第八十一話 アイシャVSレイア
――ジリー視点。
家を出て早速レイアの工房へ。そういえばあたしはあんまり行った事がないね。
「んーと、先に用件を聞いておこうかな」
レイアから催促。
「そうだね。……レイアには悪いんだけど、幾つか武器を壊させてもらえないかなって。ちょーっと実験したいんだよね」
「うん。古い在庫品ならばいいよ」
あっさり了承してもらえちゃった。
「正直意外。鍛冶屋って自分の作ったのを壊されたくないんじゃないかって思ってたんだけど」
「オーダーメードならば当然。だってそこには職人の魂がこもってるからね。……だからこそ、壊したいのもある。そういうのはもう一度溶かすか、倉庫でずーっと眠ってもらう。私の場合はおごっていた頃のを壊したい。もちろん二度と同じ過ちを繰り返さないために戒めとして残すのもあるけどね」
レイアの視線はアイシャに向いてる。
「……アイシャ、その剣折ったら怒るよ」
「うん。分かってる」
しっかり頷いたアイシャ。この二人は本当に仲良しだね。
「あ、そうだ。先にアイシャに聞いておきたいんだけどさ、一撃で武器を壊す特殊能力ってある?」
「ある」
アイシャに聞いたんだけど、答えたのはレイアだった。
それもそうか、レイアは専門家だもんな。
「例えばどんな時にそうなったの?」
「賊に向けられたナイフを蹴ったら一発で折れた。偽魔王の隠しナイフも一撃だったね。他にもそういう事が幾つかあるよ」
「んー……ジリーさんって確かすごく力が強いんだよね?」
「だからこそ知っておきたいんだよ。あたしの力で折れたのか、それとも別の要因なのかをね」
「うん、分かった。それじゃー武器屋リコールの総力を上げてお手伝いしましょう!」
あはは、こりゃー心強いね。
――武器屋リコール。
「ただいまー」「お邪魔しまーす」「おじゃまー」
「おっ! アイシャちゃんおかえり! 無事だったかい?」
「あー」「見れば分かるでしょ? 二人は先に工房に行ってて」
「うん」
すごい勢いで差し込んできた。気を遣わせちまってるね。
言われたとおりあたしとアイシャは工房へ。
「……ね」
「ああ」
言いたい事は嫌でも分かる。後でちゃんとお礼を言わないと。
少ししてレイアが来た。
「ごめん、気を遣わせちゃった」
「気にしないで。さて……先にアイシャの剣確認させて」
流れるように話が進んだ。これはこれで気を遣わせちまってるんだろうね。
「はい。でもあんまり使ってないから傷はないと思うよ」
そう言いつつ剣をレイアに見せると……真剣。本当に職人の目だ。
アイシャはそれを見て、ちょっと緊張してるのかな? 眉間にしわが寄ってる。
レイアは剣を台に乗せて、耳に引っ掛けて片目で使うルーペでじっくり観察中。本当に剣の先から柄の先端まで、じーっくーりと、なめ回すように見てる。
「……あ」
「えっ!?」
「……」
何っ!? もう、あたしの武器じゃないのに緊張しちゃうじゃねーかよ。
その後もレイアは「あ」とか「お」とか「ふーん」っていう意味深な言葉を連発。その度にアイシャもあたしも反応しちゃって、全然落ち着けない!
「……ねえアイシャ。カナタさんって最後、出血してた?」
「うん。私のせいで頭を怪我して、私を庇おうとして石化して、私が間に合わなくて砕かれた」
今まで見た事がないくらい厳しい表情になったレイア。
「その後、剣使った?」
「うん。魔族を納得させるのに、シアと演技で剣を交えた」
「っふーん」
投げ捨てるような言い方だった。なんだろう、背筋が凍るような感じがする。これ絶対めっちゃ怒ってるよ……。
「……ふう。おーわりっ」
はあ……ようやくかい。なんていうか、ドッと疲れた。
「それで?」
「うん。さすがエフォートクリスタルって感じ。ただ一旦研ぎ直したほうがいい。あとは……」
「アイシャ、ちょっとごめんね」
「ん?」バチィーン!
