第八十七話 この場所で叶う事
――多国間連携協議から数日。
私は現在レイアの工房に来ています。という事はつまり?
「はい。ご自慢の鋭い感覚ではどうかな?」
「自慢はしてないけど……いい感じ」
という事で剣と鞘が戻ってきた。
見た目は……剣は本当に微妙な部分だから変わらないかな。鞘も見た目はあまり変わらないけど、新品になりました。そして……覗くとしっかりクリスタルが刃をガードする構造になってる。
「重さは?」
「うーん……ちょっと振ってみる」
一応鞘から剣を取り出して、軽く振って、鞘に戻すっていう一連の動きをさせてもらったけど、引っかかるような部分もないし、これならば今までと遜色ない感覚で使える。
「ばっちり。さすがレイア」
「あはは。……でも個人的にはまだまだなんだけどね」
「まだまだなのは私も同じ。そうだ、今度シアを連れて潜るつもりだから、その時一緒に来ない?」
「うん。日程決まったら教えて」
「りょーかーい」
二人でシアをこき使ってやろうっと。
あとはお喋りしながらレイアの作業を……やっぱり私邪魔になってる気がする。
って思ってたらお父さんがお店から私を呼んだ。
「……よね?」
「うん。はあーい今行かせるー!」
あはは、命令形だね。それじゃあお店に行きます。
お店に戻ると、一番意外な人物が来ていて本当に驚いた。
「え!? モーリス!?」
(――――)
「アイシャちゃんの知り合いだって書いたから呼んだんだけど……」
「うん。私の仲間です」
確かに今日は勉強がお休みだって言ってたけど、まさかまさかだよ。
「でもなんで?」
って聞いたら、自分も何か持ちたいんだって。
「そっか。じゃあ剣持ってみる?」
(――――……?)
不安なんだって。
「大丈夫私だって素人からここまで来たんだから。おじさん、良さそうなのある?」
「と言われても……いっそレイアに聞いてみたらどうだい?」
「娘に投げたー」
って言ったら苦笑い。
という事でまた工房。
「レイア、またちょっといい?」
「今集中する場面だから待ってて」
「分かった」
火をいじってたからタイミング悪かったんだね。
(――――?)
「怒ってた訳じゃないよ。それにモーリスならば分かるでしょ?」
(あ、うん)
こういうところがモーリスの可愛いところかな。
――しばらく。
中々終わらない。
……これまさか、私と喋ってて遅れた分?
「モー……」
モーリスに声をかけようとしたら、寝てる。
そういえばモーリスが外で居眠りしてる場面って、初めて見たかも。
(……?)
あ、起こしちゃったかな。
モーリスは私の顔を確認すると、また居眠り開始。
……私もつられて眠くなってきた……。
――更にしばらく。
「おーい」
「んにゃっ!? ……あ、寝てた?」
レイアに揺り起こされました。
「二人とも気持ち良さそうにね。モーリス君はまだ寝てるけど」
隣を見ると、本当にモーリスはまだ寝てた。
(……――……? あっ)
丁度起きた。
「おはよう」
(……――――)
あはは、よだれの跡がある。
「それで今日はどうしたの?」
半分呆れ声のレイアは、両手を腰に当ててモーリスへと質問。
でもさっき聞いたから私から答えるね。
「何か武器を持とうかなって思ってるんだってさ」
「……触発された? まあ分からないでもないけど。えーと……とりあえず今背丈はどれくらい?」
(……?)
「あーそうだよね。ちょっと待ってて」
レイアは巻き尺を取りに行ったみたい。
「そういえばその服も結構小さくなったよね? あの時で確か百三十センチくらいだっけ?」
(うん。――――――?)
背が伸びたかな? だって。
「と思うよ。あ、どうせならばこの後ポール・テーラーに行こうか」
(うん!)
よーし、今日は小さいの同士でうろちょろしよう!
「おまたせ。ちょっとごめんねー」
レイアが戻ってきたらすぐモーリスは立ち上がって測られる体勢。さすがに心が読めるとやるべき事が全部分かってるよね。
「……んー、約百四十センチ」
「えっ!? モーリス伸び過ぎ! あれから半年くらいしか経ってないよ!?」
(えへへー)
そういえば最近はモーリスを見上げる事が増えてる。……あー小人族だからってのは仕方がないとして、年下に身長抜かれるのは複雑ー。
「半年でそれだけ背が伸びたならば、体の節々が痛くなったりしてなかった?」
(……うん。――――、――――――)
レイアの質問に、隠してたけど、結構堪えてたんだって。
「あー私その痛み分からないもんなぁ……」
「あはは。アイシャは心の痛みを分かってあげればいいの」
「……何そのいい雰囲気の発言」
ってツッコミを入れたら、モーリスが一番笑ってた。
――品定め開始。
一旦倉庫に行って、そこで品定めさせてもらう事になった。
「でも店頭じゃないんだね」
「店に出してるのはいわゆる見世物だからね。ここだけの話、原価率50%以下のもある。言っちゃ駄目だよ」
……原価率? とりあえず笑っておこうかな。
「んー……まずはこれ持ってみて」
レイアはそこにあった、多分目に付いただけの剣をモーリスに持たせた。
「……様になってるね」「うん。意外なほど」
(――、――――)
「服のせい? あーそれもあるかも」
モーリス自身が服を軽く引っ張ってそう答えた。確かにちょっと王子様チックな服装だから、剣が似合ってるのかも。
「あ、これは?」
レイアが次に持ってきたのは機械弓。
「……似合ってる」「うん」
次はレイアが使ってる槍。
「これも行ける!」「うん!」
短剣を二刀流。
「いい!」「いい!」
その後もとっかえひっかえ持たせまくったけど、どれも似合うという奇跡!
