第八十二話 魔王様の挨拶回り
――シア視点。
昨日はフューラの工房であれだけ寝たというのに、本日起きてみると私が一番お寝坊さんであった。
恐らくは無意識のうちに気を張ってしまっていたのだろう。私はどこからどう狙われてもおかしくはない存在なのだから。
「あ、ようやく起きてきた。シア、今日は一日中あんたを連れ回すからね。覚悟しておきなさい」
「いきなりか。……しかし私も挨拶回りはしなければと思っていたので、丁度いい」
「お礼参りにはしないでよ?」
「それくらい分かっている!」
はあ……。表情で冗談だという事は分かるのだが、しかし私はいつまでこのような役回りなのだろうか?
――出発。
「まずは工房ね」
「ああ」
それほど衝撃的な事実が分かるとは思えないが、しかし検査したのだから結果を聞かなければ。
という事で早速工房に到着。本当に近い。
「フューラー」
……。
おや? アイシャが呼び出したのだが返事がない。アイシャと顔を見合わせてしまった。
「……鍵は?」
「んー……開いてる。フューラー! 入るよー!」
昨日の事もあったので、念のため銃を構えておく。それを見てアイシャが不安な声を出した。
「フューラがやられてるはずないけど……」
「念のためだ」
工房をぐるっと見回すが、特に問題はない。昨日私が帰った時の、そのままだ。
「フューラー……どこー……」
小声でこわごわのアイシャ。私はその後ろを守る。
手前にはいなかったので奥の休憩室か? という事で突入。
「フュー……いた。けど、どうする?」
余計に小声になったアイシャ。それもそのはず。フューラは腕を枕に床でスヤスヤと眠っていたのだ。
「そもそもフューラはあのベッドでないと眠られないのではなかったか?」
「そのはずなんだけど……どう見ても気持ち良さそうに寝てるよね」
またもや二人で顔を見合わせてしまった。
「……後回しにするか?」
「んーだね。なんかこれを起こすのは気が引けるもん」
という事でフューラの件は最後に回す事になった。
――次に移動。
「次はどうするのだ?」
「ポール・テーラーに行ってから魚のホネ焼き食堂。お世話になった魔族の人たち優先で行くよ」
「了解した。しかしお年寄りには刺激が強そうだな」
「あんた見て死ねるんなら本望じゃないの? ……あ、ごめん」
こちらが溜め息を吐く前に謝った。
「カナタだったならばお小言を頂いていただろうな。まあ分かっているのならば追求はしないが、しかしそろそろ本気でそのような扱いは返上してもらえないか?」
「はあ……」
結局私よりもアイシャが溜め息を漏らした。
「うん。分かった。……けど、分かってるとは思うけど私はこういう性格だから、またきっと失言する。ずるいとは思うんだけど、先に謝っておくね。ごめんなさい」
「……仕方がないな。私は寛大で無害な魔王であるからして、許そう」
「あはは。無害なのは認めるけど、いつ寛大になったのさ?」
「今」
などと話しているうちに到着。
――ポール・テーラー。
店内に入ると店員がアイシャの顔を覚えていたようで、すんなり奥へと通された。
「おー勇者様ではないか。そちらのお嬢さんは?」
早速だが、ここはアイシャに任せようと思う。
「新しい仲間で、マーレィって言うんだ。はい、挨拶」
「そう来るか……。んんっ、初めまして。マーレィと言います。ポール氏のお噂はかねがね」「まな板じゃな」
待てぃ! 人が話し終わる前に、人の一番気にしている部分に触れてくるとはっ! というかアイシャの奴、隣で大笑いしているのだが!