いきなりの平手打ち。アイシャもあたしも完全に固まっちゃった。
「何でぶたれたか分かる?」
「……カナタを救えなかったから……」
「違う。アイシャさ、今カナタさんが死んだのは全部自分のせいだって言ったけど、それ、カナタさんがアイシャと一緒に戦って、命をかけてアイシャを庇ってくれた事、いらないお世話だって言ったのと同じなんだからね? それカナタさんにすっごく失礼だよ」
叩かれた頬を手で覆っているアイシャ。あたしは……。
「……今のアイシャには、この剣は渡せない。どうしてかは分からないけど、クリスタルの中にね、血が混じってるの。私が削り出した時にはこんなのはなかったから、これはきっとカナタさんの血。そして剣の傷から見て、今のままじゃ近いうちにアイシャはこの剣を折る。さっきは皆のおかげで立ててるって言ってたけど、でも心の底では立ち直れてない」
そう言ってレイアは剣を魔法で仕舞った。
どう言えばいいのか……。
「あーのー……」
ってアイシャの擁護をしようとしたら、アイシャ自身に止められちまった。
「……そんなの言われなくたって分かってる。だから言うけど、カナタのあれはいらないお世話だった。カナタに失礼? そんなの百も承知」
嵐の前の静けさって奴かな。アイシャの奴、レイアを本気で睨んでる。
「レイアが剣から読み取ったその私は、昨日までの私。レイアは今日の私を見ていない。私はもう決めたんだ。カナタの死を背負うって。背負って投げ飛ばすつもりでね。だから私は立ててる。カナタにならば何をしてもいいって、例えその死を投げ飛ばしたとしても、カナタならば笑い飛ばすって、そう信じてるから」
お互い睨み合っていて、壊れない友情にもヒビが入りそう。ここはあたしが取り繕うしかないね。
「まあまあお二人さん落ち着いて」「落ち着いてる!」「落ち着いてる!」
……怖いよこの二人!
「アイシャの言った事、本当か確かめさせてもらう」
「受けて立とうじゃないの。泣かせてやる」
……あたしどうしよ?
「ジリー!」「あ、はい」「ルール決めて」
あたしが!? いやー……参ったねこりゃ。はあ……。
「……っても商品使う訳には」「構わないよ」
あーそーなんだー……。
「はあ……わーった。なんかもう逃げられそうにないし」
なんて言ったら二人から睨まれたよ。あー怖っ!
――ルール説明。
レイアはアイシャの深層心理を確かめたくて、アイシャは認めさせたいって事だから……んー、決闘しかないか? といってもなるべく穏便にだね。
「それじゃあルールは三分一本勝負。アイシャはレイアの剣を落とすか壊す。怪我はさせんなよ。レイアはアイシャに防御体勢を取らせれば勝ち。ちょっとハンデきつ過ぎかな?」
「アイシャごときに私の剣が折れる訳ない」
「レイアごときに防御なんていらない」
譲らないねぇ。
「……さすがにここで剣を振り回す訳には行かないから、広いところに移動するよ」
こんな工房の中で剣を振り回したら、あたしだって危ないからね。
――移動して広いところへ。
広いところに来た。うん、広いところ。二人は既にやる気満々。”殺す”って書くほうのやる気。
アイシャはリコールで売ってる1シルバーの一番安い剣。なのにレイアは工房にあった新しい剣を持ってきてる。ズルいね。口には絶対に出せないけど、ズルいね。
「言っておくけど、危険だと判断したら介入するからな?」
「……」「……」
睨み合ったまま無言って……。
「はあ……。それじゃ……始め!」
――対決開始。
先に動いたのはレイアだ。アイシャは迎撃に特化か?
「はあっ!」
さあ上段からの一撃は? はいあっさりかわした。剣の重さでレイアはよろける始末。
「っとっとっと。……うーん、やっぱり本気で振ると私には厳しいね。もう少し軽くしたい」
「それはレイアがひ弱なだけー」
あーぁあ。またアイシャ煽ってるよ。
……でも、調子が戻った証拠なのかもね。あたしもさっさと次に進まないと。
ぷくーっと頬を膨らませたレイアは、またアイシャに突撃。上段切りをして、あっさり避けられる。
んでまた上段。やっぱり避けられる。
「レイアー! 上段だけじゃアイシャにゃ勝てねーよ!」
「あんたどっちに味方してんの!」
「んー、強いて言えば弱い者の味方、かな?」
「うざーい!」
あっはっはっ。でも誰かさんならば同じ事言ったよ。きっとね。
「一分経過、あと二分だぞー」
と言ったらレイアが上段をやめて薙ぎ払いに出た。でもそれじゃーなぁ……。
「おりゃーっ!」「あらよっ」「んにゃあっ!?」
アイシャが跳ねて避けて、レイアは剣の重さでそのまま捻られて、とんでもない声を出して転んだ。
「怪我してないかーい?」
「大丈夫。……んもうっ!」
「あはは。この調子だったら私、一太刀も振るわずに勝つかも」
「……腹立つ!」
残念ながら一太刀も振るわずに終わっても、それは引き分けなんだけどねー。
いよしっ、ここは一つレイアに大きなヒントを出したげよう。
「レイアー、目の前にいる奴、どう動いてたー?」
「……分かった」
おほぉーさすがは優秀さんだー。
レイアは……ははは、仕草までアイシャに似せてきた。面白いねぇ。
「おるあっ!」
アイシャお得意の、全身を使った捻りの一撃の真似。さすがに背が違うからアイシャよりも軽く振り回してる印象。
「あぶなっ! ……っても、それじゃあ私は避けるだけで済んじゃうもーん」
「ぐぬぬーっ! んじゃこれっ!」
下段からの跳ね上げ。
「うおっ、と」
アイシャもこれには一瞬手が出そうになった。いい感じいい感じ。
「あと一分。アイシャ、引き分けたら部屋のクマさんもらっちゃうかんねー」
「えっ!? ちょっ、引き分けあるの!?」
「勝ちの条件は出したけど、クリア出来ないと負けるとは一言も言ってないよ」
ちょっと上を確認してみな。ほらね?
