第七十九話 もしも港で突然勇者対魔王のヒーローショーが始まったら
――隣の漁村。
マリさんを降ろすために寄り道。ここもミダルさんの領内だから友好的……なはず。
接岸してマリさんを降ろし出発しようかな、と思っていたら……はあ。
「お前大陸の仲間になったのか! この泥棒猫!」
「い、いやうちは……」「うるさい! 魔王様に成り代わり粛清してやる!」
どうやら偶然にもマリさんを知っていて、しかも大陸大嫌いな人がいたみたい。男性で四十代かな?
「……言ってくる」「え、ちょっ」「大丈夫だ」
口論する声を聞いたからか、船室に戻っていたシアが出てきて、私が止める間もなく船を降りた。
……任せるべきかな? でも何かあれば私も割って入るよ。だって勇者だし。
――シア視点。
先ほどの事は置いておき、まずはこちらだ。
しかし”魔王様に成り代わり”とは大きく出たものだ。ここに本物がいると知ったら、はてさてどのような表情を見せてくれるのであろうか? 楽しみだ。
「おいそこの。いきなり粛清とは大柄ではないか? その手を離したまえ」
近付くと、いつか見た行商の男性ではないか? ……いや、似ているだけ……か?
「ああん!? ……お前も大陸に魂を売った魔族か! 魔王様が嘆くぞ! 恥を知れ!」
「私がその魔王だが?」
「……んな訳あるか! お前みたいな女が魔王様であるはずがない!」
「本当に本物なのだが……」
しょんぼり。
性別が原因で疑われた事は過去に何度もあるので気にしないのだが、あの放送は聞いていなかったのだろうか? いや、あの放送自体を信じていないのだろう。
……しかし、これでよく分かった。やはり私は、魔王プロトシアは滅するべき存在だ。諸悪の根源である、怨恨や憎悪という負の感情の温床になってしまっているのだ。
だが、今は気落ちしている場合ではない。この場を収めなければ。
「……致し方ない。本当ならばこの力はもう使いたくはなかったのだがな」
丁度ギャラリーも集まっているので、一番納得させる方法を使う。
私は無言で左腕を突き出し、その手で奴を鷲掴みにするような動作を行った。
「あん? 何を……おっ!? おああああっ!?」
よくあるであろう? 強者が超能力で離れた相手を掴み持ち上げる場面。あれだ。
もちろん私には超能力など無いので、これは拘束魔法と重力魔法の組み合わせだ。拘束魔法で身動きを封じ掴まれたように見せかけ、重力魔法で重力を反転させ浮かせつつ、それに合わせて腕を動かしただけなのだ。
「な、なんだ!?」「浮いてる!?」「まさか本物!?」「ビックリやん!?」
周囲の反応も上々。私も少々乗ってきた。
「まあよくも私の名を勝手に使い、あろう事か私の知人に、しかも私の意に背く行いをしてくれたものだ。貴様の言うには、魔王に背く者は粛清されてしかるべきなのだろう? ならば今は貴様がその対象という事だな」
「おっ、おた……おた……」
「そうかそうか、死にたいらしいな」
「んひええええっ!!」
注釈。もちろんこれは分かった上での演技だぞ。
という事で、周囲の目もあるのでもう少しお灸を据えるか。掴んだ形の手を徐々に握っていく。
「んたああああっ! へゃああああっ!」
声にならない叫びとはこの事かな。素っ頓狂な声だったので笑いそうになってしまったのだが、ここは魔王として堪えなければ。
ああちなみにこれはただ手を握っているだけで、実際には奴には何の力も加えていない事を付け足しておこう。極度の恐怖心から来る錯覚だ。
「そこまでっ!」
ん? と思ったらアイシャが私と奴との間に、妙に格好よく割り込んできた。しっかりと剣まで構えて、臨戦体制か。
さてアイシャが出てきてしまってはこの手を離すしかあるまい。怪我をしない程度に奴を落とした。
ほう? アイシャがウインクをしてきたぞ?
……あ、なーるほど! 武闘演劇のノリなのだな! 私が演技をしているという事が分かっており、アイシャ自身も演技をしているのだ!
ふっふっふっ、なれば私の役は悪逆の魔王しかあるまい!