一笑いした後、アイシャは神妙な表情になった。先にあの事を報告するのか。
「ポールさん、重要な報告があります」
「……ジリーか?」
「いえ、カナタです」
アイシャの表情から察したのだな。
「そうか。……残念じゃが、こればかりは……。勇者様、カナタの分も強く生きなされ。それも弔いの一つの形じゃよ」
「……はい」
アイシャの小さな背中は、とても大きな想いを背負っている。……少しでも肩代わりさせてもらわなければ。
私はアイシャの背中に軽く手をやった。私にも背負わせろ、と。
「……分かってる。だから私は立ててるんだ」
「そうか。しかしもっと背負わせてくれてもいいのだからな?」
「うん。その時は遠慮しないよ。それがカナタの死で、私が学んだ一番の事だから」
目は潤んでいるが、笑顔を見せた。なので私も笑顔で返した。私は魔王でアイシャは勇者。しかしこの、カナタが紡いでくれた絆が切れる事はない。そう断言する。
「……のお? わし……すっごーく、まずい事を言った予感が、しておるんじゃがー……」
しまった。普通の魔族として話が進むはずだったのに、私の態度がいつも通りだったので気付かれたようだ。
「んー……」
とアイシャは潤んだ瞳にいたずら心を乗せて私を見やった。
「はあ……まあいずれ話す事ではあるからな」
「だね。んじゃ、改めて自己紹介して」
「承知した。んんっ、では改めて。私の名はプロトシア=アレス・マーレィ。魔王プロトシア、その人だ」
っとポール氏がそのままひっくり返りそうになった! 急ぎ支えたのだが、そこまで驚かなくても……。
「……わ……ま……」
「まな板と称した事は、この際聞かなかった事にするので安心してください」
「……あ……あぁー……」
「お、おいっ!」
白目をむいて気絶してしまった!
「アイシャ!」「店員呼んでくる」
全くもう! だから魔王などさっさと引退したいのだ!
――数分後。
「ん……」
「先生大丈夫ですか!?」
お、ポール氏が目を覚ました。店員からは先生と呼ばれているのだな。
「んー……なんか、本物の魔王様が出てきて、とんでもない失言をした夢を見……って!」
「どうも、魔王です」
「……あぁ……」「せ、先生っ!」
まさかまた気絶してしまうとは。
「アイシャ、私は一旦店を出ている。表にいるので、落ち着いたら声をかけてくれ」
「うん。これ以上やるとポールさん本当に死にそうだもん」
先日アイシャが、私の冗談は人の命に関わると忠告してきたが、その言葉が誇張ではない事を肌で感じてしまった。
店の前で待機し、五分ほど経過。
通行人に変な目で見られているので、早くしてほしい……。
「いいよ」
おっと、気付かなかった。
「分かった」
まずは謝らなければな。
恐る恐るアトリエに戻ると、ポール氏はようやく落ち着いた様子であった。
「先ほどは申し訳ない。まさか気絶するほどとは思っていなかったもので」
「いえいえ。わしこそ、えー……」
「鳥の頃のままで一向に構わないですよ。私もそのほうが気が楽なのだ」
「しかし……いえ、魔王様のご意向とあらば」
今までの魔族のどれよりも強い反応を示したのは、恐らくはポール氏の過去が関係しているのであろう。ポール氏は自ら角を捨て、魔族を捨て、魔王を捨てた人物だ。
お互い中々言葉の出ない気まずい雰囲気が流れる。
……いや、私の出方をうかがっているのか? ならばそれに答えよう。
「私としては、魔王である私に対してポール氏が何かしらを思うというのは致し方ない話ではあるが、だからと言ってどうという事はないのだ。角を捨てた理由も充分に頷けるものであるし、魔族を捨てたその気持ちも斟酌の余地がある。もちろん私を捨てた事もだ。それにポール氏は既に、充分に反省をしているのであろう? ジリーと出会い、私の事を知り、とても大きく後悔をしたと聞いている。それで充分なのだ」
「……寛大なお裁き痛み入ります」
本当に深々と頭を下げるポール氏。魔王という存在は、やはりどうにかしなければいけないものなのだな。
しかし後の話はスムーズに進んだ。
私がもう戦争など望んでいない事、静かに暮らしたい事、そうも行かないであろう事など。アイシャも自身の考えを改めて示し、ポール氏も深く頷いてくれた。
これは何よりも、アイシャが傍にいてくれた事が大きかったのだろう。
ちなみにポール氏の兄であり、セプテンブリオスの元船長であるジョージ氏だが、たまに遊びに来るようになったとの事だ。
