1060 *ラインフォード* 上
「ラインフォード様。今夜から警戒をお願いします」
聖衣と呼ばれる渦浄化儀式服と呼ばれるものを着たチェレミー嬢がやって来た。
気だるそうにしているが、目だけは冷たく輝いていた。
たまに見せる冷たい目ではない。冷たいのに激しい熱を感じ取れた。
見た目愛くるしい令嬢だが、騎士以上に騎士らしく、男より男らしさを持っていた。どんな相手を前にしても動じることはしなかった。
「来るのか?」
「どうでしょう? ラーレシム様が呼ばれている感覚が強くなったとおっしゃっていたので、そろそろかと思ったまでです。あの手の存在は時を選ぶ傾向がありますからね。今日なんて特に出て来やすい日でしょうよ」
まるでどんな手合いがわかっていそうな口振りだ。
「では」
と、静かに去り、桟橋の先に向かった。これから戦いが開始されるかのように。
「すぐに陣形を整えろ。侍女たちは退避だ。ハーベルクにはわたしから伝える」
馬は使わず、闇夜に紛れるようにミランダルク騎士団の陣営に向かい、戦闘態勢を取るよう指示を出した。
「本当なのか?」
チェレミー嬢のことは守護騎士団の中でも話が上がっており、人気を得ているが、近くで見てきたわけではない。まだ信じ切れないところがあるのだろう。
「チェレミー嬢を信じろ。ルティンラル騎士団はチェレミー嬢の言葉を信じる。いや、盲信していると言ってもいいかもな」
ニヤリと笑ってみせた。
ああ、盲信していると言っても過言ではない。あの方は、この日のために我らを導いてくれたのだ。
「すぐにわかる。チェレミー嬢は今日、事は起こると見ている」
「先見の魔女、か」
「いや、救世の聖女だ。そして、我らは聖女を守る騎士だ」
騎士としてこれほどの誉れがあるか? 騎士として逃す手はあるか? 一世一代、歴史に名を残す戦場に立てる夢を見てわたしは騎士になったのだ。
「聖女を守る騎士か。それは燃えるな」
ただ食うために、家の名誉を守るために騎士になったのではない。強敵と戦い、勝利する。そんな子供のような夢を持って騎士になったのだ。
「チェレミー嬢は、我らの夢を叶えてくださるお方だ」
そして、名誉を与えてくださる方でもある。
「わたしは、あの方の側に立てることを誇りに思う」
思えば出会った頃から我らの誇りを守ってくださったのはチェレミー嬢だ。意義を説いてくれたのもあの方だ。
「聖女に忠誠を」
「ああ、聖女に忠誠を」
と、湖のほうが明るくなった。
望遠の魔法で見ると、湖に黒い法衣を纏った薄気味悪い骸骨がいた。
ああ、もしこの世に神という者がいるなら感謝したい。我々にチェレミー嬢を遣わしてくださりありがとうございます!
ただ、おっぱい好きのお嬢様(元男)なだけなのにね……。