「大陸の勇者が何用か! 貴様に受けた恩は忘れなどしないが、魔族領においてのいざこざは私の領分である!」
「なぁーに言ってんの! 例え相手が魔族だろうと、勇者である私の見ている前で命を奪おうなんて、絶対にさせない!」
おー! アイシャの奴、中々に決まった台詞を吐いてくれるではないか!
「お、俺たちはどっちを応援すれば?」「えっと……どっち?」「魔族だから魔王様なんだろうけど、でも応援したいのは勇者様?」「だな。んじゃ……えーでも俺らも粛清されるんじゃ?」「いや、ちょっとそれ嫌だな」
全くこの観衆どもは。仕方がない。
「私ならばみんな守ってあげるよ! だって、それが勇者だから!」
おっと、私が手を打つ前にアイシャが決めおった。
どうやら今の一言が決定打となったようで、観衆からはちらほらとアイシャを推す声が上がり始めた。ふっふっふっ、こうでなくては盛り上がらないのだよ。
――アイシャ視点。
あはは、結構面白いかも。シアもしっかり分かってるし、安心して演技出来る。
……けど、魔族の英雄って魔王なんじゃないの?
「まいっか。赤き炎よ宿れ!」
「おおおーー!」
くぅーっ、いい反応してくれるぅっ!
「くっ、勇者しか使えぬその魔法を今使おうとは……」
そういう訳でもないはずなんだけど、そのほうが面白そう。それに私が本物だっていう説得力も出るよね。
「さあ、観念しなさい!」
「……くっくっくっ、私は魔王プロトシア! 貴様などに後れは取らぬ!」
っと、素手で突っ込んできた! シアって意外と武闘派なのかな?
私はとりあえず避ける事に専念。……というか、シアは私がどう避けるのか考えて攻撃してる。その証拠にギリギリで当たらない距離で拳や蹴りが飛んでくる。中々やるじゃん。
「魔王だけにいい格好はさせないよ!」
次はこっち。……本気で当てに行ってやる!
まずは一気に加速、懐に飛び込んで下から上に跳ね上げる! と思ったらギリギリで避けられた!
「あぶなっ!?」
「ちっ、さすが魔王、あれを避けるとはね。でも次はマジで外さないよ!」
「……ま、マジか……」
あはは、冷や汗かいてるよあの魔王。
さぁーて、最初は強く当たったから、後は流れで行けばいいかな。
私だってレベル70超えてるんだから、シアの動きを読んでギリギリで当てないっていう芸当は出来るし、シアはシアで私の動きは分かってるはず。信頼関係って言うと恥ずかしいけど、でもちゃんとお互い分かってやってる。
だからここで私が全身を使った捻り水平切りをしても?
「はっ!」
とシアはバック転で回避してくれる。
「魔王様これを!」
っと、これは予想外。場外から剣の差し入れ。やっぱり魔族領では分が悪いのかなぁ。
「勇者さんがんばれー!」
……えへへ、嬉しい。
「これで私も貴様と同じ!」
「なぁーに言っちゃってんだか。私は勇者。剣のプロだよ」
「ならば試すまで! 行くぞ!」
――一方その事。船上。ジリー視点。
はあ……。なーんか楽しそうにやってるねぇ。
「船長、呆れてる?」
ミアが一緒に覗きに来た。
「んー、うん。でも安心してる。あたしや異世界組はさ、シアが復活したって言っても「へーそうなんだー」で済ませちまえるけど、アイシャはそうは行かないだろ? だから、いつか本気で殺し合いになるんじゃないかって不安だったんだよ。でも……ぷっ、あれを見ちゃうとなぁ」
二人とも分かってやってるのが丸分かり。まー付き合いの長いあたしが、目線の高い船上から見てるから余計なんだろうけど。
「……船長、ウチらの本音、聞かせたげる」
「本音? ……あー、聞かなくても分かった」
「うん。ウチが最初に魔王に会ってって言われた時、正直船長の事蹴り飛ばそうかと思っちゃったんだからね?」
「ははは。そりゃー悪かった」
口調は冗談めかしてるけど、でも本気でそういう覚悟をさせちまったんだね。
「……こうやって見てる今でも、あれが魔王だなんて、魔王があんな性格だなんて、全部騙されてるんじゃないかって、疑ってる部分あるから」
