第八十話 もう届かない想い
――グラティア王宮、謁見の間。第三者視点。
現在は最後の謁見が終わったところである。
「さぁーて、今ので本日の謁見は終わりですね?」
「そう……ですね。はい。本日もお疲れ様でした」
若干お疲れ気味のトム王と、そんなトム王の肩を笑顔で揉むカキア大臣。立ちっぱなしの衛兵もお疲れモードで大あくび。これがグラティア王宮、謁見終了後の日常である。
「んーこちょこちょこちょーなんちゃってー」
「あはは、やめてくださいよ、くすぐったいなー」
などと戯れている二人の顔色が、一瞬で蒼白になる時刻がやって参りました。
「あーそこは弱いんですから! や、やめー……んえ??」
黒い風がみるみるうちに渦を巻き、球体となって弾け飛んだ。
――アイシャ視点。
「ふう、到着だねー……って!!」
トムとカキア大臣、なにやってんだあれ!
「……あぁーんんーたぁーらぁーっ!!」
「ま、待って待って誤解だから! カキアさんとはそんな」「問答無用ッ!!」
という事がありまして、私は現在ジリーに羽交い絞めにされています。
「がるるるるっ!」
「いや、ほんとごめんなさい。謁見が終わったからちょっと戯れていただけで、そんなそんな」
大慌てでナニカを否定してるカキア大臣だけど、もう遅い!
「私たちがどんだけ大変な思いをしてたと思ってんの!!」
「だから謝るから。ね? 落ち着いて」
「んがああーっ! 後で覚えときなさいよ!」
ジリーに止められてなかったら今頃張り倒してたのに!
――一旦落ち着いて。
「んんっ。え、えーっ……と?」
二人ともなんも分かってないんだから。ほんっとイライラする。
「はあ……。偽魔王の討伐に成功し、今帰ってきました! それで……それ……で……」
あ、まずい。一気に現実に引き戻されちゃう。
まずい。カ……カナタが……いないの……。
「……アイシャ?」
「待っ……今……だめだから……まだ……」
もう……止まんない……。
――シア視点。
アイシャのこれは、気が抜けたのではなく、報告を行う事で、カナタがもういないという事実を直視せざるを得なくなったのであろう。
……触発されてか、フューラもリサさんもジリーも……モーリスも出ない声を上げて泣いている。
これが現実。
……なればこそ、せめて私だけは最後まで気丈に振舞わなければ!
アイシャの肩に手を置き交代の合図とし、私だけ一歩前へ。
相手は一国の主。私とて王の端くれ。しっかりと分は弁えておる。片膝をつき、頭をたれる。
「この姿ではお初にお目にかかります。私の名はプロトシア=アレス・マーレィ。鳥の姿ではシアと呼ばれておりました、六千年前の戦争の引き金を引いた、魔王プロトシアその人であります」
「……えっ!? あ……えっと……ほ、本当にあの?」
「はい。本物にございます」
私の後ろではすすり泣く声、左右では驚き剣を構える音、正面には困惑し言葉に困る声。
……私には、何をどうされたとしても、何も言う資格などないのだ。
「と、とりあえず……顔を上げて、説明を、お願い……します」
「はい」
立ち上がると、やはり周囲はうろたえた。……今のうちに慣れなければ。
まずはどこから話すべきか。……カナタの事からにしよう。
「帰還した我々は、この六人しかおりません。残念な事に、折地彼方は偽魔王との決戦中、命を落としました」
「……カナタ……さんが……そんな……」
トム王も絶句している。……見れば周囲の衛兵すらも驚きを隠せないでいる。カナタはそこまで皆の知る人物になっていたのだな。
……いかん。言った私も崩れそうになっている。魔王の意地として、どうにか堪えなければ。
「んんっ……折地彼方の最期ですが、偽魔王の攻撃により石化し、その身体を砕かれてしまったのです」
「石化……という事は、亡骸は?」
「……私の中にあります。モーリスを連れ助太刀のためにその場に転送した鳥の私だったのですが、カナタが砕かれた後、その破片を吸収する事で封印が解かれ、この人の姿へと戻ったのです。しかしこれは私が望んで復活したのではなく、また、どのような事由で復活が出来たのかに関しては、私自身定かではありません」
