第四十話 モフ×モフ
――引越し翌日。
……んー。……モフモフー……んー……ん? モフモフ??
夢の中で、何やらふんわりした物体に顔を撫でられていた。そして目を開けると――。
「モフ……ってリサさんのしっぽ! 何やってんすか!? ってか今何時? ……四時はまだ早いでしょーに」
リサさんが人の顔にしっぽを乗っけてふりふりしていたのだ。なんというか、人を目覚めさせる方法がそんなのでいいのか? 王女様。
「申し訳ありません。あの……フューラさんの事が心配で。本当に死んだように寝ていらっしゃるので、このまま起きてこないのではと……」
「そりゃ相手は機械だし、二百数十年ぶりなら人でも死んだように眠るでしょ。分かったら大人しく寝てください」
「……はい」
全くモフモフ、なんでリサさんはいつもモフモフなんだかモフモフ。
――朝六時。
……んー。モフ……ん?
「……またですか」
「ええ。その……不安で。時間的にはそろそろ起きる頃なのですが……」
「リサさんもしかして、寝てない?」
「うっ……」
全くモフモフ以下略。
「はあ……分かりました。様子見に行きますよ」
後でしっぽモフりの刑に処してやる。
さて部屋に入りフューラの寝顔を拝見。白衣を脱いだそのままの状態で寝ていた。……寝間着を買ってやるか。
すると枕の近くのライトが短く点灯。それを合図にゆっくりフューラが体を起し、そして腕を上げて伸び。
「んんー! ……って!!」
フューラの奴、いままでで一番驚いた表情をしたぞ。
「ね?」「ええ」
「なんですか? 二人とも」
不機嫌そうなフューラ。なんというか、一晩寝ただけで人間味が増した気がする。
「よかった。フューラさんたら、本当に死んだように眠っていましたので、内心もう起きないんじゃないかと心配してしまっていたのですよ。それで、カナタさんに見てもらおうと」
「……なるほど。僕はてっきり公開で襲われるのかと」
「誰が襲うか!」
「あはは」
なんて言っていると後ろからもう一人眠い目をこすりながら起きてきた。
「んーなにー? ってカナタ何フューラ襲おうとしてんのさー」
「だから誰も襲わねーっての!」
そして後ろからジリーも。寝ぼけてよく分かっていない様子で、大あくびをしてまた部屋に戻った。あいつ朝に弱いのかも。目覚まし代わりにラジオ体操させるか。
「と、いう事でリサさんにはお仕置きです」
「へっ!? あ、あの、なにをおおおっ!?」
早速しっぽモフモフ。あーモフモフ。
「ひゃ……や、やめ……あ……そ、そこは……」
「じゃー私もー」「では僕も」
三人で念入りにモフモフ。リサさんはすっかりお腹を見せる子犬状態。
「あ……やめ、ほんとそこ……そこはだっ……だめですっ……あー……」
紅葉色の頬で必死に耐えるリサさん。その押し止める声がまた俺たちを悪戯な気分へと――。
「はいここまでー。カナタもフューラも、それ以上は女の子として私が許しません」
「ちっ、あと少しだったのに」「残念ですね」
「はうう……」
勇者様の静止が入っては仕方あるまいて。……誤字はしないぞ?