「はいあと三十秒ー」
「ちょっ! んー……」「今だっ!」
隙だと思ってレイアが切りかかる。けど、アイシャは隙を作った訳じゃないよ。
アイシャはサイドステップでキッチリかわして、剣を一振り。
「あうっ……」「へぇー止めるんだ」
ギリギリだけどレイアは間に合って剣でアイシャの一振りを止めた。
「あと十秒ー」
実際にはまだ二十秒くらいあるけど、あたしはアイシャを焦らせる事にした。
カナタがやられたあの時と同じようにね。
一旦後方に飛んでからすぐさま剣を斜めに構え突っ込むアイシャ。
「わわわわっっ!」
レイアは思わず剣を顔の前に立てて防御。自分は顔を背けるというオマケつき。
「うるぁっ!」
とアイシャは気にせず一振り。
パキンッ!
折れたのは、レイアの持つ剣だった。
「はい、アイシャの勝ち!」
あたしは目がいいからしっかり見てた。アイシャはレイアの持つ鉄の剣を、まるでキュウリでも切るみたいにほとんど抵抗なくスパッと切って捨てた。剣先はレイアの首筋ほんの手前、それこそ紙一重の位置を通過。
あたしには分かる。あの剣さばきは、狙ったんだってね。
……まさかあたしの狙いも? まさかね? まさ……睨まれた。あはははは……。
――対決終了。
「さてお二人さん、ご感想は?」
「その前にそっちの剣見せて」
「はい。言っておくけど傷一つ付いてないよ」
煽るようなアイシャの言葉を無視して、じっくり剣を見てるレイア。
「……傷一つ付いてない? ウソツキだねー。ちゃんと擦った傷あるよ」
「え、嘘?」
アイシャはレイアにくっ付くように剣を見てる。これのどこが壊れそうな友情なんだい? はあ……。
「ここ」
「んー……あっ。……んー? 違うよこれ。私が当てたのここじゃないもん。こっち」
「えー? ……いや、こっち傷一つないよ? あの剣折るのに本当に傷一つないなんてあり得ないから」
「それがあり得るかも? あはは」
勝者の笑いってか? でもレイアも、ちょっと呆れ気味にだけど笑ってる。
「分かった。これが折られちゃうんだから、認めざるをえないね」
どうだと言わんばかりのアイシャの表情。
「でもアイシャ、カナタさんに失礼な言動したのは事実なんだから、ちゃんとそこは反省して。じゃないとあの剣は返さない」
「反省ならば一秒ごとにしてるよ。それは私が勇者になってからずっとね。だからこそ私はカナタに対しては失礼な態度が取れるんだ。……じゃないと、本当の意味でカナタを弔ってあげられないから」
レイア沈黙。あたしらにはあたしらなりのやり方があるって事だね。
「レイアだって今反省してんじゃねーの? あの新しい剣をたった1シルバーの剣に折られたんだからね」
「あれは技術の差が」「そうだね。私はまだ技術も覚悟も足りない」
レイアを擁護しようとしたアイシャだけど、レイアはしっかりとあたしのツッコミを受け止めたね。
「さっきも言ったけど、剣には職人の魂がこもってる。それをたった1シルバーの……自分で言うのも何だけど、なまくらな剣で折られちゃった。それは私の魂が足りない事の証明」
凹んだ表情。だったけど、次にはちょっと笑顔を見せた。
「……なんかすごくいい薬になった。色々なきっかけになったカナタさんには、本当に感謝しなくちゃ」
「みんなそうだよ。だけどそれはカナタ一人が引き寄せたきっかけじゃない。学生時代に私がレイアと出会って、レイアが私の小人族としての劣等感を吹き飛ばしてくれたから、私は勇者としてカナタと出会えた。そのきっかけはレイアにあるし、私が学校に入るきっかけはトムが作ってくれたし、トムが王様を目指したきっかけもまた別にある。そうやって繋がっていくんだよ」