「やーこれちょっと火がついちゃうかも」
レイアすっかり興奮してます。
「そういえばモーリスはジリーと一緒に、ポール・テーラーでデッサンモデルもしてるんだよね」
「えっ? あのポール・テーラー? 高級ブランドの?」
「うん。ポール・ヴァロさんは私たちに支援してくれる人の一人だよ」
「……やばっ! お近づきになりたい!」
「あはは……」
レイアも意外とミーハーなんだねー。
「モーリス君は自分で持った感じ、どれが一番しっくり来たの?」
(……――――)
分からないって。まあ持っただけで使ってないからそうだよね。
「よし、私が付き合うから実際に使ってみよう! 広いところに行くよー」
「はーい」(はーい)
――広いところ。
広いところに移動しました。うん、広いところ。
「順番はモーリスに任せるね。私は軽く振るから大丈夫」
(うん)
モーリスが最初に選んだのは……げ、いきなり遠距離だ。
「機械弓ね。それ私が使ってた奴だから癖ついちゃってるかも」
(――。――――)
試射だから大丈夫だって。ってレイアいつこれ使ったんだろう?
さて、私も構えていつでも来いって状態。
……一発撃った。でもこれは動かなくても大丈夫。なぜならば私の手前を狙ってるから。
「モーリス、きっちり私狙ってもいいよ。私も練習になるから」
(――――――――?)
「あはは、いくら心が読めてもそうそう私には当たらないって」
(……うん)
って頷いていきなり私の顔面狙って一発撃ってきた! 避けるのは難しくないけど、ちょっとびっくりした。
(――?)
「大丈夫。そのままの調子でいいよ」
(うん)
モーリスはちょっと優し過ぎるよね。ってのも聞こえてるんだろうけど。
その後はモーリスも分かってきたみたいで、きっちり私を狙って撃ってくれるようになった。もちろんレベル70を超えてる私にとっては当たる気がしないけど、でも恐ろしいほどしっかり狙って撃ってくるのがさすが読心能力って感じ。
(―――――!)
ん? と思ったら武器変えるって。
次は……ほほぉ、私に剣で挑もうと。よろしいお相手して差し上げましょう。
――はい。あっさり倒しました。
私は倒れたモーリスに手を引いて立ち上がらせる。
「んしょっと。怪我は?」
(――。――――――――――! あはは)
やっぱり私には勝てないだって。そりゃそうだよ。私だって魔法ではモーリスには勝てないだろうからね。
「さてお次は?」
んー? ナイフの二刀流だ。これはちょっと強そう。
(――――!)
正面から走ってきた。そして両手でナイフを振ってきて、私に攻撃の隙を与えようとしない。
「中々やるぅー」なんて言ったらニヤってした。モーリスにとっても手ごたえありなんだね。
……でも残念っ!
(あうっ!)
戦闘素人のモーリスには意地悪だったかな? しゃがんでから剣の柄で腹を突いたら私を見失ってたようでモロに入っちゃった。
「ごめん大丈夫?」
(……うん……)
ちょっと痛そうだから、今日はこのくらいにしたほうが良さそう。
「レイア、今日はこれで止めるね。モーリスも」
「はいはい」(うん)
――再び工房。
「私としては二刀流かな? 軽い武器のほうがモーリスには合ってる気がした」
「うーん、やっぱり双剣がいい感じだったよね」
(うん)
やっぱり本人もそう思ったんだ。
「って事でレイア」
「うん。でも見た感じナイフじゃなくて短剣のサイズでも良さそうだったね。……あ、今度ダンジョンに潜った時に素材取ってきて作る?」
(――? ――――、――――――)
自分も潜るんだと思って、自信ないなーだって。
「そこは大丈夫。モーリスは勉強優先で、私とレイアと、あとシアが潜るから」
(――――!? ――――――!)