――朝飯。
昨晩はジリーが作ったから、朝は俺が作る。といってもパンにハムとスクランブルエッグを乗せて、後は簡単なサラダボウルだけ。こっちに来てからはほぼこれで固定になっている。
「私イチゴジャムがいいー」「僕はこれで三日動けますよ」「食前酒はもちろんありませんよね」「ふあぁーーあ」(うまし!)(うん)
もう全員バラバラ。
「今日は泣かないの?」
「よし、お前の晩飯だけ泣くほどの激辛にしてやろう」
「あはは、冗談冗談」
こいつは本当に何も変わらんな。
「そうだ聞きたい事があったんだ。捕まってた時にうどん食べたいって言ったら洗脳が成功してると思われたんだが、魔族ってうどん好きなのか?」
「……うどんって何?」
うわーマジか。と思ったが考えればここは異世界だものな。
「いやな、そんな事よりおうどん食べたいって言ったらそう思われたのよ。だからこの世界にもうどんがあるのかと」
「……オードンじゃないの?」
なるほど、どうやら別の食べ物と勘違いされたんだな。シアとモーリスも頷いたから、やっぱり違うように聞こえたか。
「んーっと、太い麺に鶏肉とかネギとか入れて、あっさりした出汁で煮て食べるんだけど。魔族領から伝わった食べ物だよ」
「うん、それ十中八九うどんだわ。玉子乗せたりお揚げ入れたり高野豆腐入れたり」
「オアゲ? コーヤドーフ?」
あ、そこいら辺はさすがに違うのね。んー自家製で豆腐作る訳にもいかないし、この話は終わりにするか。
「俺のいた国の食べ物だよ。手間が掛かるから再現は出来ないぞ」
「そっか。食べてみたかったなー」
食い意地だけは一流だな。ともかくこれで偶然にも名前も製法もそっくりだったから勘違いされたという事が分かった。
……しかし何でそれがあそこの場面で出たんだろうな? 我ながら分からん。
――予定決め。
「じゃあ今日の予定を決めるよ」
アイシャが決める様子。俺は見守る側。
「まずジリーはお仕事探し頑張って。シアとモーリスは王宮でカキア大臣に文字を教わってね。フューラは工房でやる事やって、私とカナタとリサさんは、味方を探しに行くよ」
「味方ですか?」
とリサさんからの質問。
「うん。今まで出会った人の中で、私たちの味方になってくれる人を探すんだ。ペロ村のプリムちゃんだっけ? あの人だったり、食堂の船長さんだったり。戦闘要員でなくても、例えば情報収集してもらうとか、私たちのいい噂を広めてもらうとか、そういう草の根の活動をお願いする。今私たちに足りない力って、そういうのだと思うんだ」
すごく真面目で、すごく納得出来てしまった。こいつの第三勢力になるという覚悟は本物なんだな。そして俺たち六人と一羽だけでは行き詰る事も分かっている。
一足先に赤い帽子をかぶったジリーと、シア・モーリス組が出発。ジリーが二人を王宮まで送ってから、王宮の正面前にある斡旋所へという算段。家の鍵はフューラに任せて、俺たちも出発。
「まずはどこに行く?」
「カナタが決めるんじゃないの?」
「お前がリーダーだろうが」
「あはは、そうだった」
大丈夫かおい。
「それじゃあまずはペロ村に行こう」
――ペロ村。
さてさてこれまた久しぶりのペロ村。来た事があるのはフューラまでだから、リサさんは初めてだ。
「まずはレオ村長を探そう」
「鼻がいいからもう気付いているかもな」
なんて言っていると、猛ダッシュでこちらに来る犬が一匹。シェパードっぽいからプリムちゃんかな。
「カぁーナぁータぁーさぁーん!」
やっぱり。勢いそのままに人に飛びついてきて、押し倒されてしまった。ははは、こりゃ参ったな。
「あはは、元気だねー」「大変なんです!」
おっと。どうやら緊急事態のようだ。
「まずは降りてくれないかな? んで落ち着いて深呼吸」
「あ、ご、ごめんなさい」
つまり喜びで飛びついてきたのではなく、何かがあって焦っていた訳だな。ちょっと残念。そういえばしっぽが振られていなかったような。っていうか以前はお兄ちゃんって呼んでくれたような……?