「うん。……なんかアイシャったら、本物の勇者みたい。あはは」
「えー? 私これでも歴とした勇者ですけどー? あはは」
なぁーんだ、あたしが危惧する必要なんて元からなかったんじゃねーか。
――レイアの工房。
「でも剣折っちゃったね。それ高いんじゃないの?」
「んー、10シルバーかな。といってもこの折れた剣にも商売としては利用価値があるんだよ。勇者がたった1シルバーの剣で折った剣、って感じで二つの剣を展示するの。切り口を見れば分かる人には分かるから、結構いい見世物になるよ」
あはは。魔族領のマリさんも中々の商売上手だったけど、レイアも負けず劣らずだね。
「あ、でもアイシャの剣はちょっとこっちで預かるよ。メンテナンスしなくちゃ」
「うん。お任せします。私の専属職人さん」
「まっかせーなさいっ! あはは」
畜生羨ましいな。あたしも同年代の友達ほしくなったじゃねーか。
「あとはジリーさんだね。えっと、武器を壊せるんだっけ」
「あーそう。何て言ったらいいのかな? あんまり力を加えてないのに、あっさりナイフが折れちまうんだよね」
「ふぅーん……」
溜め息を吐いて、なんか考えてるレイア。そしてそのままいなくなっちまった。
「……なんだ?」
「さあ?」
待つ事数分。
「手伝ってー!」
と裏から声が。
まあ重量物を持つ仕事ならばあたしが行くべきだね。それに協力してもらう側だし。
「おまたー。いよっと」
予想通り在庫品の剣を六本持たされて、近場の木製のテーブルに運搬完了。
「えっと……私が普通に持つから、軽くでいいから殴ってみて。「折れろっ!」って思いながら」
「あいよ。軽くでいいんだね? ……よし、いくよ」
剣が折れる事をイメージして……軽いゲンコツ程度で殴った。
コン。
ポキッ!
カランカラン……。
「い、いやぁ……あたし本当に力入れてないよ??」
「うん。これでバッチリ分かった」
在庫と言っても商品を折ったのに、平然としてるレイア。あたしの罪悪感はどこに仕舞えばいいんだろう?
「ジリーさん、やっぱり特殊能力だよそれ。しーかーも、鍛冶職人が一番嫌う能力」
「えっ、っていう事はあたし、レイアに嫌われてんのか……」
そこまで深い仲って事でもないけど、結構凹む。
「あーそうじゃなくて、何度も言うけど剣には職人の魂がこもってるんだよね。けどその能力はそんな事お構いなしに、剣だろうとナイフだろうと、多分槍だろうと弓だろうと、そして防具でさえも簡単に破壊出来ちゃう」
なんだろう、あたしとんでもない能力持ちなんじゃねーか? 変な汗出てきた。
「あの、あたし本当に大丈夫なのかい?」
「単なる能力だからね。アイシャだってなんか持ってたよね?」
「うん。私は自分の重力を自在に操れる。重さっていうほうが分かりやすいかな? でも面白いのが、重力を強くしても体重計は動かない。だから体重を操れるんじゃないんだ。……まー使えてるからいっか、って感じ」
「そんなあっさりと言わないでくれねーかなぁ」
「あはは! 大丈夫ジリーはどうなったってジリーだから!」
……楽観的というか何というか……。正直羨ましいよ。
「あたしってただでさえ化け物なのにさ、これ以上おかしくなったら本気で嫌なんだけど……」
何度この力をなくしたいと思った事か。
「でもその能力、分かった上で使えばピンポイントに壊す事も出来るようになるよ。例えば剣の一部だけコの字に抉り取るとか」
「いやいや、だからあたしはこれ以上化け物になりたくないんだっての」
「大丈夫大丈夫。この能力自体は結構有名だから。鍛冶屋目線で、だけどね。私たちの間ではブレイクスキルとか、格好つけてソードブレイカーなんて名付けてる人もいるよ」
って事は意外とありふれた能力なのかね?
