1059 月が綺麗 下
「──ふざけるな!」
激昂する骸骨。自制心がないんだから。だから負けるのよ。復讐は静かに。誰にも知られずにやるものよ。下手に予兆なんて見せるからわたしに察知されるのよ。
「ふざけているように見えるかしら? それならあと千年くらい湖の底で大人しくしていなさい。そんな短慮ではわたしに勝てないわよ」
もし、この世界が乙女ゲームを元にしているのなら、目の前の存在は哀れでしない。必ずやられる存在でしかない。
あちらにしたら存在意義を証明しているようなもの。でも、こちらからしたらストーリーの一つでしかなく、イベントでしかない。己が消化されるだけの存在だと知ったら発狂することでしょうよ。
「……あなたは哀れね。どうしようもなく哀れで同情の涙が出てきそうになるわ……」
休暇を邪魔されたとは言え、こいつらの存在意義を知れば同情もしたくなってくる。本人たちはそれが真実として動いているのだからね……。
「ふざけるな! 同情されることなどなに一つない! 我らの恨みは復讐の恨みだ!」
怒りに黒い闇が吹き出した。
まあ、否定されたら怒るわよね。恨み辛みだけで作られているようなものなんですから。
「なら、智力を使い、死力を尽くし、何百年何千年も溜めた憎しみを爆ぜらせなさい。わたしたちも智力を使い、死力を尽くし、正義と忠誠を爆ぜらせるから。どちらの思いが強いか勝負よ」
これはわたしなりの敬意だ。イベントの一つでしかない存在への敬意。あなたちが存在したことをわたしたちが受け継いであげる。
グリムワールを振るい、これまで仕掛けた罠を発動させた。
周辺が光魔法で照らされ、骸骨マンの闇を浄化させた。
「怒りだけで事態は変わらないわよ。隠しているものをさっさと出しなさい。でないと、一つ一つ攻略して行くわよ。最後に、あなたの後ろにいる者に剣を突き刺してあげる」
わたしの表情が見えているかわからないけど、不敵に笑ってみせた。
あら、見えているみたい。口をカクカク震わせているわ。本当に自分を抑えることが苦手なのね……。
「……よ、よかろう。お前らに苦しみを与えてやろう……」
「なら、わたしはさらなる憎しみを与えてあげるわ。まあ、骸骨だから顔が歪むところが見えないのが残念だけど」
口カクカクでしか判断できないのが悲しいわ。
「ほざけ!」
「今のところほざいているのはあなたよ。口ではなく、態度で示しなさい。わたしは常に態度で示しているわよ」
腕を組み、あくびをしてみせた。
「────」
怒り心頭。今にも爆発しそうな勢いだけは伝わってきた。