魔族にとっては神にも等しいなんて言われてて、実際そういう場面を何度も見たけど、それは大陸の人間にとっても同じなんだね。
「んま、でも本気を出したらアイシャちゃんが勝つだろうねー。さーて、長旅の準備準備ー。うおーららーうみーよー」
鼻歌を歌いながらミアはいなくなった。
「……」
「ぬわっ!? って次はフューラかい。驚かすなよー」
「はあ……」
いきなり溜め息かい。そして沈黙。んーこれはあれだね、話を聞いてほしいんだけど、いざ自分から切り出すのは恥ずかしいんだね。
「どういたしましたかー?」
「……ふふっ、気を遣わせてすみません。いやぁ……怒られちゃったなーって。正直なところ、僕が一番悲惨な過去を持つと自負しているんですけど、でも僕はこれからでもその過去を取り戻せるんだなって。カナタさんの事に、妹の事や世界の繋がり、そして僕の真実。いっぺんに来てしまい、僕も精神的に参っていたようです。後で謝らないと、とは思うんですが……」
「きっかけがほしいって?」
恥ずかしそうに頷いた。
「んー……まー一応考えておくけど、期待すんなよ」
「すみません」
――そして港。シア視点。
そろそろお開きにしたいのだが、アイシャの奴が妙にノリノリで終わらせてくれぬのだ。さあてどうしたものか。
「ゆーしゃさんがんばれー」
……この手があったか!
私は今声を上げた少女のところへ。そしてその少女を盾にした。もちろん手荒な真似をするつもりは無いので、少女の手を軽く引き後ろへと回り込み、肩に両手を置いた程度だ。
「まおーさま?」
少女はいまいちよく分かっていない様子。せめて泣かれないようにしなければ。
「あっ! ちょっとそれずるくない!?」
「なぁーに、私は魔王であるからな! ね? お嬢ちゃん」
「うん」
とは言うものの、周囲からもズルいだのセコいだのという声がちらほら。おい、仮にも私は貴様らの王なのだぞ?
「うおおおるああっ!」「んえっ!? ちょ、ちょっ!?」
アイシャの奴、関係なしに突っ込んで来おった! とんでもない勇者だ!
と、とりあえず防御っ!
「おい! 少女がまだいるのだぞ! お嬢ちゃん下がっていなさい!」
「当てない事くらい朝飯前だっつーの! んるぁっ!」
重っ! ああ、これがアイシャの使う己の重力を自在に操る能力か! 相手にすると何と厄介な!
「もう一発!」
危なっ! と剣で防御をしたら、こちらの剣が折れてしまった! 折れ飛んだ破片の先には例の少女!
まずい! と思わず覆い庇ったのだが、するとその破片は確実に私の背中に突き刺さる事になる。避けるのは無理か……。
「……あれ?」
と思ったら破片は逆方向の海へ。破片を見事弾き飛ばしたアイシャは、切り返しその剣先を私の首筋へ。少女を庇っている体勢でこの剣の位置。さすがにこれでは逃げる事など不可能だ。
「……ま、まいった……」
「んぬおおおお!」「勇者かっこいいぞー!」「魔王様優しい!」「ワイも興奮したで!」
策士策に溺れる、か。それもあるが、やはりアイシャ自身の実力であろうな。
「お嬢ちゃん、怪我はないかな?」
「うん。まおーさまありがとー。ゆーしゃさんかっこよかったー」
トテトテと少女は可愛く駆けて人込みの中へ。……泣かれなくてよかったぁ。
「えー……さっきの奴は?」
「え?」「あれ?」「どこいった?」
見回してみても姿が見えない。
「……いた! 逃げた!」「捕らえろ!」
改めて先ほどの奴に軽く説教をしようとしたのだが、まさかの逃げようとしていた。しかし私は魔王であるからして、命令一つでこの名も知らぬ漁村の民、全員が動くのだ。
ほどなく先ほどの奴は捕まり、私の前へと引きずられてきた。
「よもや私の前から逃げ果せようとするとは、まだ折檻が足りないようだな?」
「こここれはああああえええあのおおお……」
完全に震えている。これ以上はこやつの尊厳に関わる事態へと発展しかねない。粗相をされる前に事態を収拾するべきであるな。
