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第八十六話  第二回多国間連携協議

 ――アイシャ視点。

 ジリーが窃盗で捕まりそうになってから数日。

 「王宮の者でーす」

 「はあーい」

 朝ご飯が終わって一息ついてたら呼び出しがかかった。

 「すみませんが皆さんで王宮までお願いします。それと武器の類はお持ちでしょうか?」

 普通そんな質問しないんだけど。っていうか私の剣まだなんだけど……。

 「えーっと、とりあえずみんな持ってます。それが何か?」

 「トム王様からの伝言で、チェスト魔法で仕舞った状態で来てほしいとの事でした」

 「……理由は?」

 「申し訳ありませんが、直接お尋ねください」

 「はあ。分かりました」

 どうせろくな事じゃない。けど間に合わなかったのは痛いなぁ。



 ――王宮、玉座。

 到着してすぐ雰囲気がおかしい事に気付いた。っていう事は緊急事態だよね。

 「トム」「ああ来たね」

 「用事は何?」

 って聞いたらカキア大臣がシアに紙を渡した。パンフレット? って感じではないような? なんだろう??

 「魔王様、こちらに本名でサインをお願いします」

 「識字のテストか? まあいい。えーっと本名だから……これでよろしいかな?」

 「……はい。ありがとうございます」

 カキア大臣はその紙を手に戻り、トムに見せた。

 「……うん。大丈夫です」


 「で? 何? それだけのために私たち全員を呼び付けた訳でもないんでしょ?」

 「ああ。驚かないでもらいたいんだけど……シアさんの事が国外に漏れた」

 「えっ!?」って、結局驚いた。

 シアはもうこの時点で血の気が引いてる。だから私は手を握ってやった。

 「……すまない」

 「謝るくらいなら前向きなさい」

 世話の焼ける魔王様だよ、ほんと。

 「あ、だから武器持参?」

 「念のためね。あとー……十分ほどでこちらの準備が終わるから、そうしたらホランまで行くよ」

 「ホラン? って事はまた七勢力で会議? 議題は……あんただよね」

 「そういう事」

 シアはまた凹んでるし。

 ホランっていうのは大陸の中で一番小さな独立国家。難攻不落の城塞都市国家で、イリクスの故郷とも言われてる。前にも一度行った事があるよね? 確か三十一話あたり。


 「でもまた随分急じゃない?」

 「どうやらフィノスが強引に差し込んだみたいで、こちらに話が来たのが昨日の夜中だったんだよ」

 呆れ声のトム。強引な手法はフィノスらしい。

 「正直こういう事をされるのはこちらとしても癪に障る。なので今回に限り、アイシャが第三勢力である事は置いておき、非公式ながら手を貸すよ」

 「待ってくれ。狙いは私なのであろう? ならばそちらに迷惑をかけたくない」

 やっぱりそう来ると思った。無害な魔王様らしいや。

 「残念ながらとっくに迷惑を被っているんですよ。あなたが復活するより以前から、フィノスの強引さにはね。なので例え今回の狙いがあなたを訴追や処罰する事であろうとも、それ以前からこちらには鬱憤が溜まっているので、……まあ言ってしまえば敵の敵は味方理論です」

 「……早く辞めたい……」

 小声でぼそっと呟いたシア。これがこいつの本音。まだ時間は掛かると思うけど、私が叶えてやるんだ。



 ――城塞都市国家ホラン、首相官邸。

 前にも一度来たけど、街の雰囲気は変わってない。私に対するマイナスの感情が、今にも物理的に降ってきそう。

 馬車を降りてから建物に入るほんの少しの間が一番危険なのも、トムとフューラが私の盾になってくれたのも同じ。違いといえばモーリスがいる事と、シアが鳥から人になってる事くらい。