七十年もの間、お互いがどうなったのかを知らなかったヴァロ兄弟。それがこの不思議な出会いによりしっかりと絆を結び直したのだから、これもまた一つのカナタの功績と言えるだろう。
「ところで魔王様、その服はカナタの物とお見受け致しますが、どうじゃろ? わしに一通り見繕わせてはもらえませんか?」
「そう来ると思っていた。実は昨日もフューラにもっと動きやすい服装にしたらどうかと言われたのだ。それに家の中までこれでは堅苦しいであろうからな」
私はカナタのスーツを拝借して着ている。普通のシャツにズボンもあるのだが、どうもそちらは触れない気がするのだ。
「んでもそれも似合ってるけどね」
「そ、そうか……」
アイシャに言われると少し嬉しいぞ。
……あまり動きのない戦闘ならば、あえてこれで行くという手もあるか。と思ったらアイシャも同じ事を考えていたようだ。
「あんたカナタと同じで銃使うつもりなんでしょ? だったら動きはあんまりないし、あんた魔法系だから……戦闘はそれでいいとして、普段使えるラフな格好を選んでもらったら?」
「なるほど。よし、それではそのように見繕ってくれ」
「承知致しました。ではこちらへ」
私は今、アイシャの積極さに意外性を感じている。
さて店で洋服選びだ。と言っても私は受身なのだが。
着せられたのはTシャツ短パンの”夏休みの子供”から、上下ジャージの”冬休みの朝練”から、仕舞いにはどこから持ち出してきたのか腹巻まで全て男物である。何故このようなラインナップなのかと言えば、調子に乗ったアイシャが次々と持ってくるせいである。
「あはははは! すっごく似合うー!」
「……私にも堪忍袋の緒というものがあるのだぞ?」
「あはは。あーごめんごめん」
そうか、先ほどからの積極的な態度は、私を着せ替えて遊ぶためだったか……。
「そういえばあんた針仕事出来たりする?」
「何だまた突然に。……出来る。田舎の農家出身だと言っただろう? 子供の頃から破れたりほつれた服は自ら直していたのだ。……ああ、それもいいな!」
自ら服を作る。ふっふっふっ、それを魔王ブランドとして売り出せば軍資金に……さすがにこれは冗談だぞ?
その後もとっかえひっかえ服を着させられているのだが、どうも馴染まない。
「いっそオーダーメードはどうですかな? 魔王様からお金はいただきませんぞ」
「それはさすがに」
と言ったところでアイシャに肘で突付かれた。ポール氏に花を持たせてやれという事か。
「……まあここは甘えさせてもらうか」
「承りました。柄などの相談にも乗りますが?」
「そうだな……あっ、えーと紙はあるか?」
という事で私はとあるデザインを示した。アイシャも覗いて見ている。
「どっかで見たような……絵ってよりも、文字?」
「文字だ。カナタの時代のだがな」
「へぇー。なんて書いてあるの?」
「教えない。出来上がってからのお楽しみだ」
「えー」
片や難しい文字、片や簡単な文字。本文中にも出てきているぞ。さて当ててみたまえ。
――次へと移動。
ポール氏とはお別れ。
「次は食堂の船長か。……丁度お昼時だな」
「だね。でもあんたお金持ってないでしょ?」
「カナタの財布ならばあるが……判断はアイシャに委ねる」
「分かった」
もしもカナタを手に戻せた場合、勝手に財布のお金を使っていたら怒られそうだ。ネリデスールでジリーを探したあの時も、状況は違えど大激怒されたからな。
それにカナタは元々貧乏暮らしであったので、お金には厳しい部分があった。本編ではない完全な日常風景でそれが垣間見えるのだが、まあこれは言っても始まらないか。
――魚のホネ焼き食堂。
私は久方ぶりに来る。なにせ鳥だったので。
「いらっしゃーい」「いらしゃいませー」
丁度船長も娘さんもいた。そして時間も時間なので、お店は中々に繁盛している。
「おっ! 勇者様じゃないか。そちらさんは?」
「初めまして。マーレィと言います」
「マーレィさんか。よろしくね。まあどうぞ座って。ご注文は?」
「私タツタアゲと葉包み。あんたは?」
「同じので」
「あいよー。タツタ2、葉包み2!」「はぁーい!」
流れ作業で船長は注文を取ると、すぐさま次のテーブルへ。
「あれは人が居なくなってからね?」
「分かっているとも。まあポール・テーラーでは店員に聞かれてはいたが」
「あれくらい許容範囲でしょ?」