「もう勝手に私の名を使わないと約束するのであれば、解放してやろう」
「はいっ! も、もうしわけごごごございませんでしたああっ!」
こやつ完全に頭を地面にこすり付けている。まあ、そもそもアイシャが割って入らなければ謝ったところで解放してやったので、これにてお開きだ。
「さて、これで貴様も皆も、私が本物であるという事を信じてもらえたかと思う」
「ははぁっ!」「私も信じました!」「オレっち最初から信じてた!」「あ、ずりーぞ!」
「はっはっはっ、まあ落ち着け。私を信じてもらえたのならば、この勇者も本物であり、そして今回の事で私と勇者ともが友好な関係にある事も分かったであろう?」
「はぁーい!」
ふふっ、一々可愛い連中だ。
「なればこそ、皆を巻き込むまいと力を加減していた事は認めるが、しかしそれでも確かに私は勇者に敗北したのだ。これは純然たる事実であるからして、皆もそのようにしっかりと受け止めていただきたい」
……さすがに自身が神のように崇める魔王が、目の前で敗北したという事実はそう容易くは飲み込めないようで、ざわざわと困惑した様子が見受けられる。
するとアイシャが一歩前へと出た。
「今魔王とやりあったのは半分演技です。けれども私の言った事は本当です。本気です。私は勇者として、人類も魔族も関係なく正しく暮らせるようにしたいんです。……小人族である私だからこそ、それが出来るんだと思っています。大陸を信じられない・憎しみがある・仕返しをしたい。そういう部分は私もちょっとは分かります。だって小人族だから」
”だって小人族だから”。……私が何を言うよりも説得力のある一言だ。フューラも以前は”僕は機械なので”が口癖であったが、意味を知れば、そのどちらもが酷く重い言葉である事がよく分かる。
「……正直、そうそう簡単に切り替えろだなんて不可能だよ」
少しうつむいて放たれたその言葉は、私も、そしてフューラたちも同じはずである。
皆前へと進もうとしているが、しかしカナタがいなくなったというこの事実だけは、もう何をどう足掻いたとしても……。
「だからね、皆さんはまず、この魔王を信じてください。そして魔王の友達である私を信じて、そして私の仲間を信じてください。……失敗はするかもしれない。けど、でも、間違いはおかさない。約束します」
皆神妙に聞き入っていた。そして最初に手を叩いたのは、まさかの先ほどの少女だった。
「やくそくねー。だから、まおーさまもゆーしゃさんも、がんばってー!」
……この約束だけは違えてなるものか!
――それから。
一息つき解散させた。……の、だが……。
「魔王様! この魚持ってって!」「ウチの塩辛酒に合うんだ! 是非!」「スルメあるから焼いて食ってください!」
「分かった分かった! だから一旦落ち着け!」
可愛さが度を越えると邪魔になってくるのだな。なんて口が裂けても言えないのだが。
お土産を色々ともらい、全て私が仕舞い込んだ。しかしその度に驚きの声を発するのはどうかと思うぞ、村民よ。
あとは挨拶をして船に戻るだけだが、その前に一つ手を打っておかなければ。
「アイシャ、ちょっと」
「ん? 何?」
しかしいざ頼むとなると、少々羞恥心が出てくるな。どう言おうかと頬を掻いていると、アイシャから切り出してくれた。
「フューラの事?」
「ああ。私も結構精神的に参っていたようでな、正直あそこまで強く言うつもりではなかったのだ。なので後で謝らなければと思ってはいるのだが……その……」
「きっかけがほしいって事?」
頷く。
「……分かった。一応考えておくけど、期待しないでね」
「感謝する」
さて、魔族領での最後の一仕事をするか。
「皆の衆、お騒がせして申し訳ない。それでは我々は大陸へと向かう。それでだな」「分かってまーす!」「あはははは!」
「……ほほう。では答えを聞こうか!」
人の話を遮ってまで分かっていると断言したその答え、楽しみで仕方がない!