 「ようこそいらっしゃいました。トム王様、勇者様、再びお目にかかれて光栄に存じます。さあ、どうぞこちらへ」

 ホランの長、ハレル首相だ。本当に気の良さそうな人。

 「またお世話になります。他の方は?」

 「既に揃っておいでです」

 私たちが最後か。きっと文句言われるんだろうなぁ。


 部屋に入ると、やっぱり視線が痛いよね。

 「一番の若輩者であるのに遅れて申し訳ありません」

 「気にする事はありませんよ」

 誰よりも早くそう言ったのはルーディシュ王国のセ・リーン陛下。笑顔も作ってくれて、他の人たちもこれ以上は言えなくなった。さすが。

 今回も前回と同じ部屋。七人分の椅子がある円卓と、私たち六……一人分椅子足りない。シアの分だね。

 「おっと、今すぐご用意いたします」

 シアが苦笑いしてた。

 これでみんな着席。円卓の位置は時計回りにグラティアのトム、小諸国連合のマツァーラ代表、ナーシリコのユン・チュジカ主席、フィノスのアレクス四世、メセルスタンの……誰? あとはルーディシュのセ・リーン女王陛下にラフリエのダート・ミップ首相。

 私たちは奥からモーリス、ジリー、リサさん、私、シア、フューラ。


 「これで揃いましたな? それでは先に私の自己紹介をさせていただきます。私はメセルスタンからやって参りましたアクビと申します。現状ではまだ仮の長でありますが、時を置かず教皇の席は我が物となりましょう」

 ……また変な名前。でもそんな事よりも、一目見て、一言聞いて、私はこいつが嫌いになった。

 人を見下したような目。声に本心が乗ってない。何よりも口元がずーっとニヤニヤ気持ち悪い。フィノスのアレクス四世ですらもちょっと引いてるもん。きっと中身はとんでもない野心家。トラブルメーカー。

 「すまないが貴殿は何派なのだ?」

 「私はカルメル派に属しております」

 「そうか。シャックリ教皇とは別の宗派なのだな」

 「ははは、あのような小物と一緒にはされたくありませんな

 そのアレクス四世からの質問にもこんな返し。

 「チッ」って右手側から小さく舌打ちが聞こえた。これきっとリサさんだね。



 ――会議開始。

 「それではまず私から」「あ、待って」

 トムが切り出すのを私が止めた。私には今回の事を知っておいてもらいたい人がいる。

 私は一旦部屋を出てハレル首相を呼んだ。

 「私はこのような場はあまり得意では……」

 「まあまあ。それにホランの首相だからこそ知ってもらいたい事なんですよ」

 「……承知しました。しかし円卓には座らずにいさせていただきます」

 ハレル首相は私たちとは別の側の壁に椅子を置いた。巻き込まないでくれっていう意思表示だよね、これ。


 「それでは改めて。シアさん、こちらへ」

 無言で立ち上がり、トムの横につけたシア。

 「自己紹介を」

 シアはまた無言で頷いた。

 「我が名はプロトシア=アレス・マーレィ。皆も知ってのとおり、六千年前に人類との戦争を引き起こし、イリスクに敗北し鳥の姿となった魔王プロトシアである」

 シーンと静寂が過ぎる。

 「……鳥の姿ではなくなったと?」

 一番にシアに質問をしたのは小諸国連合のマツァーラ代表。

 「はい。……しかし鳥の頃と中身は全く同じであるので、皆の顔や言動もよく覚えている。私の目の前で行われたあの紛糾した協議や、皆の決めた魔族との全面戦争という話もだ」