気楽な勇者は体を伸ばし大あくび。私がそのような気の抜けた姿勢になれるのは、いつの事か。
「はいお待ち」
「おー」「おー」
二人で同じ反応をしてしまった。
「森羅万象に感謝を。それじゃいただきまーす」
「いただきます」
最初にカナタと食べてから、この味が大好きになっている私。
元々料理は出来る人なのだが、カナタの経験が入った私はどうなっているのだろうか? 近々試させてもらおう。
「ねえ」「ん?」
食べながらの質問が来た。
「あんたはただの”いただきます”だったよね?」
「ああ。そもそも私は無神論者であるからな。それに魔族は元々が”いただきます”なのだ。全ての命に感謝し、その命を大切に頂くという意味だ」
「カナタと同じだね」
「……そうだな」
言われて見れば。そのような部分を意識した事がないので考えもしなかった。
「もしや魔族領が後のカナタの国であるのかもな」
「逆だと思うよ。あの街が海に沈むほどの長い時間が経った後、魔族領が出来た。じゃないとあんたはあの街を丸ごとこの時代に転送させたって事になる。それはいくらなんでも無理でしょ?」
「無理だ」
即答出来るほどに無理な事だ。
そもそも時間転移など、人ひとりを転送させるだけでも命を持っていかれかねないほどの魔力を消費するのに、あれだけの規模の街となると、それこそ全人類の命を以ってしても足りないほどだ。
「……つまり時系列では我々のほうが未来人となるのか。不思議なものだ」
「ほんと」
まあ一番不思議なのは私とアイシャ、このツーショットなのだろうが。
――食後。
食事を終えしばし待つ。向こうも用事がある事が分かっているので「待ってて」と一声掛けてくれた。
そして客も減り、我々だけに。娘さんと店長、一緒に来た。
「ふう。はい、おまたせ。勇者様が来るって事は、なにかあったんだね」
「はい。……私たちは先週まで魔族領に行っていまして、偽魔王の討伐を成功させました」
「おおっ! そうかい!」「戦争がなくなるんですね!」
「……」
喜ぶ船長と娘さんに対し、アイシャはやはり切り出しづらそうだ。ならばここは私が持とう。
「実は我々の中で一名、脱落者が出ました」
「脱落者? ……えっ、まさか?」
「はい。カナタが亡くなりました」
「……そう……」
船長は胸に手をやり、娘さんは口に手をやり絶句。やはり深い沈黙が流れる。
「……あたしらが最初ではないんだろう?」
「はい」
「ならばあえては言わないよ。言わないけど……」
船長は、無言でアイシャを抱きしめた。そのアイシャは平静を装っているが、しかし目が潤んでいる。
「……うん。ありがとう。私はみんなのおかげで立てているんだって、実感しています」
「あたしらだけじゃない。一番はこの出会いを作ってくれた、カナタのおかげなんだよ」
この言葉にアイシャは崩れた。声は出すまいとしているが、体が揺れている。やはり強く見せても中身はまだ十七歳の娘。誰かにすがり泣かなければ、その想いは溜まってしまう一方だ。
少しして落ち着きを取り戻したアイシャ。娘さんはショックが大きかったのか、厨房にこもってしまった。
「すみません。……それじゃあもうひとつ話があります」
「もうひとつ? その口ぶりから考えて二人目ではなさそうだね。なんだい?」
そしてアイシャは私に目線をくれた。……のだが、顎で返した。カナタの事は私が答えたのだから、順番だ。
「私? んじゃー、このマーレィの正体」
「正体?」
じーっと私を見る船長。上から下まで丹念に見回している。
「カナタが女装してる訳じゃないよね……って待った待った!」
すごく残念な事を言われたが、しかし私から話す前に気付いたか。
「勇者様と知り合いでカナタの事を一緒に報告しに来る魔族だなんて、一人しかいないじゃないか!」
そう言われれば確かに一人しかいないな。
「自己紹介は自分でやってよね」
「はいはい。えー、私はプロトシア=アレス・マーレィ」「本物!?」
間髪いれずに切り込んできた。
「ははは。ああ、本物だ。本物の魔王プロトシアだ。あー待った! かしずくような真似はやめてくれると助かる。中身は鳥の頃と変わっていないのでな」
やはり船長も口が半開きのまま固まってしまった。
「……あー……えーっと……どうすればいいんだろう?」
「普通に接してもらえたならば、それが一番」
「……んんっ、分かりました。分かったけど……ちょっと立ってもらっていいですか?」
ん? なんだろう?