「六千年前の憎しみじゃなくて、今で考えろって事ですよね? 魔王様、告知でも言ってたじゃないですか。時代が変わったんだって」
「そうそう。ここにいる魔王様が本物だってのは本当に信じました。だからあの告知放送も信じます。んで、勇者さんの事も信じます」
「俺たちは……なあ? 見てのとおりの田舎者だから、世界に影響なんてこれっぽっちも与えらんねーけど、んでも魔王様や勇者さんを応援してっから!」
「んじゃー皆さんご唱和くださーい。魔王様ばんざーい!」「ばんざーい!」「勇者さんばんざーい!」「ばんざーい!」
これには私もアイシャも笑いが止まらなかった。
「あっはっはっはっ! いやーありがたい。それでは我々は行くが、皆元気でな!」
「はい!」「魔王様も!」「勇者さんもねー!」「元気ならば任せてやー!」
こうして私とアイシャは仲良く手を振り、セプテンブリオスへ。
――乗船。アイシャ視点。
私たちが乗船すると、ミアさんの操舵で船はすぐに出航。村の人たちに手を振って、ある程度沖に出たら一気に転送で移動予定。
……なんだけど、転送前に一つ。
舳先でジリーとフューラが待ってた。後ろの船室からリサさんとモーリスも来たけど、こっちには近付かない。理由は分かるよね。
シアとフューラ、二人して同じような顔して目線が泳いでる。っていう事は、二人とも考える事は同じ。
「ア、アイシャ……」
……んにひひっ!
私は思いっきりシアの背中をどついた。するとジリーも全く同じタイミングでフューラの背中を押して、転びそうになりながらも二人は正対。
お互い恥ずかしそうに顔を掻いちゃって、可愛いんだから。
……なっがあぁーい沈黙。
「あのっ」「あのっ」
全く同じタイミングで切り出そうとして、かぶっちゃってまた沈黙。とっとと進めろよ! って思う反面、二人のまごつき様が面白くて面白くて、笑っちゃいけない場面だから余計に笑いそうで、堪えるのに必死だったりします。
「……ごめんなさい」
先に謝ったのはフューラだ!
「僕自身、自分の事が分からなくて、整理がつかなくて、色々……。いつもだったら分かるはずのシアさんの心情も読み取れないくらいだったのがあって……でも、確かにシアさんの言う事は間違いではないですし……」
フューラがここまで言葉に詰まるのって、初めて見たかも。
フューラは改めてシアの顔をまっすぐ見て、そして頭を下げた。
「シアさんにあのような言葉を使わせてしまい、申し訳ありません」
次はシアだね。
「……いや。私も色々と重なってしまい、精神的に追い詰められていた部分がある。私も世界を壊した身として、フューラの気持ちは痛いほど分かっていたはずなのだ。なのにあのような感情的な言葉をぶつけてしまった。それは私が至らない何よりもの証拠。なので……」
シアもしっかりと姿勢を正して、フューラに頭を下げた。
「感情的な言葉をぶつけてしまい、申し訳なかった」
まー、こうなるよねー。
二人がお互い謝罪したところでリサさんとモーリスも来た。相変わらずリサさんは青い顔してるけど、モーリスは平気だったみたい。
「さってとー、お互い謝ったし、そろそろ私たちはグラティアに帰ろうか」
みんな頷いて、最初にジリーが話を切り出した。
「そうだね。あーそうそう。セプテンブリオスはこのままミアに譲る事にした。あたしが船長でいられるのも今日この時までって事さ」
「うん、分かった。ミアさん! この船の事、よろしくね!」
「まっかせなさーい!」
あはは、ジリーよりも頼れる。
「……それで、誰がどこに転送させるのだ?」
「あんたが、ここに転送させんの」
私はポストキーをシアに渡した。転送先は……。
「グラティア王宮、謁見の間!? い、いきなり王の眼前に飛び込めと!? ……私、捕まらないだろうな? 牢に入る前に、せめて一度は家に帰りたいぞ?」
「あはは、大丈夫。この時間だと……時差を考えると、謁見も終わりかな。だからいきなりって事はないよ。なんだったら私が守ってやるけど?」
「……分かった。その時は頼むぞ」
「はいはい」「本当に頼むぞ!」「分かったって!」
本当にこの魔王は……。
「それでは皆、行くぞ。船員の方々も、ここまでありがとう。我々は先に帰るが、航海の無事を祈っている!」
こういうところはさすがは魔王。船員たちもにこやか笑顔で手を振ってくれてる。
こうして私たちの第三次魔族領遠征は終わった。
最大の功績と、元凶の復活と、最悪の喪失。
それが私の決断がもたらした結果だった――。
現在私生活に時間を取られておりまして、中々執筆速度が上がらない状況が続いています。
主に雪かきのせいで。
という事で、当分は週一ペースの投稿とお考え下さいませませ。