「……なにが、どうなって……」
「それについては、私自身も同様であります……」
当然だ。言わば今はこの事象を解明する、その入り口に立ったに過ぎないのだから。
「次に、偽魔王の正体について。あやつは」「待って。……それは、僕から。それが、僕の責任です」
目を赤くしてはいるが、自身の責任と言い切るだけはあり、しっかりと落ち着いている。
「えーと……すみません。……ふう」
深呼吸をし、息を整えている。
そしてフューラは、カプレルチカのコアを取り出した。
「突然ですが、これが偽魔王の正体です」
「……赤い球?」
「これはリジェネレーターと言って、人で言えば脳と心臓の役割を持ちます。……偽魔王、名前はカプレルチカ。彼女は、僕の妹です」
「い、妹!?」
当然ながら皆一様に驚いている。
「僕の正式な名前はナンバー54ですが、このカプレルチカはナンバー55。……僕が時間を跳躍する事に失敗したせいで、歴史に大きな影響を及ぼしかねない僕を破壊する目的で、カプレルチカは作られたんです。そしてカプレルチカは僕を破壊する手段として、魔族との戦争を利用した。……つまりこの戦争は、僕が引き起こしたんです」
「いや、それは違う。元はといえば私が悪いのだ。六千年前、私が周囲に流されず戦争など起こさなければ、この世界は違う表情になっていたはず。そうなればカプレルチカが魔族に眠る大陸への憎しみを利用する事など出来なかったのだから」
フューラに全ての責任をかぶせてなどなるものか。そんな事、カナタでなくても誰も望まない!
「それから、僕が未来の世界から来た機械である、という話はもうお分かりかと思いますが、これは事実ではありませんでした」
「えっ!?」
「……まず一つ。僕がいたのは異世界ではありませんでした。この世界の、はるか未来でした。そしてもう一つ。僕は機械ではありませんでした。僕は……」
言葉が止まり、強く唇を噛むフューラ。しかし大きく息を吐くと、しっかりと前を見据えた。
「僕は、人間です!」
今この時、フューラはその事実をようやく飲み込んだのだ。その瞳からは再び涙が溢れているが、しかし、これでフューラは人間として前に進める。……カナタが一番望んだ事だ。
「詳細は工房で改めて調査しますが、このカプレルチカの言葉通りならば、僕は三万年以上先の未来から来た事になります。そして……いいですよね?」
皆に確認を取るフューラ。リサさんもジリーも頷いた。
「……僕とリサさんとジリーさん、そしてカナタさん。異世界から来たと思われていた四人ですが、ほぼ間違いなく、この世界の別の時代の人間です」
「世界を渡ったのではなく、時間を越えた、という事ですか?」
「はい。既にそれぞれ証拠が出てきています」
大きな話が立て続けに雪崩のように押し寄せ、トム王もカキアも頭を抱えてしまっている。
私は一度ここで話を切る事にした。トム王だけではなく、こちらにとってもそれが最良であると判断したためだ。
「私自身今すぐに首をはねられても文句は言えない立場なのですが、しかし本日はもう遅い。話はまだありますし、この続きは後日、という事でいかがでしょうか? トム王陛下」
「……そうしてもらえると助かります。こちらも何が何だか……」
「でしょうな。我々も整理の付いていない部分が多々ありますので」
「日程は追って知らせます。……あ、最後に一つだけ。あなたは」「もう戦争などする気はありません。私はカナタが紡いでくれたこの絆を壊す事はない。……アイシャの友人として、断言いたします」
「……分かりました。外はもう暗いので、お気をつけてお帰りください」
こうして私は、終始泣き通しのアイシャと手を繋ぎ、王宮を後にする事が出来た。
――アイシャ視点。
「ただいまー」
「おうおかえり。遅かったな」
「うん。ちょっとねー」
……なんて会話、もう出来ないんだ……。
「あっ! お帰りなさい!」
「……シオンさん……ただいま……」
その顔が見られない。
今までの話は全部シアがしてくれた。シオンさんはシアに対して、やっぱり他の魔族と同じで、平伏してた。