「あ! 聞いた事ある! 確か三代前の王様も持ってなかったっけ?」
「そうそう! まあ私たちの生まれる前の王様だけどね。なんでも飛んで来た弓矢を手で掴んだとか」
「うんうん!」
あ、あれ? あたしそっちのけで盛り上がってるよ……。
――その後。
結局二人のよく分からない話はその後も続いて、追加で二本折らせてもらって、あたしが解放されたのはすっかりお昼を過ぎてからだった。
「じゃあレイアまたねー」
「うん、またー。ジリーさんもねー」
「あいよ。またよろしくー」
なんかすっかり痩せた気分。
「……何その顔?」
「呆れてんの」
「あはは。んー、まあ何ていうのかな……レイアとの事はありがとう。あと、私を焦らそうとした事もありがとう。ちゃんと私の頭には、あの時の光景が浮かんでたから」
ちょっとだけ嬉しそうなアイシャ。それを見て、改めて羨ましくなっちまった。
「……アイシャ」「おっとねーちゃんどこ行くんだい?」「オレらと遊ぼうや」「ヘッヘッヘッ」
……イラッ! いいところでチンピラ三人組みが絡んできやがった!
「あん!? あたしは今、ひっじょーに! 機嫌が悪いんだ! 怪我したくなかったらさっさと消えな!」
「ほー威勢のいいねーちゃんだ事!」
そう言ってチンピラは幅の広い剣を取り出した。
「あんたら」「ここはあたしが持つ」
アイシャが買いそうになったけど、これはあたしの喧嘩だ。
「もう一度言う。あたしは今機嫌が悪い。さっさと消えろ」
「うへーおっかねーねちゃんだー」「んじゃーオレらが機嫌も気持ちもよくしてやるよー」「ヘッヘッヘッ」
――ちょっと後。
「あうー……しゅいましぇぇん」「オレらが悪かったっす……」「ふぇー……」
フルボッコ完了っ! せっかくだから連中の剣を三本ともバキバキに粉砕してやったぜ。
「アイシャ、こいつら警察に突き出したいんだけど」
「もう呼んだ。すぐに憲兵団が……来た。あとは任せて、私たちは帰ろう」
「わーった。んじゃ憲兵団のみなさん、よろしくー」
アイシャの顔を見て憲兵団もすぐに分かったみたいで、あたしらには軽く会釈だけで何も言われずに終わった。
「……はあ」
「なぁーぁにぃー?」
思わず溜め息を漏らすと、アイシャはすっごくかわいい声で人の顔を覗き込んできた。
「……友達がいるのって、羨ましいなってね」
「ジリーにだってシュンヒさんがいるじゃん」
「それだけじゃないよ。いいかい? あたしはゼロからのスタートだったんだ。言葉も知らず、親の愛も受けられず、友達もいないし普通の生活そのものを知らない。そういうところからの、たった一人でのスタートだ。それでもどうにかやってきて、人を殺めて死刑になって、別の星に飛ばされたと思ったら時間旅行をしていて、仕舞いにはこんな力を持っちまった」
自分で言うのも何だけど、数奇な運命ってので考えればフューラよりも上等じゃねーかな?
「……リサさんは普通の人にあこがれるって言ってたけどさ、あたしは普通の人になりたいんだよ。こんな力捨てて、普通の……お……お嫁さんに、なりたいんだよ」
話の流れから、あたしの願望を話しちまった。だってよ、こんなあたしが抱ける夢なんて、お嫁さん位しかないんだよ?
そんなあたしの状況を知ってか知らずか、アイシャは笑顔で頷いた。もしかしてアイシャもだったりするのかな?
「……そんなあたしから見て、一番普通なのがアイシャなんだよ。あたしの中ではアイシャに羨ましさを抱く事がある。アイシャにはこの気持ち分かんないだろうけどね」
同年代の気の置けない友達がいて羨ましい、って言うだけが、結局あたしの心情全部出しちまった。どうしてこうなった……。
「……うん。そう思う。少なくとも私は三日連続徹夜残業も、二百年以上性奴隷生活も、敵味方巻き込んで大量の死傷者を出した事も、生まれてから十三年間の虐待生活も、声の出せない呪いを受けての奴隷人生も、戦争を起こして世界を壊した事もない。だから、私は一番普通の人。でもね、それは私にも言える。ジリーは小人族の苦労を知らないでしょ? 私だって何度も普通の人間族じゃないんだろうって思った事あるもん。だからね、羨ましくていいんだよ。分からなくていいんだよ。だって、それが普通だから」
あたしはてっきり「ジリーの気持ちも分かるよー」って言われるかと思ってたんだけど、その上を行った。
それどころか、あたしを普通だなんて抜かしやがった。
……畜生。
「……晩飯アイシャのだけ辛くしてやる」
「あはは」
畜生。羨ましい。
さすがに年末年始に今回で休み過ぎかと思ったので復帰。