 シアのこれは首脳たちを牽制してるんだね。そして効果は絶大。みんな苦い顔してるもん。

 だからこそ私が手を挙げた。首脳陣にシアも振り向いた。

 「……勇者殿」

 今回も音頭はアレクス四世。

 「はい。まず皆さんがいわゆる”魔王”という事柄にどう思っているのか、教えて頂けますか?」

 「魔王という事柄について?」

 首脳はトムも含めてみんな顔を見合わせた。私にしてみれば、この反応はやっぱりだった。


 まずは私たちに一番近いトム。

 「私は、やっぱり魔王といえば凶悪な存在であると思っていましたね。ただシアさんを見る限りそのような側面は一度も顔を見せてはいませんけど」

 そして続く首脳陣みんなが魔王イコール人類の敵であり悪そのものっていう認識だった。

 「……んーと、はっきり言いますね。それ全部間違っています。そもそもの前提が違う。皆さんは魔族という存在が魔物の中で人の姿をした種族か、またはそれに近い悪しき心を持つ種族だという認識なんじゃないですか?」

 首脳陣の視線がセ・リーン陛下に集まった。情報という意味では一番精通してるからだね。

 「そうですね、そういう認識をしている方もいらっしゃるでしょう。私個人としても、それに近い忌むべき存在であるという気持ちがあります」

 やっぱり。


 「でもそれは全くの間違いです。シア曰く魔族という言葉は、魔法に長けた種族という意味しかありません。人型の魔物だとか悪が美徳だとか、そういう意味じゃないんです」

 目線をシアに向けると、頷いた。

 「ああ。そもそも魔王という名もそちら側が勝手に付けた役職名だ。なので私は本来魔族の王というそれだけであり、さらに平たく言えば”魔法に長けた種族の王”という意味しか持たないのだ」

 首脳陣はみんな困惑してる。でも困惑してるっていう事は、少なくとも認識を改めるチャンスが発生したって事。

 「なので私はとっくに、それこそ六千年前にイリクスに敗北した時点で、戦争や侵略などといった事柄と接する気はないのだ」

 「……つまり」「そこのプロトシアは、無害な魔王様だって事です」

 ラフリエのダート・ミップ首相がもう一度確認しようとしたから、私が終わらせてやった。みんな私の言葉なら信じると思ったからね。



 「一つよろしいですか?」

 次に手を挙げたのはホランのハレル首相。

 「あなた様が本物の魔王プロトシアであるという事は信じましょう。という事は、我らが英雄イリクスのご尊顔を承知の事と思います。……英雄イリクスとは、どのような方だったのでしょうか?」

 やっぱり来た。そしてこれが私がハレル首相を招いた理由。

 シアは私にどうするべきかという視線を送ってきた。

 「ハレル首相、これはあくまでも魔王プロトシアからの視点ですからね?」

 「ははは。分かっております。それに六千年も前の話ですから、伝承のとおりの人物であるという保証はどこにもありません。何よりも魔王様自身がそれを証明していらっしゃる」

 本当にいい人。シアも落ち着けたみたい。


 「それでは、私の見た限りで恐縮だが、イリクスの人となりをお話しよう」

 口調は務めて明るく、あくまでも英雄を貶さないよう、敵視されないようにっていう配慮が見える。

 「……いきなりイメージを崩して申し訳ないのだが、年齢はそれほど若くはなく、恐らくは四十代。顔は正直、私のタイプではなかった」

 と聞いて一番に笑ったのがセ・リーン陛下。それに釣られてか他の首脳も笑った。掴みはオーケーだよシア。

 「その強さであるが、これについては本物であった。なにせ私が……そうだ、これについてもしっかりと白黒付けなくてはな」

 ん? なんだろう?

 「歴史書によって記述に揺れがあるようなのだが、私はイリクスに負けてから魔族の力を吸収し封印されたのではない。魔族の力を一点に集めてもイリクスには傷一つ付けられなかったのだ。そして魔族に力を返す前に封印され、鳥の姿となった。つまりイリクスはそれほどまでに強かったという事だな」

 私が聞いたのとはちょっと雰囲気を変えてる。多分そのままの話をするのはまずいと判断したんだね。

 「ちなみに私とイリクスとは、最後の一戦のみしか顔を突き合わせてはいない。その内容だが、イリクスはその強さに自信があったのだろうな、たった一人で乗り込んできたのだ。そして結果は言わずもがな。これくらいでよろしいかな?」