……でも私の耳にはその会話は全然入っていなくて、私の意識では、ずっと影を探していた。
家に帰ってきた私は、まるでカナタは留守にしているだけみたいな、そんな錯覚にとらわれている。
家には七人いて、……でも一人足りない。
一ヶ月前まではここにあった声、匂い、温もり、姿。……もう戻らない。
……明日が怖い。
きっと今日よりも明日、明日よりも明後日、三日、五日、一週間、一ヵ月……。
時間が経つほどに、カナタがいない事を実感して、カナタがいない事に慣れて、そして忘れていくんだ。
話の途中で、私は席を立った。
「……寝る」
「睡眠導入の魔法をかけましょうか?」
「いい。寝たくないから」
「……分かりました。おやすみなさい」
ただ布団に潜って、なにも考えず、忘れないようにだけしていたい――。
ジリーが部屋に入ってきた音も、私を気遣って何も言わずにいてくれた事も、なるべく泣かずにいてくれたリサさんが泣いている声も、フューラがそれをなだめる声も、全部聞こえていた、
……寝られないもん。
――夜中。
今、何時くらいだろう?
「――」
……誰かの声がした。でも、この声は……。
「喉、乾いたなぁ……」
誰に言う訳でもなく呟いて、私は一階へと向かった。
居間のドアを、音を立てないように静かに開ける。盗み見するつもりではないけど、邪魔、したくない。
「……んすっ……んっ……」
その声は、やっぱりあいつだ。
雲に覆われていた空から月が顔を出した。私の目にはしっかりと、月明かりに照らされる光るものが見えた。
……一人で泣かせたままだなんて、勇者失格だよね。
私はわざと小さく物音を立てた。
「誰!? ……な、なんだ、アイシャか」
袖で涙を拭っているシア。
近付く私も、泣いてる。月明かりの影から顔を出した私、それを見たシアの表情がそう言ってるんだもん。
シアは顔を見られたくないんだね。私に背中を向けた。
「……んんっ、な、なんの用だ? こんな夜遅くに」
「あんたこそ」
「わ、私は……喉が乾いたのだ」
「じゃあ私も喉が乾いた」
「じゃあとはなんだ」
鼻声になってるよ? バレバレだよ。
「……私はね、勇者なんだ。だから、例え相手が魔王でも、泣いていたら見過ごせない。……泣いていいんだよ。私がいるから」
シアの肩が震えている。やっぱり魔王としての威厳が邪魔をしているんだ。ならば……。
バサッ! と強めに、私はシアを後ろから抱きしめた。
「なっ!? なん……なんで……なんで貴様は……何故……カナタがいないのだ……」
「ごめん」
「謝るなっ! 責めてなどいない! 責められるべきは……私一人で充分だ!」
やっぱりね。シアは責任を感じていて、だから泣く事すら許されないと思っちゃってるんだ。駄目だよ。
「カナタは、あんたを責めたりなんてしない。私もあんたを責めたりなんてしない。カナタがいなくなったのは、私のせい。だからあんたは泣いてもいい。私を責めてもいい」
シアは、大きく何度も深呼吸をしている。
「……誰が……誰が貴様など責めるものか。勇者に責任を負わせるなど、魔王の名折れ。……でも」
シアは振り返り、膝を突き、私を強く抱きしめた。
「……すまない。……ありがとう。本当に……本当に本当に、心から……心の底から感謝している。……だから……泣かせてくれ……」
「うん」
シアは私を強く抱きしめたまま、静かに泣いていた。私はそれをただ何も言わず受け入れるのみ。……あの時、ドッボを殺めた時に、カナタがしてくれたように。
それからどれくらい時間が経ったのかな。
「……ありがとう。このくらいにしておく。これ以上はカナタに笑われる」
「代わりに私が笑ってあげてもいいよ?」
「言ってろ馬鹿者。貴様のやるべき事は己が笑うのではなく、皆を笑顔にさせる事だ」
「……あはは、いい事言うじゃん」
シアと私はソファに座り直した。
「他には?」
「他か……そうだな……」
じっくり考えてるシア。
「い、いきなりこういう事を言うのも、恥ずかしいのだが……」
「何?」
「……私、プロトシア=アレス・マーレィは……折地彼方に……こ……」
