために商売しているのだから。それに、その度胸と強かな考え方も好きよ」
わたしらは村の者が話しかけてくるのを止めたりはしない。きっとそのことを知って声をかけて来たのでしょう。
それでも孤児が領主の娘や一国の王女に声をかけるのは恐ろしいものだ。わたしたちの後ろには護衛騎士や侍女がいるのだから。チキンハートでは声をかけようとは思えないでしょう。現に、この男の子が初めて声をかけて来たんだからね。
「そうね。忘れていたわ」
能力を育てる以上に人材の大切さにね。この出会いはまさに僥倖だわ。もちろん、ナジェスにとってね。フフ。