 終始明るいトーンで話を披露したシアに、首脳陣にハレル首相もにこやかに頷いた。こういう人心掌握はさすがだなぁ。


 「ハレル首相はどうお取りになられた?」

 私が聞きたかった事だけど、先にアレクス四世が話を振った。

 「安心したというのが一番ですね。我々ホラン国民の持つ英雄イリクスの姿が、まあ容姿の違いはありますが、確かに魔王プロトシアを打倒した人物でありましたから。それに、魔王様も話に聞くほど好戦的な人物という訳ではない様子ですし」

 「肩透かしだったかな?」

 「ははは。……正直、少しだけ」

 シア自身の問に、ジェスチャーも交えたハレル首相。その親指人差し指は紙一枚くらいしか離れてない。

 「私としては」

 対してシアは両手を目一杯広げた。

 「これくらあぁぁーいっ! 離れていても構わないのだ」

 そのジェスチャーにみんな大笑い。



 「さて話を戻し、しっかりと宣言させていただこう。私はもう戦争などするつもりはない。命の奪い合いなど真っ平だ」

 声のトーンも真剣なものに戻ったシアの一言。トムにセ・リーン陛下にダート・ミップ首相にハレル首相は笑顔で頷いて、他の四人は固い表情でその言葉を受け取ってる。

 「魔族領にいた大陸側の兵から、私がその事について告知放送を行った事は聞いていると思う。どうかな?」

 シアの目線はアレクス四世へ。

 「……ああ。今回私が皆を招集したのは、その事を聞き及び、かつ魔王プロトシアが現在はグラティアで勇者殿と共にいるという情報を得たからだ」

 「なるほど。では承知しているとは思うが、偽魔王は我々が倒した」

 「……あっさりと言ってくれるな魔王。こちらとしてはそれを信用する術がないのだぞ?」

 両者顔色を一つも変えない。


 「証拠ならばある。フューラ」

 「はい」

 シアがフューラを呼んだ。すっかりシアが中心になってるね。

 フューラはシアに言われる前に、カプレルチカのコアを取り出した。

 「この赤い球が、偽魔王です」

 「えっ!?」「は!?」「なんと!?」

 やっぱり動揺の声が広がる。

 「偽魔王の正体、それは僕の妹でした」

 「い、妹だとっ!?」

 連続して繰り出されたとんでもない話に、首脳陣はみんな困惑。

 ここからの話は以前私たちも聞いたものなので省略しまーす。


 「――三万年もの未来から……」

 結局みんな言葉を失った。

 「ひとついいか? フューラ殿を追って更に刺客が送り込まれる可能性は?」

 「可能性は限りなく低いでしょう。僕の知るあの時代の状況とカプレルチカの精度を見るに、恐らくは行程を省略し時間を切り詰めてようやく一体を作れたという状態です。なので二体目が完成する前に人類が滅亡します」

 「なっ……そこまで切羽詰っているのか……」

 「大丈夫です。僕が戻ればどうにかなりますから」

 表情も声色も変えないフューラ。多分こういう反応や質問も含めて全部織り込み済みなんじゃないかな?

 話を終えたフューラは、やっぱり顔色一つ変えずに戻ってきた。

 人間だけど人間じゃない。フューラってその中間なんだよね。


 「皆様、これで私の復活と偽魔王の討伐を信用してもらえただろうか?」

 「……どうにか」

 最初にそう答えたのはナーシリコのユン・チュジカ主席だった。多分対グラティアじゃないからなんだろうけど。

 「ありがとう。しかし残念ながら一つだけ問題が残ってしまうのだ。それは皆と同じで、魔族領にいる貴族どもが、私の復活を信じ、私の意向を汲み戦争を完全に終わらせるのか、という事だ」