「こ?」
「……こ……恋心を……抱いていた……のだ」
暗い中でも分かるほどに赤面してるシア。これは本気なんだ。
……あー、罪悪感がぶり返してきた。
「……ごめん」
「な、何を謝る!」
「だって、そんな相手を、守れなかったんだから……」
フューラとリサさんは帰る事が最優先でそういう事はないけど、私はトムに、モーリスはジリーに、同じ感情を抱いている。
だからこそシアの気持ちは痛いほどよく分かるし、でも私の考える以上でもあるんだと思う。私の相手は、まだ生きてるから――。
「……私はつくづく失敗ばかりを繰り返している。何故鳥の姿のままでも構わず告白をしなかったのだろう。何故カナタがアイシャにしたように、私が身を挺してカナタを庇えなかったのだろう。何故……貴様にそのような言葉を吐かせてしまっているのだろう。……改めて言うが、貴様が私に謝る事などないし、カナタの事で責任を感じる事などない」
そう言われても、無理な相談だよ。私たち全員が責任を感じてるんだから。
「……私のせいでカナタは死んだんだ……」
落ち込んでる私を見てか、シアは少し強い口調になった。
「いいか、よく聞くがいい。カナタの事は残念であるが、いつまでもカナタの幻影を追いかけて彷徨えるほど、世界は我々に暇を与えてはくれないのだ。カナタもそんな事は望んではいないだろう。然るに我々に出来る事は一つのみ。カナタに感謝しつつ前に進むのみなのだ」
「……難しい」
本当ならば「当然」って言ってやりたかったけど、私の口から出た言葉は違った。
この際だもん、私は一気に弱音を吐く事にした。シアならばきっと受け止めてくれるって、そう思えたから。
「手」
「ん? ……ん」
私はシアに催促して、手を繋いだ。それは、私がこれから吐く弱音は、本当の事だっていう印。
「……これはカナタにも言った事ないんだけど、私は今、自分の意思で勇者をやってるけど、でも心の一番深いところでは否定してるんだ。何で私なんだろう、別のもっと適した人がいたんじゃないか、私じゃ何も出来ないんじゃないか……。今回カナタを救えなかったのがあって、またその感情が出始めてるんだ」
「……ずっとそうは見えなかったし、モーリスでさえも何も言わなかったぞ?」
「だから、一番深いところに仕舞い込んでる感情。この否定の感情が、私の原点であり根底に根付く闇なんだ」
「なるほどな。私に言える事は少ないが、少なくとも私は、フューラやリサさん、ジリーにモーリス、そしてカナタは、そのような事など微塵も思ってはいない」
微塵も……か。
「もしもアイシャの考える勇者の終着点が英雄イリクスであるのならば、私はそれを否定はしないが肯定もしない。アイシャにはアイシャにしか出来ない勇者の姿というものがあるのだ。それは例えイリクスであろうとも真似る事など出来ない、勇者アイシャ・ロットという唯一無二の姿だ。アイシャが選ばれ、アイシャ以外に適任はおらず、そしてそれはアイシャにしか出来ない」
「私にしか……」
「それにな、カナタの奴がどういう性格をしており、このような場合に貴様にどう声をかけるのか、よく考えてみろ。あやつが貴様に責任を取れと言うとでも? 有り得ん。あやつならばきっとこう言うぞ」
私が顔を上げると、シアは軽く笑った。
「俺を踏ん付けないと先に進めないぞ?」
……確かにカナタらしい。でも、カナタ自身の言葉とはちょっと違う。でもそれがシアの優しさだって感じた
「さあ、大いに悩むがいい。それもまた、勇者アイシャの一つの姿だ」
やっぱり私のカンは当たった。シアに全部話して正解だった。シアは私の悩み苦しみ後悔を、丸ごと受け止めてくれた。
「……この事は忘れてよね」
「ならば私の告白も忘れてくれ」
「それは無理。じゃ、おやすみ」
あっさり言ってやった。そしてツッコミが入る前に、私は再びベッドに潜った。
あとは一人で考える。全部を抱え込む。それも私なりの勇者像の一つだから。
――翌朝。
「……ーい。おーい」
ん……んー……。
「あー動いた」
「んーうるさいー……」
……んえっ!?