指示通り立ったのだが、そうすると船長が床に膝を突いた。
「いや、だからそういうのは……」
「そう言ってもあたしらからしたら魔王様ってのは天の上の人。見下げての会話なんて許されない」
「……はあ、仕方がない」
私は屈み船長の頭に手を乗せた。
「あ……えっと……なんだろう?」
「そうか、現代魔族にはもう忘れ去られているのか」
六千年も経てばそうなって当然か? それとも小さな漁村にある食堂の主人という末端の人物だからこそなのだろうか?
アイシャも不思議そうに見ているので、仕方がない、ここは解説と行こう。
「私の頃に存在したしきたりにおいて、目上の人物が己と目線の高さを合わせ頭に手を置くという行為は、”私とあなたとは対等の存在である”という意味なのだ。もちろんシチュエーション如何ではただ頭を撫でただけなので、あくまでも目上の人間が自らにかしずく相手に対して行う行為であるがな」
「へえ……」
この反応、やはり船長は元から知らなかったのだな。
「これで満足してもらえたかな?」
「……あたしにはもったいない。……けれど、魔王様の命とあらば」
ゆっくりと顔を上げた店長の目には、私の笑顔が映ったであろう。
「……本当に魔王様なんですよね?」
「本当に魔王様だよ。勇者である私が認めます」
私以上にアイシャの言葉のほうが納得するであろうな。
「勇者様が認める魔王様って……どんな組み合わせなのさ! あっはっはっはっはっ!」
ついに大笑いしてくれた。そしてそれは私自身も思う事であるし、アイシャも思っているであろう。
そしてこの笑い声に娘さんも再び顔を出した。
「あのー……?」
「あー……言っちゃってもいいかい?」
「他言無用でならば」
「分かりました。ねえねえ聞いてよ――」
その後は娘さんの反応を見る事が出来たのだが、意外なほど驚きが薄かった。その理由は簡単。
「なんか私からしたら遠い世界の話だから、実感が無いっていうか……すみません」
「謝る事など何もないですよ。私としてはそれが一番。大体六千年も前の話の人物であるからして、すっかり忘れ去られてしまうのが一番よかったのだ」
「あーちょっと分かるかも! 昔の失敗をいつまでもグチグチ言われるのって誰でも嫌ですよね!」
「そうそう! 全くその通り! はっはっはっ!」
まさかこんなところで気が合うとは。
その後はしっかりとお会計を済ませ、また移動。
――王都コロス。
「次は?」
「カナタのお世話になった人。まずは赤色帽子便の社長さんかな」
「ならば私は不要ではないか? 不用意に話を広める事にもなりかねないであろう?」
「私の見立てじゃそういう事は起こらないから大丈夫。それに今あんたを預かれる人は私以外にはいないからね」
ペットか私は!
しかし確かにフューラは工房、ジリーは仕事探し、リサさんは図書館でモーリスは王宮で勉強中。暇なのはアイシャだけだ。
「一つ聞いておきたいのだが」
「何?」
「……アイシャから見て、私は周囲からどう見られているのだ?」
「私から見て? んー……」
とアイシャはいきなり通行人に声をかけた。男性のおじさんだ。
「すみません。この人どういう人に見えますか?」
「ん? んー……魔族。ってあんた勇者様じゃないか!」
「あはは。どうも」
……アイシャ怖い。
男性とはそれだけで別れ、溜め息とともにアイシャにツッコミを入れる。
「あのな、私の質問はそういう意味ではない。魔王としての私がこういう人物だったと知り、どう思うかという事だ」
「どうも思わないって。あんたは魔族の反応を中心に見てきたからみんながひざまずいて平伏したり、逆に大陸では凶悪犯みたいな扱いを受けるイメージがあるんだろうけど、六千年経ってるんだからね? トムやレイアは鳥のあんたを知っているからこそあーいう反応なの。大丈夫任せなさいって。あんたが何を恐れているのかは分かってんだからね」
な……なんという……。
「……予想外の言葉に少々言葉を失ったぞ」
「えー何それ?」
「頼もしいという事だよ」
「……そっか」
アイシャのまとう雰囲気が明らかに変わった。やはり褒められるのは万人が喜ぶ事なのだな。
そして次の目的地で、私は早速アイシャを頼る事になった。
いや、今でも既に頼っているか。
除雪・筋肉痛・風邪の3連コンボを食らって動けなくなっております。
なので投稿速度が遅くても大目に見てくだしゃい。