 「当分は警戒を怠らないようにという事ですか?」

 トムの質問に頷くシア。

 「そういう事。だがここから全面戦争へと向かう事はない。一度信じた者が寝返るほど、魔族の結束は弱くはないのだ」

 シアの奴、自信満々だ。でも私もそうだと思う。

 少なくとも私たちが魔族領で見た人たちは、シアを本物だと認識した。実際シアはその証拠も見せたし。

 だからシアが本物であるという話が一つでもある限り、信じない人たちは常に、そして疑う事の罪悪感から余計に強く、魔王様が自分たちに制裁を加える事に恐れを抱く。恐怖で押さえつけるって表現にしちゃうとちょっと……って感じだけど、でも実際ここにいる魔王プロトシアに対する魔族の信仰心は本物。

 そしてそれは、今現在戦闘が停止している事がなによりもの証拠。



 「プロトシア殿、話は分かりました。あなたは本物であり、偽魔王は勇者殿によって倒され、魔族の側から侵攻してくる事はもうないと」

 「ああ」

 ……なーんか嫌な予感。アレクス四世がこういう話のまとめ方をする時って、何かを強引に決めてしまう前触れの気がする。

 「しかし実際に戦争は起こり、血は流された」

 あ、やっぱり。

 「その責任は魔族の王である貴殿が取るものであろう。従って私はここに魔王プロトシアの処罰を提案する」

 「あのー」「いい」

 私が止めようとしたらそれをシアに止められちゃった。

 「確かに元を辿れば私の愚行に行き着くのだ。この過去ばかりはどう足掻いても変えられない。私は既に、どのような処遇も受ける覚悟を決めている」

 本当ならば駄目って言いたいところなんだけど、でもそれはまたシアに止められるし、余計に責任を感じる事になっちゃう。ここは様子を見て、あまりにも重い刑罰ならば減刑させる方向で動こう。


 「そうか。それでは」

 って話が進みそうになったところで部屋の扉が開いて、一人入ってきた。ここの執事さんかな? 普通の人。

 「失礼致します。トム王様に至急との事で、手紙をお預かり致しました」

 手紙を受け取って読んでるトム。……あ、ニヤっと悪い表情してる。

 「申し訳ない。一つ皆様にお伝えし忘れていた事がありました。シアさんにもね」

 ……トムの奴、裏で何か工作してたな?

 「ほほう? それは何かね?」

 「はい。先ほどシアさんからとある書類を受け取りまして、プロトシア・マーレィ名義でグラティア王国への転入手続きを致しました。この手紙はその手続きが完了したとの報告ですね」

 あ! 来る前に書いてたあれだ! うわートムってそういう事するんだー……。うん、見直した!

 これでもうシアには……あ、気付いた皆さんが、特にアレクス四世の眉間にシワが寄ってるー。あーぁあ。ってかシアは分かってないね。頭にハテナマーク出てるもん。


 「すまないが、説明してはもらえないか?」

 「ええ。転入届けを受理したという事は、シアさんには住民票が発行され、正式にグラティア王国の一国民になったという事です。つまり現在シアさんはグラティア王国の保護対象となっているんですね。そしてそれはつまり、他国が勝手にシアさんに刑罰を科す事が出来ず、それは全て私に一任されるという事です。分かりましたか?」

 「……一言でまとめると?」

 「あなたを処罰出来るのは、世界でもオレだけ」

 悪どい笑顔をシアに向けるトム。そしてこの言葉を理解したシアは……あはは、すっごい脂汗かいてる。


 「ふふっ、これはお見事」

 手を叩いたのはセ・リーン陛下。すっかりこっち側の人になっちゃった感じ。

 「まあそうですね。それに今までの話から、今回の戦争で魔王様はそもそも責任を負うほどの事はしていませんし、勇者様と共闘しての偽魔王の討伐という、充分過ぎるほどの責任を果たしていますから」

 ダート・ミップ首相も貿易での同盟国だし、そもそもがあいつが強引に進めようとしてるのが原因だもんね。

 「……そうだな。こちらとしても今回の件にその魔王が関わっていない事は承知している。それに無理に処罰して魔族の反感を買う必要もない」

 ユン・チュジカ主席も折れた。多分魔族領との貿易港を持ってるからこれ以上事を荒立てたくないんじゃないかな?