「えと、わたし今シエレに住んでいるんだけど、一週間ぶりに帰ってきたら誰もいないの! 食べかけのパンがテーブルにあったりして、でも時間が経ってるからカビてたりで、絶対になんかおかしい!」
「人さらいか?」
「違うよ」
話を聞きすぐさま真剣な表情になったアイシャが、俺の予想をあっさり否定。
「人さらいならば抵抗した痕跡があるはず。でもそれがない」
「……自ら消えた、か」
「そういう事」
俺の頭に最初に浮かんだのは山賊のねじろ。
「なあ」「同じ事考えた」
言う前にか。
「私とカナタは山賊のねじろ、リサさんとプリムちゃんは村の調査」
「分かった」「はい」「うん」
早速出発。
道中俺はアイシャをチラチラ見ている。
「……なに?」
「いや」
山登り中もチラチラ。
「……なにさ!」
「いや……見ない間に成長したなと思って」
「誰のせいだと思ってんのさ」
「ははは、ごめ」「私のせい!」
ん?
「全部私のせいだもん。だから変わらなきゃって」
「なるほどな。そのわりには朝からふざけた発言していたな」
「あれはただの冗談。気を張る場面であんな事は言わないよ」
「……魔族領でのあれは?」
「ごめん」
つまり思わず気を抜いたという事か。
――元山賊のねじろ。
気配はない。
「外れか?」
「一応中まで確認しよう」
率先して俺の前を歩くアイシャ。
「……あ、誰かいる。あんた!」
「にょわぁっ!? っと、誰だ?」
ねじろの牢に男……おっと失礼。女性が一人。……女性だよなこの人?
「私はアイシャ。村に用事で来たら誰もいないから、もしかしてと思ってこっちに寄ったんだ。あんたは?」
「行商人です。まずは出してくれませんか?」
危険性はなさそうなので救出。相変わらずただ棒を引っこ抜くだけの簡素な牢屋だ事。この人もさっさと逃げられたのにな。
「ありがとう」
「色々話を聞きたいところだけど、まずは村まで来てもらうよ」
――再びペロ村。
行商人はふらつきながらも、俺が肩を貸して村へ。到着するとすぐさまプリムちゃんが飛んできた。
「あっ! 行商の人だ! 大丈夫ですか?」
「なんとか」
「……ん? リサさんは?」
「森を捜索中です。すぐ来ると思いますよ」
しまった! リサさんは迷子属性だった!
「そうしたら俺探してくるよ。アイシャは二人から話を聞いておいて」
「うん、頼んだ」
森の中へ。一応道があるので、その通りに進むか。
「リサさーん! 出ておいでー!」
と言っても反応なし。ここはあれか。北の大地を題材にしたドラマの真似でもするか。
「るーるるるー」
「カナタさーん! ここでーす!」
おっとまさかの効果あり。ちなみに野生のキツネはこんな事をしても寄ってこないし、病原菌を持っているのでおさわり厳禁である。
なんて言ってる間にリサさん発見。
「え!? 何で縛られてんの?」
「プリムさんです。あれは偽者です!」
「偽者ってどういう事? っと、解けた」
「空から行きますよ。掴まってください!」
大焦りのリサさん。ただ事ではないな。
リサさんの豊満なおっぱいに手をかける訳にもいかないし、近付けばしっぽが……という事で結構無理な体勢でほうきに跨っております。
「んで、どういう事?」
「恐らく、魔族が直接わたくしたちを手にかけようとしたのです。村全体に幻影の魔法がかけられていまして、わたくしたちはそれに騙されていたのですよ」
「……アイシャがまずいな」
「ええ」
上空から見ると、村の中では気付かなかったがうっすら霧がかかっている。これが幻影の魔法か。
「……いた! ってどう見ても剣を構えているな。リサさん!」
「分かっています。掴まっててくださいっ!」
急降下し、アイシャの元へ。あ、そうだ。
「低空飛行で俺が掴まえるから、そしたら上昇!」
「はい!」
燃えさかる城から女の子を救出するが如く、股に全力を入れ、半身乗り出して手を伸ばす。
「アイシャ! 掴まれ!」
気付いていない? いやもう細かい事は構ってられん! 俺は強引にアイシャの腰に手を回し、一瞬で掻っ攫う。
「なっ!? って、カナタにリサさん!? あれ、今のは??」
「幻だよ。いいから掴まれ!」
アイシャは片手で余裕でぶら下がった。やっぱり少し違うんだな。
「よし……一旦あそこに」
俺が指差したのは、またもや元山賊のねじろ。
――元山賊のねじろ。
「まずはアイシャに何があったか説明してもらおうか?」
「うん。――カナタが森に入って、行商人から話を聞いていたんだ。そしたら後ろから声がするから振り返ったらリサさんが来て、いきなり魔法ぶっ放して。それ避けたと思ったらカナタが剣持って向かってきた。プリムちゃんと行商人はいつの間にか行方不明」
「となると……アイシャが行商人に気を取られてる間に、偽プリムがリサさんに変身、そっちに気を取られてる間に行商人が俺に化けたんだろうな」
「ええ、間違いないでしょう」
アイシャも理解した様子。
「そういう事か。リサさん、あの幻を消せる?」
「……ふふふ、わたくしを甘く見ていただいては困りますね」
おー、どうやらリサさんも本気を出す様子。
「魔法は全てお任せを。お二人は相手を見定めて、出来れば捕縛を」
「オーケー任せて」「やってやろうじゃねーの」
アイシャはリサさんと共に上空から。俺は地上から。
山道を下りながら村を見ていると、一瞬で霧が晴れた。これは霧の中に入ったのか、霧が止んだのか、どっちだ?
