1058 月が綺麗 上
静かな夜だ。
魔力の宝珠にもガラスの珠にも魔力は溜まり、余剰魔力も作れた。体力も気力も万全。戦闘態勢は整った。
また聖衣(渦浄化儀式服)に腕を通す日が来るとは夢にも思わなかったわ。
「月が綺麗ね」
別に遠回しに愛を告げているわけではない。ここにはわたししか……いや、菓子カスも来てしまったか。
「よろしいので?」
「お前になにかあればゴズメ王国にもわたしにも支障が出るからな。それに、渦の借りもある。あの小娘がいないなら問題ない」
守護聖獣にも弱点ってあるものなのね。
「今日、来るのか?」
「さあ? ただ、動くとしたらそろそろだと思いますよ」
静かな夜ほど要注意。前兆がないときこそ警戒するべきでしょうよ。タイミング的には今日か明日じゃないかしら? ラーレシム様も声が大きくなっていると言っていたからね。
「霧が出て来たな」
唐突な霧。なんの自己主張かしら? 奇襲って言葉、知らないのかしら?
「はい。魔力を帯びてますね」
ありがたやありがたや。その魔力はわたしがありがたくいただきますわ。
グリムワールを抜き、空に掲げた。
「出鼻を挫いてやるな。あちらも考えて現れようとしておるんだから」
わたしの休暇を邪魔する者に情など一片たりともかけてやるつもりはないわ。
魔力を帯びた霧を消したのに、黒いローブを纏った骸骨が水中から出て来た。
霊体ではなく実体がある感じだ。魔力もかなり高い。特級はあるんじゃないかしら? ヤダ。魔力にしか見えない。
「……また邪魔をするか……」
声にまで魔力が宿っているかのような冷たい声だわ。
「また、かはどうかはわからないけど、邪魔をするのは違いはないわ。軍門に下る気はないのでしょう?」
またというなら前にも誰かに邪魔をされたってことか。何百年前のことかしら?
「下るか。今度こそお前らシャンドルクを滅ぼしてやる」
恨み辛みが限界突破して状況を見ることもできないようだ。まあ、脳ミソがないから考えることもできなくなっているのでしょうよ。
「ここはもうシャンドルクではなく、コルディアム・ライダルス王国となっているわ。あなたが恨み辛みを抱えている間に何万回も朝と夜を繰り返しているのよ」
「下らぬ。地上にいる者はすべて滅ぼすだけだ」
「なら、滅ぼされる覚悟も持ちなさい。わたしは甘くないわよ。わたしの代であなたたちを滅ぼしてあげる」
「やれるものならやってみるがよい。我らの恨みをその身で知るがよい」
黒いローブの骸骨から闇が吹き出した。
その源は魔力。どんな効果があろうとも関係ない。何百回何千回と他者の魔力を奪ってきたわたしにはご褒美でしかない。
グリムワールを振り、その闇を吸い取った。コノメノウ様の一割にも満たないわね。ショボ。
「ふふ。その大言壮語を後悔するといいわ」