「………………あっ」
思わず布団を吹き飛ばす勢いで起きた。そして、理解した。
「おはよう。あたしよりも寝坊するなんて珍しいね」
「……おはよう」
言えない。ジリーの声をカナタの声だと勘違いしたなんて。ぜんっぜん違う声なのに!
居間に下りたら、お客さんがいた。
「おはよう。朝早くから悪いね。王宮だと色々うるさいから、先にこっちで落ち着いて聞きたかったんだよ」
「……いいの? 王様なのに」
「ははは、いいのいいの。オレは王様以前にアイシャの幼馴染だから」
うん、お客さんの正体はトム。服装も普通ので来てた。そしてもう一人も。
「そっちは挨拶済んだ?」
「とっくにな。しかしカキアはトム王の従者であるのだから、私に平伏する事などないのだぞ?」
「いえ……何と言いますか……魔族の性?」
「うわー傷付いたぞー」
「あっ! い、いえそんな!」「ははは、冗談冗談」
シアは相変わらず。
昨日の事は……うん、私の胸の奥の奥に仕舞っておいてあげる。
みんなの目を見ると……リサさんが一番目が腫れてる。やっぱりずっと堪えてたんだ。
あの後私は、結構な時間起きていた。でも結局気付いたら意識がなくなっていて、やっぱり睡眠欲ってすごいんだなって思ってる。
シアの寝床だけど、今日からはカナタのベッドをそのまま使う事になった。ベッド以外、武器や服も。……さすがに下着は買いに行かないとだけど。
これはシアでなくて、モーリスが望んだ事。きっとほんの少しでもカナタを感じていたいんだと思う。
(……うん)
やっぱり。その気持ちは私も……私だけじゃない、みんなも同じ。だからカナタの記憶があるシアが一番相応しいって事になったらしい。シア自身は最初は抵抗してたみたいだけど。
らしい・みたい、っていうのは、その話は私がベッドに潜り込んだ後の話だから。
私は……カナタの形見をシアが着るっていうのは、ちょーっと複雑な気持ちだけど、でもそれもありかなって。だって、カナタならば絶対、さっさと先に進めって言うもん。
シアも知らない私たちの最後の旅の記憶。それをシアやトムに伝える役目は私が買って出た。だって、一応はリーダーでしょ?
「――最後にシアがカプレルチカのコアを体から奪い取って、終わり」
「その後の事は、アイシャが起きてくる前に、既に私が伝えておいた。これで今回の事は全て、でいいな?」
シアの締めに、私たちみんなが頷いた。
「なるほど、分かりました。……魔族領に特使を派遣すべきでしょうか? 魔王様の意見を伺いたいのですが」
「もう少し時間を見るべきかと。私が復活し、戦争など望んでいないという話が端々まで広まるまでは、今しばらく掛かるはず。……それと、私を魔王様と呼ぶのは止めにしてはいただけないだろうか? 今までどおりが一番なのだ」
「ははは。分かりました。それでは魔族領への特使派遣はもう少し時を見てからにします。よろしいですね? シアさん」
「ああ。問題ない」
……やっぱり夜の事バラそうかな……。
――話の途中。
「ごめんくださーい」
……この声、レイアだ!