……いいや、とにかく進む。いざとなったら偽の質問ぶち込めばいいし。
――三度ペロ村。
一応は警戒のために銃を準備。ただし安全装置はかけたままにしておく。
村の入り口で様子を探る。と、上空からアイシャが飛び降りてきた。そして見事にあっさりと着地。あれか、重力制御か。だからさっきもあっさりぶら下がったんだな。
「リサさんが霧を消してくれた。あの二人を探してとっ捕まえるよ」
「了解。俺は左、アイシャは右。……真偽に迷ったら種無しって呼べ」
「あはは、じゃあ私はエシャロットってね」
化けている連中には分からない呼び方で呼ぶ。いわゆるコードネームだな。
いきなり攻撃されるのは避けたいので、建物の陰に隠れながら少しずつ前進。
……ちらっと何かが動いた。あれだな。
更に近付くと、ターゲット発見。ピンク色の髪をしたイケメン男性、俺だ。……ツッコミどころだぞ?
さて偽者だが、まさか本物に見つかるとは思っていない様子。安全装置を外し、慎重に狙いを定める。当てるのは足だ。
一発発射。しかし当たらず。代わりにこちらに気付かれてしまった。何でこういういいところで外すんだかなー俺は。仕方がない、ここは正面から行ってやりますか。
「よう偽者」
「そっちこそ偽者」
「あはは! 偽者に偽者って言われたよ」
さてどちらが俺の発言でしょうか? というアホな事は置いておく。結論から言えばあちらは剣、こちらは銃。本物のアイシャやリサさんならば一発で見抜けるはず。といったそばからアイシャ登場。
「ええっ!? ちょ、カナタが二人って……どっちが本物?」
ん? ……マジか、正直がっかりだよ。
「俺が本物。見りゃー分かるだろ」
「それよりもそっちは?」
「え? あー……うん。リサさんは倒したよ」
このアイシャ、100%完全に間違いなく偽者だ。つまり偽者二人ともが俺のところに来た。または偽者は三人以上いたか。
判断した理由は簡単。背が高いから。きっと変えられるのは見た目だけで、背丈までは変えられないんだろうな。これが俺のがっかりの理由だ。なんというオチ。
……ならば少しからかってやるか。
「あっはっはっ、バレたならしゃーねーな! 俺が偽者だよ。いよーし本物のこいつを殺すぞ!」
「……きっひっひっ、しゃーないねー」
何だあっさり引っかかるな。ドッボの時といい、魔族はもしかして頭がユルい?