シアも一緒だったら行きたいだって。さすがは魔王様、人気度抜群。
「あはは。まあ……魔法の援護があるのは頼もしいけど」「いいんじゃない?」
あら、レイアが乗ってきちゃった。
私としてはシアの練習とレイアの守護があるから、これ以上仕事が増えるのは……あ、モーリスに睨まれた。
「あーははは……」
「モーリス君って防御魔法使える?」
っていうレイアからの質問に、早速使って見せるモーリス。板状の防壁を目の前に展開して、盾みたいにしてる。
「おっ、いいね。それならばどうにかなるんじゃない? どうせアイシャはおもりが増えるとか思ってたんでしょ?」
「モーリスじゃなくても心読まれてた……」
「誰だってアイシャの顔とモーリス君の能力見れば分かるよ。大丈夫、モーリス君は私に付いて防御専門になってもらえばいいから」
……レイアに言われたら断りづらい……。
「はあ……分かった。でもほどほどにね。モーリス今何も武器になるもの持ってないでしょ?」
(――――)
モーリスは手に収まるサイズの銃を取り出した。そういえばフューラからプレゼントされたっけ。
「でも戦力には数えられないかな。とにかく無理はしないでよ? モーリスに何かあったらジリーが怒るんだから」
(あはは。――――)
本当に分かってるんだか……。
――ポール・テーラーへの道中。
レイアとは別れて、私は用事ないんだけど、モーリスは服が小さくなったのもあるから、私も一緒に行く事にした。
(ふわぁーぁ)
モーリス大あくび。
「そういえばモーリスが外で居眠りするのって珍しいよね」
(うん。――――――)
「あ、そうなんだ。じゃああんまり寝られないんじゃないの?」
(――――――。――――)
「へえ」
モーリスは寝てる最中も他の人の心の声が聞こえるから、外ではうるさくて居眠り出来ないんだって。家でも何かあった後はみんな心が動いて眠りにくいらしい。
心の声が聞こえるっていうのも大変なんだね。
(――、――――――。――――――――、――――)
レイアの工房は、特にレイアが集中してると無心になってるからすごく静かで居心地が良かったらしい。
「レイアに言って居眠り場所にしてもらう?」
(あはは。――――、――)
迷惑になるのは駄目だって。まあそうだよね。でも寝てるだけならば迷惑もないと思うけど?
(――――)
それでも、だって。
――ポール・テーラー。
入店して、さてどうしようかなーと思ったら丁度ポールさんが奥から出てきた。
「おっ、勇者様とモーリスではないか。今日は何用かな?」
「モーリスがですね、あの時からもう十センチも背が伸びてたんですよ。それで服がきつくなってきたんで、直せないかなーって」
ポールさんは顎に手を当ててモーリスを観察中。
「そういえばすっかり勇者様よりも背が高くなったのー。どれ、改めて採寸をしよう。こっちゃ来い」
(はぁーい)
「あ、ついでだから私もお願いしようかな」
小人族だから成長は止まってると思うんだけど、もし一センチでも伸びてたら嬉しいもん。
「――という感じじゃな」
床に倒れ込み茫然自失……。伸びてるどころか三ミリ縮んでた……。
「……あっ、そうだ! ちょっと運動すれば伸びるかも!」
「それはない」
冷静に否定されました。はうぅ……。
「それでも勇者様は小人族の女性では長身じゃろうに」
「まあ、そうですけど」
「ミスヒスなのだから運動能力もあるじゃろ」
「まあ、そうですけど」
「おっぱいもあるじゃろ」
「まあ、そうで……エロジジイ」「むわっはっはっ!」
思わず胸を隠しちゃった……。
モーリスの採寸も終わって、服は同じデザインで作り直す事になった。ちなみにモーリスのこの服は、少し変えてはいるけどほぼそのままで販売されてるんだって。値段は……すごかった。
「それじゃあお邪魔しました」
「気を付けて……あ、待った待った! これを届けようとしていたんじゃった」
紙袋を渡された。中には……当然だけど服。
「魔王様の服じゃよ。本当は直接わしが行って確認したかったんじゃが、すまないがこの後用事があってのー」
「うん、分かりました。もしサイズが違ったら後で本人に来させます」
「そうしてくれるとわしも嬉しい」
だと思った。多分だけどポールさんは魔王様に会いたいだけなんじゃないかなーって。
(うん)
あはは、やっぱり。
カナタがいなくなってから、ようやく特に何もない日常を送れた気がする。
シアは普通の日常を欲しがってるけど、それは私も同じだし、多分他のみんなも同じなんだと思う。
だから、私はもう迷わずに突き進むのみ。
剣も鞘も戻ってきたし、私はいつでも準備万端です。
自分の過去作を読んでいて、あっちのほうが上手いじゃねーかと思ったのは内緒です。
この後は数度のコメディ回を挟んで、遠出をする予定です。