「はぁーい!」
私が出ると、やっぱり黒ぶちまん丸メガネのレイアがいた。
「やっぱり! おかえりアイシャ!」
「あはは、わざわざ来てくれたんだ。ありがとう。ただいま。……まあ入って。もうお客さんが来ちゃってるんだけどね」
「え、先客? 誰? ……あっ! あーそれじゃあ後で」「どうぞー」「あ……しっ、失礼します!」
レイアとトムは、私とで繋がりはしてるけど、王と民の関係。だから緊張して当然なんだよね。
「レイア、紹介するね。こっちが私の幼馴染のトム」
「こんにちはー」
「こん……えっと……ごきげんうるわしゅう??」
「あはは、普通でいいですよ。大体もう何度か会ってるじゃないですか」
「謁見とここでは、その、何というか……ははは……」
いい感じにうろたえてるレイア。でも次はもっとすごい事になるよ?
「そしてこっちがかの有名な、魔王プロトシアその人」
「こんに」「えええええっ!!!」
ほら、凄い事になった。メガネずれてるよー。
「えー……あー……」
「まあまあ落ち着いて。私は無害な魔王であるからして、中身は鳥の時と何ら変わらないのだよ」
「あー……えー……」
「……ぶっはははは!」
その驚きぶりに、最初に吹き出して笑ったのはシアだった。おかげでレイアもどうにか戻ってきた。
「あ、えーっと、よ、よろしくでいいのかな?」
「ああ。今後ともよろしく。レイアさん」
あ、ずるい。さん付けだ。
余裕の出たレイアはやっぱり不思議そうに目で誰かを探してる。
「レイア、カナタの事なんだけど……駄目だった。生きては帰ってこられなかった」
「……えっ……」
「うん。もういないんだ。どこにも」
固まってる。カナタの奴、どこまでみんなに影響を与えれば気が済むのさ。
レイアは大きく、私の耳にも聞こえるほど大きく息を飲み込んだ。と思ったら、私に抱きついた。
「……アイシャ……壊れちゃ嫌だよ」
「うん。……だいじょう……ばない。けど、壊れないよ。安心してなんて気安く言えない状態だけど、今の私は、カナタとみんなのおかげで立っていられるから」
「……うん……うん……」
レイアが泣いちゃった。……あはは、私もまた泣いてる。……みんなまで泣いてるよ。あはは……。
――一息ついて落ち着いて。
落ち着いたらみんな無言になっちゃった。
「……んよし! それじゃあ少しずつでも動こう。カ……」
早速やっちゃった。みんなも苦い顔。
「んんっ。えーっと、フューラは色んな調査。カプレルチカとか自分の事とかね。リサさんは変わらず図書館で調べ物して、ジリーは」
「あたしはちょっと気になる事があるから……そうだ、レイアにちょっと付き合ってもらっていいかな?」
「うん。いいよ」
なんだろう? 私気になります。
「私もそっち付いていくー」
「あはは、いいよ。アイシャがいるほうがあたしも安心するからね」
「あとはシアとモーリスだけど……」
「私もアイシャに付いていくべきでは? いきなり魔王を野放しには出来ないであろう?」
「……トム?」
魔王を野放しにするのかはトムの判断に任せたんだけど、トムは黙認のお手上げポーズ。
「だって」
「……ならば私はフューラと行動をする事にしよう。あのスクーターも直さなければいけないし、私自身の体も検査してもらいたい」
「分かりました。それじゃあシアさんは僕が預かります」
残りはモーリスかぁ。
「……って、それでいいの?」
(うん)
「モーリスさんは私とまた勉強ですね」
(はぁーい)
モーリスは自分からシオンさんの手を取った。一番自分が何をすべきか分かってるのって、モーリスかもね。
シオンさん、昨日は遅いからって納戸で寝てもらっちゃったんだけど、普段はリサさんのベッドを使ってたんだって。悪い事したなぁ。
「それじゃあ今日を始めよう」
こうして私たちは、カナタのいない日常をスタートさせた――。
諸事情により一月一杯更新止まります