 「無責任かもしれませんが、小諸国連合としてはどちらでもいいというのが本音です」

 「メセルスタンとしても、……こちらはそれどころではないと言えましょう」

 この二つは「そうだよね」としか言えない。


 「私としてはこの方に一番お聞きしたいのです。イリクスの故郷、ホラン代表としての感想をお聞きします。ハレル首相はどうお考えなのですか?」

 セ・リーン陛下がアレクス四世を飛ばしてハレル首相に話を振った。ハレル首相はもう笑ってる。

 「ははは。いやいや見事な幕引きでしょう。そして勇者様。偽魔王の討伐及び魔王プロトシア様の保護、お見事です」

 「……えへへ。あーでも私一人の力じゃないんで。私とシアとみんなと……カナタがいてくれたから。だから折れずに歩いて来られた。……でも、ここはまだスタートラインだって、そう思ってます」

 「アイシャ様は確かに本物の勇者様なのですね。……今までの無礼、ホラン国民になり代わり謝罪申し上げます」

 どうしよう、すごく嬉しい。どう表現すればいいのか分からないくらい嬉しい。嬉し過ぎて……すごく冷静になっちゃってます。あはは。


 そんな私の喜びをこいつは一瞬で覚ましてくれやがった。

 「……失礼する」

 そう言って渋い表情で部屋を出て、そのまま本当に帰ったのは、フィノスのアレクス四世。こういうところに性格って出るよねー。

 「なにあれ」

 ジリーの一言がシンと静まリかえった部屋に響いて、みんなで一斉に溜め息。

 「はあ。まあフィノスだからな。勇者、気にする事はないぞ」

 「あはは。分かってます」

 ユン主席から言われるとは思ってなかった。

 「しかしナーシリコとしてはグラティアと仲良くするつもりはない。そこは勘違いしないように」

 「あはは、分かってます」

 同じ台詞を二回言う事になるとは、思って……た。あはは……。

 それでもユン主席は少しだけ笑ってくれた。



 ――会議はお開き。

 結局、第二回の多国間連携協議はフィノスの途中退席で強制終了。

 でもその後はハレル首相が食事の会席を用意してくれて、首脳陣も私たち、特にシアから話を聞いて一喜一憂していた。

 その中でもモーリスは自由というか我が道を行く感じで、自分から色んな人に話を聞いていたのが印象深かった。もしかして次期魔王の座を狙ってたり?

 (ううん)

 あはは。でもモーリスが王様になったら凄いよね。そして結構似合ってる気がする。

 (……えへへ)

 念のためで武器を持ってきたけど、使わずに済んで本当によかった。



 ――グラティア王宮、玉座。

 ホランから戻ってきたらもう夕方。

 「はあ。お疲れ様」

 「トムもね。まさかあんな手を使うとは思ってなかったけど」

 「ははは。実はシアさんが人の姿で現れた時から練ってたんだよ」

 そうなんじゃないかって思った。だって手際が良過ぎるもん。

 「……ご迷惑をおかけして申し訳ない」

 シアは本当に申し訳なさそうだけど、でも気にする事じゃない。

 「あーいえいえ。どちらにせよ鳥の頃から公式に迎えるつもりではいましたから。ね? アイシャ」

 「じーつーはー、最初カナタと一緒に王宮に泊まった時ね、その時点で話はしてたんだ。まー保護じゃなくて監視目的だけどね。あの頃はあんたが本物だっていう確証なかったし、魔王に返り咲こうと暗躍する可能性も、また戦争を起こす危険性もあったから」

 「最初から仕組まれていたのか。……はあ、負けだ」

 「あはは! 勝ったー!」「勝ったー!」

 私とトムとで一緒になって喜んでやった。


 こうして私たちは無事に帰宅した。



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