「お、おい! 俺は違うぞ!」
そう言い、変身を解いた偽の俺。うん、魔族でした。
「……へっ!?」
驚いている偽アイシャのこめかみには、既に銃口が向いております。
「武器を捨てろ。動くなよ。お前も、そっちの魔族もな。お前は手を上げろ」
人質兼捕虜にするために武器を捨てさせ、偽アイシャには手を上げさせた。
「あんた、どこで見破った?」
「最初から。アイシャは小人族だぞ? お前身長百六十くらいあんだろ。どう考えたら騙せると思うんだ? 逆に不思議だよ」
「あーあはは……そりゃすぐバレるね」
ご納得していただけた様子。
「カ……種無し!」
「うるせーエシャロット!」
「エシャロット言うな!」
うん、こいつは本物だな。
「いいからこの二人縛れ」
妙に手際よく縛り上げ、これで二人確保。ついでに背中合わせにして更にぐるぐる巻き。それではレッツ脅しタイム!
「さてさてここからお楽しみ、拷問のお時間です。まずは足の爪を一枚ずつ剥ぎます。次に手の爪。そして足の指を一本ずつ折る。手の骨と来て、肋骨も――」
「いや! あの、えっと……」
俺に化けていた側が、やる前に吐きそうになっている。と、上空に待機していたリサさんが降りてきた。
「まだ一人います」
「リサさんに化けていた奴だね。どこに行ったの?」
「森の中に入って行ったようです。きっと本物のわたくしを殺害するのが目的」
にゃーるほど。全員殺害が失敗に終わったから、一人だけでも減らすつもりだったか。まあそれすらも失敗だが。
「リサさん、ずっとほうき手放さないように」
「カミエータです。これは真似出来ないという事ですね? 承知しました」
理解が早くて助かる。
「……しかしここはわたくしに行かせてください。相手が魔法を使ったのならば、魔法使いであるわたくしがぶつかるべきです」
「だからと言って一人で行かせたら後が大変になるから……そこの二人を家に閉じ込めておくか」
という事で捕虜二名を適当な家に押し込め、ついでに柱にくくりつけておいた。
「俺たちはお前らを殺す気はない。あくまで人権を持って対処させてもらう。だがな、痛くしないとは言っていないからな」
「……どっちにしろ出られねーだろ」
「はあ、手は上げられないけどお手上げだわー」
諦めてくれた様子。これで三人で当たれる。
――森の中。
クマさんでも出てきそうだな。んで貝殻のイヤリング落としたよーって。
「いました」
「クマさんが?」
「違います」
うん、俺の目からも確認。……あれは間違いなく偽者だ。なんたってモフモフ具合が違う。朝にじっくり確認しておいてよかった。
「あれは偽者だね。リサさんのしっぽのほうがフカフカだもん」
「同じ事考えやがって。さてリサさん、どうしますか?」
「と言ってるそばから気付かれましたね。来ますよ!」
さー三対一だぞ。どうするのかな?
「……ちっ!」
と舌打ちしてあっさり転移。
「逃げられたな」
「仕方がない、村の二人に聞こう」
――四度目のペロ村。
「……マジか」
「やられましたね」
「許せない」
俺たちの目に飛び込んできたのは、ぐったりとして動かない捕虜二人。血は流していないが、首元に手をやり心臓の鼓動を確認すると、二人とも事切れている。
「助けて回収すればいいのに、わざわざ殺した上で放置するだなんて……これ絶対に見せしめだよね」
「……でしょうね。我々に、魔族を捕虜にすれば容赦なくその捕虜を殺すと、そういう警告を発したのでしょう」
縄を解き、二人を静かに寝かせる。最悪に後味の悪い事になった。
「シアがいなくてよかった。あいつが見たら怒り狂っていただろう」
「うん。……遺体は王宮で弔ってもらおう。それと、村の人の事だけど……」
「今はどうしようもない。無事を祈るだけだ」
「……うん」
すっかり意気消沈のアイシャとリサさん。……俺もだな。
「……これは俺たちで解決するべき事だ。俺たちが喧嘩を売られたんだ」
「うん。私たちには人類も魔族もない。だから、喧嘩を売られたならば買うまで」
その後俺たちは一旦帰宅。時刻はまだ昼の二時だったが、それ以上動く気力を保てず、その日は終わった。




